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総説

アルツハイマー病のサイエンス:最新の動向

The Science of Alzheimer’s Disease

新井哲明朝田隆

アンチ・エイジング医学 Vol.7 No.5, 60-66, 2011

Summary
 Alzheimer disease(AD)is the most common cause of dementia among the elderly. The pathological hallmarks of AD are senile plaques, mainly containing amyloidβ protein(Aβ), and neurofibrillary tangles, containing hyperphosphorylated tau protein, along with neuronal loss. At present, the pathogenesis of AD is still unclear, and there is no effective treatment and useful biomarkers for AD. The focus of the current review is about the recent progress in the basic research of AD. It consists of 3 subjects:new Aβ oligomer theory, a surrogate marker for Aβ42, and neuron to neuron propagation hypothesis of tau.

Key Words
●アミロイドβ蛋白 ●タウ ●オリゴマー ●バイオマーカー ●伝播

はじめに

 アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)は,記憶障害(物忘れ)に始まる進行性の認知機能低下をきたす疾患であり,認知症の原因として最も多い。AD患者の脳に起こっている病理変化は,老人斑,神経原線維変化,神経細胞脱落の3つが特徴である。患者剖検脳をホルマリンで固定後に鍍銀染色という特殊な染色を施すと,老人斑は細胞外のシミのようにみえ(図1A),神経原線維変化は細胞内の線維状の構造として観察される(図1B)。

老人斑を主に構成しているのはアミロイドβ蛋白(amyloidβ protein:Aβ)であり,神経原線維変化は微小管関連蛋白の一種であるタウであり,いずれも蛋白がその主な構成成分である。Aβは,Ⅰ型膜蛋白であるアミロイド前駆体蛋白(amyloid precursor protein:APP)が,膜に存在する2つの酵素,βセクレターゼ(β-site APP cleaving enzyme:BACE)とγセクレターゼ(presenilin:PS)により切断され,生成される。ADの病理過程は,まずAβが細胞外に凝集・沈着し,次いで神経細胞内にタウが凝集蓄積し,最終的に細胞機能が障害されて細胞死が生じると想定されている。これを「アミロイド仮説」と呼び,AD研究の中心的な考え方となっている。
 ADにおいては,このような蛋白の異常な凝集が病理過程において主要な役割を果たしており,その意味でADは脳内蛋白蓄積病ととらえることができる。同様の蛋白の異常な凝集・蓄積は,レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB),前頭側頭葉変性症,ハンチントン病,プリオン病などのAD以外の認知症疾患の多くにおいても生じており,共通の神経変性メカニズムが想定されている。したがって,このような蛋白の凝集・蓄積のメカニズムを明らかにすることが,ADを含めた多くの認知症性疾患の病態解明と診断・治療法の開発につながると考えられ,現在世界中で研究が進められている。最近,ADをはじめとした認知症疾患の病態について,次々と新しい研究結果が報告され,新たな仮説が導入されはじめている。本稿では,AD研究の主であるAβとタウを中心に,それらの最新の基礎的研究の知見とそれに基づく新たな仮説について紹介し,最近のAD研究の動向を理解する一助としたい。

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