若さを保つための物質として,女性ホルモンの存在は古くから知られていた。女性ホルモンには,卵巣から産生される性ステロイドホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの2つがあるが,それぞれ総称されているものであり,単独の化学構造物質ではない。エストロゲンと称されるものには,天然型のエストロン,エストラジオール,エストリオールのほかに,エストロゲン様物質として植物から生成されるものや,環境ホルモンと呼ばれるエストロゲンと似た作用を発揮する物質なども多数同定されている。プロゲステロンも同様で,プロゲステロン作用をもつ物質をプロゲスチンと呼ぶが,現在では200種類以上に及ぶプロゲスチンが同定されている。
エストロゲンとプロゲステロンは,月経周期や妊娠において双方のバランスが重要なホルモンであるが,プロゲステロンは女性としてのフェノタイプの獲得に必ずしも必要ではない。言い換えると,「女性らしさ」はエストロゲンが主役,「妊娠成立・維持による種の保存」はプロゲステロンが主役である。アンチエイジングの作用としては,やはりエストロゲンがその中心と考えられ,更年期障害の治療はもちろん,閉経後の心血管系疾患予防,骨粗鬆症予防,抗酸化作用,皮膚の抗加齢作用,骨盤底の尿路系疾患治療など,非常に多彩な利点が見出されてきている。しかしながら,エストロゲンは多ければ多いほどよいというわけではなく,ホルモン依存性がんや血栓症などの重篤な副作用もよく知られている。ホルモン受容体が全身に存在することからも,ホルモン補充療法 (hormone replacement therapy:HRT)は全身に多種多様な効果が期待できることは確かであるが,エストロゲン,プロゲステロンのバランスと,リスクとのバランス,2つの天秤にかけながら行うべきである。
「KEY WORDS」ホルモン補充療法(HRT),エストロゲン,プロゲステロン,タイミング仮説,ギャップタイム仮説