<< 一覧に戻る

アメリカエイジング研究の現場から 研究最前線レポート

第11回 マイオカイン(筋肉由来内分泌因子)を介する運動の健康増進効果

金木正夫

アンチ・エイジング医学 Vol.7 No.3, 85, 2011

 東北地方太平洋沖地震で被災された方々に心からお見舞い申し上げます。長期にわたる避難先での生活を余儀なくされている方も少なくないかと思います。安心して暮らせる日常生活の一刻も早い回復が第一ですが,避難所などでの心身の健康維持も復興にあたっての大切な課題の一つと思われます。阪神・淡路大震災の後,高齢者の認知症が増加し,抑うつ状態による認知症の促進が原因ではないかと推測されていました。体を動かすことや軽い体操による静脈血栓(いわゆるエコノミー症候群)の予防効果はいうまでもありませんが,運動は全身的な心身の健康に役立つと考えられます。「アンチエイジングのためのエクササイズ・サイエンス」が本誌2011年2月号(7巻1号)で特集され,多くの興味深い知見が紹介されていました。今回は,少し違う視点から運動の健康増進効果のメカニズムについて最近の知見に触れたいと思います。

 運動の長寿効果については,理論的には,酵母からヒトにまで共通しているメカニズムとして,軽度のストレスがストレス耐性や長寿を惹き起こす“ホルミーシス”の枠組みの中で考えることができます。一方,近年,筋肉が運動により分泌するマイオカイン(筋肉由来内分泌因子)の健康増進効果が提唱され,注目されています。組織間のコミュニケーションが数年前からホットトピックとなり,今日では,脂肪組織や心臓ばかりでなく,骨や筋肉などを含め,すべての組織が内分泌器官としての働きを有していると考えられるようになってきました。筋肉の収縮により,インターロイキン-6(IL-6)や脳由来神経栄養因子(BDNF)が筋肉から分泌されることが知られています。IL-6には炎症性サイトカインとしての作用もありますが,運動の際に筋肉から分泌されるIL-6はインスリン感受性を改善すると考えられています。BDNFは筋肉自体の肥大にも関与していると考えられていますが,同時に,認知症やうつに対して予防的に働くことが知られています。最近,私たちは,脂肪組織でのエネルギー消費を増加させて,脂肪を減らすインターロイキン-15(IL-15)の血中濃度が運動により上昇することを認めました1)。運動自体によるエネルギー消費だけでなく,IL-15を介して筋肉周囲ならびに全身の脂肪を減少させ,メタボリックシンドロームに対する予防効果があると考えられます。さらに,IL-15には免疫能を高める作用も知られており,運動によるIL-15の増加は感染症に対する抵抗力の向上につながる可能性があります。IL-6やIL-15の血中濃度の増加は運動中と運動直後に認められ,運動後2~3時間にピークを示す血清CK値の上昇パターンとは異なっており,能動的な筋肉による分泌メカニズムの存在を示唆しています。どの程度の運動が必要なのか明確ではありませんが,10分間のジョッギングでマイオカインなどの血中濃度上昇が認められると考えてよさそうです。
 筋肉以外からも運動によってさまざまな内分泌因子が分泌されることがわかっています。代表的なものは成長ホルモン(GH)です。また,運動により脳内でのBDNFの産生・分泌が亢進し,運動後の血中BDNFの増加も脳由来のBDNFによるものだとする説もあります。ですから,血中BDNFが増加しない程度の運動でも,脳内でのBDNF産生を刺激して局所(脳内)で効いている可能性が示唆されています。
 全身的な健康における筋肉の重要性は,癌の研究からも明らかになってきました。マウスにおいて癌に伴う筋肉の減少(muscle wasting)を特異的に抑えることにより,生存率を有意に向上させることが報告2)されていますし,トレッドミルによる運動療法が癌患者の生存期間を改善したという報告もあります。以前から,加齢に伴う筋肉減少(サルコペニア)は臨床的に大きなテーマで,筋力と寿命との有意な相関を認めた臨床研究もあります。筋肉は重量や体積からみても最大の臓器であり,運動によって鍛えることが可能です。アンチエイジングのターゲットとして筋肉が今後ますます重要になってくるのではないかと考えています。被災者の方々の健康や認知症予防のためにも,軽い体操や運動が少しでも役に立てばと願っています。

文 献
1)Tamura Y, Watanabe K, Kantani T, et al:Upregulation of circulating IL-15 by treadmill running in healthy individuals:Is IL-15 an endocrine mediator of the beneficial effects of endurance exercise? Endocr J 58:211-215, 2011
2)Zhou X, Wang JL, Lu J, et al:Reversal of cancer cachexia and muscle wasting by ActRIIB antagonism leads to prolonged survival. Cell 142:531-543, 2010

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る