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100歳まで生きるための本100選

『火の鳥2・未来編』

貴志和生

アンチ・エイジング医学 Vol.7 No.2, 100-101, 2011

第33選
『火の鳥2・未来編』
手塚 治虫 著
(朝日新聞出版,284ページ,定価1,000円+税)

 天文学者は長生きだという。その理由は,常日頃,宇宙の時間の流れに身を置いていると,人間の生きている時間があまりに短いから,つい長生きしてしまうそうな。実際に,統計をとったわけでもあるまいが。だが,長生きは体が健康というだけでなく,生きる意欲からも影響を受けている。天文学的な時間の流れの中で物事を考えて,もともと長く生きて当然という人と,ここまで生きれば十分という人との間で,人生の長さに解離ができて当然であろう。
 実際に天文学者にならなくとも,天文学的な時間と空間に比べて人が生きるわずかな一面を対比してみることができる,『火の鳥』はそんな本である。手塚治虫氏のライフワークのマンガである。
 私は中学2年生のときに『火の鳥』に出会った。再生医療や老化の研究がまだほとんどなかった今から三十数年前,『火の鳥』の中ではすでにクローン人間が登場していた。登場する火の鳥は決して主人公ではなく,各巻ごとに過去の話と未来の話が交互に織り成されている。すべての話の中で時間と空間を超越した存在が火の鳥である。火の鳥の血を飲めば不老不死になる。このため,過去の人はこれを血眼になって追い求め,未来の人はこれを恐ろしいと考える。この対比が面白い。
 私は,火の鳥を通じて不老不死に関すること,永遠とは何か,なぜ生命は死ななければいけないのか,を考えるようになり,医学の道に入ったといっても過言ではない。今でも,皮膚の再生や老化の研究を行っているのもこの影響である。
 『火の鳥』第2巻の未来編は,特に宇宙的な時間を感じることができる。地球と人類がある時期をピークにどんどん退廃してくる。地表は荒れ果てて,住めない状態になってしまったので,人類は5つの巨大地下都市に集まって生活している。すべての都市は,人工頭脳をもった巨大コンピューターの指導・管理の下に暮らしが行われている。主人公の山野辺マサトは,人間の若い娘に変身したムーピーという宇宙生命体タマミと恋仲であるが,巨大コンピューターがムーピー殺しを指令するので,タマミとともに地表に脱出する。猛吹雪の中で死にそうになっていたところ,火の鳥と変人の猿田博士に助けられ,猿田博士の所有する地上のドームに収容される。その後,マサトの処遇を巡り,2つの巨大都市の人工頭脳が大喧嘩を始めて核戦争が起きるのだが,なぜか他の3都市でも同時に核戦争が起こり,一瞬にして猿田博士のドーム以外の地球上のすべての生物は死滅してしまう。火の鳥はマサトに生命の復活を託し,不老不死の体にする。やがて猿田博士も死に,タマミも死に,誰一人いなくなった地球で,死のうとしても死ねなくなったマサトは,ロボットを作り,人工生物を作り,仲間を得ようとするのだがどうやってもうまくいかない。うたたねの中で,火の鳥が自分に課したことは人工の生命体を作ることではなく,生命の発生を見届けることだと知り,アミノ酸の塊を海に注ぎ,生命の誕生を延々と見守る創造主となる。やがて単細胞生物が生まれ,多細胞生物になり,恐竜が生まれたと思ったら,知能をもったナメクジが地上を支配しはじめ,やがてそれも滅びてゆく。その後,ようやく誕生した思った人類はやはり前の人類と同じ歩みを始めている。
 50億年生き続けて,マサトの体は知らないうちに風化してしまって存在していないが,やはり生きて,そして火の鳥の一部となる。
 生きることと死ぬこと,恋愛と孤独,憎しみと愛情が糸を紡ぐように重なり合って,見事な対比を醸しだしている。『火の鳥2・未来編』を読めば50億年という時間の感覚を味わうことができ,その中で100年というのがいかに短いものかを味わうことができる。
 長生きをするためには,時間を飛び越えたものが勝ちである。

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