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アンチエイジングのバイオロジー

第6回 テロメレースとがん幹細胞

Telomerase and Cancer Stem Cell

増富健吉

アンチ・エイジング医学 Vol.7 No.3, 80-84, 2011

テロメアとテロメレース
 生命の設計図に例えられる遺伝子は,染色体の中にコンパクトに折りたたんでしまわれている。この染色体の最末端にはテロメア(ヒトの場合はTTAGGGからなる繰り返し配列)が存在し,種々の内的・外的ストレスから染色体を保護するために非常に強固な機能構造体を形成している。線上の染色体を有する酵母から哺乳動物に至るまで広く種を超えて,染色体末端に存在する機能構造体であるテロメアは,複雑な高次構造をとることで染色体の保護をしている。従来から広く受け入れられてきたモデルである,「分子時計としてのテロメア」の機能以外にも,テロメアはさまざまな生物現象に関わる情報の発信源としての重要性が受け入れられるようになってきた。一方,機能構造体であるテロメアはTRF1,TRF2,Pot1などの重要なテロメア結合タンパク質のみならず,テロメアそのものを伸張する酵素であるテロメレース複合体を含めた多くの維持因子の精巧な連携によってその構造が維持されていることが明らかとなってきた。

Key words
テロメレース,hTERT,がん幹細胞

テロメア・テロメレースとがん

 2009年のノーベル医学生理学賞は,Blackburn博士,Greider博士,Szostak博士のテロメア・テロメレースの研究に対して授与された。当初,テロメア・テロメレースの研究は,原生動物での染色体構造テロメアを維持伸長する酵素であるテロメレースという特殊な酵素に関する極めて基礎的な研究から始まった。テロメレースの発見から約25年間で多くの研究者の解析により,このテロメア・テロメレースがヒトにも存在し,がん発生と非常に深く関わっていることがわかってきた。テロメレースとがん研究がいかにして関連づけられてきたかを理解する際に,従来から広く受け入れられてきた重要な2つのモデルがある(図1)。

1つは,細胞分裂寿命を規定する分子時計としてのテロメア,すなわち「テロメア分子時計モデル」。もう1つは,がん細胞は不死化細胞であるというモデル,「テロメレースによる不死化モデル」である。正常細胞とがん細胞を比較した場合,圧倒的にがん細胞でテロメア伸長に重要なテロメレース活性が高いという事実は,前述の2つのモデルを説明するには好都合であった。すなわち,「細胞分裂寿命を規定するテロメア長を長く維持するために,がん細胞では特異的に高いレベルのテロメレース活性が認められる」という非常に明確なモデルが確立されてきた。こうして,「がん細胞にのみ存在するテロメレース」はがんの「アキレス腱」として非常に魅力的な治療標的として考えられてきた。しかしながら,前述した2つのモデルには合致しない観察事項もあった。それは,「がん細胞株ではテロメレース活性が存在するにもかかわらずテロメア長は短い」ということと,「一部の正常細胞(とりわけ幹細胞などの未分化な細胞)でもテロメレース活性が検出される」ということであった。テロメレースとがん治療を考える際は,こうした「例外」も都合よく解釈されてきた。すなわち,「たとえ幹細胞などの正常細胞でテロメレース活性が存在するとしても,正常細胞では長いテロメアが存在するためテロメレース阻害薬の影響が出にくい,一方で,テロメレースを阻害した際には比較的短いテロメア長を有するがん細胞だけが選択的に治療標的となる」と考えられてきた1)。事実,テロメレースそのものを分子標的としたがん治療が欧米では臨床研究に入るなど,着実にその成果をあげていることに疑いの余地はない。しかし,この「がんのアキレス腱」としてのテロメレースを標的とした治療の中で考えなければならない改善点があるとすれば,その効果の遅発性である。すなわち,「不死化をつかさどるテロメア長を維持するテロメレースを標的としたがん治療」であるならば,「テロメレースを阻害することによる効果を期待するまでにテロメア短小化に要する時間がかかる」ということが克服すべき弱点としてあげられてきた。研究が進むにつれ,がん研究におけるテロメアとテロメレースの関係は「がんのアキレス腱」であると同時に,「がん治療の弱点」であるという矛盾が認識されるようになってきた。

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