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アディポネクチンとアンチエイジング

1 アディポサイトカインとアディポネクチン

Adipocytokines and Adiponectin

下村伊一郎

アンチ・エイジング医学 Vol.7 No.3, 16-20, 2011

Summary
 We classified intra-abdominal visceral-(VFO) and subcutaneous-(SFO) fat type obesity and developed the concept of visceral fat syndrome / metabolic syndrome. We showed that adipose tissue was an endocrine organ by human cDNA project and conceptualized such factors as adipocytokines. In the course of analysis of adipocytokines, we identified adiponcetin from human fat cDNA. So far, we and others have shown that hypoadiponectinemia in visceral fat accumulation stands upstream of the pathophysiology in metabolic syndrome, chronic organ diseases and some types of cancers. We assume that adiponectin associates with many factors related to organ injury, like ECM, C1q, LPS, TNF-α, and TGF-β and exerts anti-inflammatory and tissue-repairing effects. Therefore, decrease of adiponectin should accelerate aging-related diseases, and becomes a therapeutic target.

Key Words
●アディポサイトカイン ●アディポネクチン ●臓器保護 ●臓器障害 ●アンチエイジング

はじめに

 肥満が種々の健康障害と連関し,寿命の短縮に寄与することは,多くの疫学研究が観察的に示してきた。しかし,その物質的基盤については長い間不明であった。
 我々の教室では,欧米人ほどではない程度の肥満度で肥満関連疾患が発症する日本人肥満症患者を臨床的にきめ細かく観察する中で,内臓脂肪蓄積の重要性を見い出し,1980年代に内臓脂肪型肥満/皮下脂肪型肥満の考え方を示した1)。この考え方は非肥満者にも当てはまり,すなわち,「肥満・非肥満にかかわらず,内臓脂肪の蓄積が糖・脂質代謝異常,血圧異常を介して動脈硬化症を引き起こす」という内臓脂肪症候群の概念の提唱に至り2),これが現在のメタボリックシンドロームの考え方の基本となった。
 我々はこのような概念を構築してきた教室において,それでは「脂肪組織はそもそも何をしているのか?」「内臓脂肪と皮下脂肪の違いは何か?」というprimitiveで本質的な質問への答えを常に希求していた。まさしくそのようなとき,1992年6月19日,当時我々の教室の垂井清一郎教授が主催された第24回日本動脈硬化学会(於・マイドーム大阪)において,大阪大学細胞生体工学センター長の松原謙一先生が特別講演「ヒト・ゲノム解析計画」をお話しになられた。ヒトの種々の臓器の発現遺伝子を解析して比較することで,臓器の特性を発現遺伝子レベルで解明するというプロジェクトであった。この特別講演を契機として,松原グループとの共同研究が開始された。
 具体的には,ヒト内臓脂肪組織と皮下脂肪組織からmRNAを抽出してcDNAを作製し,松原研で大久保公策博士らにより確立されたベクターに挿入することで,mRNAの構成を忠実に反映したクローン構成をもつライブラリーを網羅的に昼夜シーケンスを行うというlabor workであった。しかし,このBody Mapping法と名付けられた手法により次第に得られた知見は,我々の予想の範囲を超えた不思議であり,excitingなものであった。つまり,メタボリックシンドロームの分子基盤である分泌臓器としての脂肪組織の意義(アディポサイトカイン概念)の構築と,そしてその中心的役割を果たすヒトアディポネクチン遺伝子の発見という成果を生み出した。
 本稿では,アディポサイトカイン概念,アディポネクチン遺伝子の発見に至るまでのプロセスと,アンチエイジングに関連して現在我々が考えるアディポネクチンの生理病態的意義について述べる。

アディポサイトカイン概念─Body Mapping法による内分泌臓器としての脂肪組織の意義づけ─

 Body Mappingとは,臓器特異的な遺伝子を発現体の臓器にmapしていくという意味で名付けられたものである3)。ヒト各種細胞臓器より作製したmRNAの構成を忠実に反映したクローン構成をもつライブラリー(3'-directed cDNAライブラリー)から無作為にcDNAの配列を決定し,①各種細胞臓器における遺伝子発現の全貌(gene expression profile)を掴み,②相互に比較することで細胞臓器特異的な遺伝子を収集する(body mapping)という柱から成り立っていた。1990年から始まった本研究は,高速シーケンシングシステムとデータ解析システムを用いて,ヒトの60以上の臓器の細胞を解析し,多くのヒト遺伝子の部分配列を決定した。このデータを臓器横断的に統合したボディーマップデータベースは世界で最初の遺伝子発現情報データベースとして知られていた。我々は日本国内におけるヒトゲノムプロジェクトの一環として,1992年よりヒト脂肪組織に焦点を当てて,Body Mapping法を用いた解析を行った。
 皮下脂肪組織,内臓脂肪組織,それぞれ数千個に及ぶ発現遺伝子解析を行った結果,皮下脂肪では約20%,内臓脂肪では約30%の発現遺伝子が,ホルモン,サイトカイン,増殖因子といった分泌蛋白をコードしていることが明らかとなった4)。つまり,生体で15~30%の容量を占める脂肪組織が生体最大の内分泌臓器であることが示され,そしてこのような脂肪組織由来内分泌因子を総称してアディポサイトカイン(adipocytokine)と概念づけた4)5)。特に内臓脂肪組織では核蛋白やエネルギー産生に関与する遺伝子の割合も多く,皮下脂肪組織ではハウスキーピング遺伝子の多いリボゾーム蛋白や細胞骨格蛋白が多くを占めた。すなわち,発現遺伝子レベルで内臓脂肪は皮下脂肪に比べてより活性の高い組織と考えられた。また,内臓脂肪においてより有意に発現していた分泌遺伝子のうち,後天性血栓形成傾向の主役とされるPAI-1(Plasminogen activator inhibitor 1)については血中PAI-1値が内臓脂肪面積と正相関を示すことも明らかとなった5)。アディポサイトカインの考え方ならびに意義については他の蛋白でも示された。当初のSpiegelmanらによる肥満脂肪組織炎症細胞からのTNF-αが全身のインスリン抵抗性や糖尿病に関わるという仕事6),Friedmanらにより発見されたレプチンが摂食抑制効果とともに全身性脂肪萎縮症において脂肪由来インスリン感受性増強ホルモンの作用を有すること7)8),肥満脂肪組織への浸潤炎症細胞が種々の炎症惹起性因子を分泌して病態に関わること9),などが示されてきている。

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