朝比奈(司会) 本日は「アトピー性皮膚炎と食物アレルギー」をテーマに,皮膚科から『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018』の策定において委員長を務められた加藤則人先生と,小児科から『食物アレルギー診療の手引き』の改定作業にお忙しい海老澤元宏先生をお招きしました.アレルギーの領域の第一人者であるお二人に,忌憚のないご意見を伺いたいと思っています.
われわれが医師になった頃は,アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)と食物アレルギーの関係について,皮膚科と小児科の間で討論が繰り返されていました.まずはその当時の状況について,少しご説明いただけますか.
海老澤 1990年前後でしょうか,日本アレルギー学会のシンポジウムなどでは,このテーマで小児科と皮膚科の先生が論争されていましたが,あまり議論がかみ合っていないなと感じていました.
小児期のADのlate onset(遅発型)では食物アレルギーが合併するようなことはほとんどありませんが,early onset(早発型)では食物アレルギーの合併率が非常に高いことが,欧州のコホート研究などでもわかっています1).ですから,小児科と皮膚科では診ている年齢が違うことが,背景にあったのだと思います.
また,1980年代から,IgE抗体の特異的抗体価が広く臨床で測定できるようになり,アレルギーを研究していた小児科医が測り始めたところ,さまざまな原因に対して陽性になっていることがわかってきました.しかし,それにどう対応したらよいかは当時はまだわかっておらず,陽性だから念のため除去しておきましょうと言われる医師も少なくありませんでした.小児科では極端な食物除去に走るグループもあり,患児にとっても保護者にとっても大変な負担になっていました.
朝比奈 加藤先生は,当時を振り返っていかがですか.
加藤 医師ならば,病気を原因から治したいと誰もが思うでしょう.当時は,ADを治したいという患者さんや保護者の希望があり,その病気の「原因」をアレルギーあるいはアレルゲンに求めたのだと思います.特異的IgE抗体が測れるようになり,子どもは多くの食べ物に,成人はダニに陽性であることがわかりました.それなら子どもは陽性に出た食べ物を除去すれば,成人はダニ対策をすれば,ADが治るのではないかということになり,極端な話ですが,クリーンルームに入ればアトピーが改善すると言われたこともありました.
小児において,食物が悪化因子になっている例は,少なくはないと思います.その何割かの患児では,食物アレルギーがADの悪化因子になると思いますが,あの当時は悪化因子ではなく,原因だとして論争がなされていたので,極端な除去食療法やダニ対策に突き進んでしまったのではないかと考えています.