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皮膚アレルギー:この10年を振り返る

蕁麻疹:この10年を振り返って

Urticaria : A View of the decade

秀道広

皮膚アレルギーフロンティア Vol.9 No.3, 25-29, 2011

要 約
 この10年のあいだに国内外で複数のガイドラインが作成され,蕁麻疹の病型分類がほぼ確立した.わが国では2005年に最初のガイドラインが作成され,2011年にはEBMに基づく形に改訂された.Ⅰ型アレルギーでは口腔アレルギー症候群(OAS),食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)における感作と症状出現の機序の解明が進み,これらに対するアドレナリンの自己注射も認められるようになった.FDEIAでは,石鹸などに含まれる加水分解小麦という新しい感作源が登場し,コリン性蕁麻疹では汗アレルギーを含む複数の病態があることも明らかになった.また,特発性の蕁麻疹で凝固系が亢進し,病勢把握や治療にも反映され得ることが明らかにされつつある.

KEY WORDS
ガイドライン/蕁麻疹/Ⅰ型アレルギー/コリン性蕁麻疹/凝固系

ガイドライン
特定の臨床状況のもとで,適切な判断や決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書.evidence-based medicine(EBM)の手順に則って作成することが推奨されている.

Ⅰ型アレルギー
外来抗原がIgE抗体を介してマスト細胞を活性化し,ヒスタミンなどの活性物質を組織内に放出することで引き起こされる有害反応.症状が起こるためには特定抗原に対するIgEが産生されていることが必要.

はじめに

 蕁麻疹の診療では,今なお対応に苦慮する場面は多く,この10年のあいだで蕁麻疹全体をカバーする診断,および検査についての発展は乏しい.しかし,過去数年のあいだに国内外から蕁麻疹に関するいくつものガイドラインが発表され,蕁麻疹の病型分類が整理されて,まがりなりにも治療のアルゴリズムが提唱されたことの意義は大きい.また,個々の病型についての新たな知見やトピックス,基本的治療薬の変化などでは,やはり10年前と現在では少なからず違いがある.そこで本稿では,蕁麻疹に関するこの10年の変化をガイドライン,概念,疫学,病態,検査・診断,治療の視点で振り返ってみたい.

1 ガイドライン

 蕁麻疹の診療に関するガイドラインとしては,1997年に欧州のアレルギー・臨床免疫学会の委員会から物理性蕁麻疹の分類に関するガイドラインが,また2000年には米国のアレルギー関連学会の合同タスクフォースにより急性蕁麻疹と慢性蕁麻疹に限定的なガイドラインが発表されている.しかし,蕁麻疹全体の診断から治療までを包括的に述べたガイドラインとしては,2001年の英国皮膚科学会によるガイドラインを嚆矢とする1).わが国では,日本皮膚科学会に設置された蕁麻疹・血管性浮腫のガイドライン作成委員会により,2005年4月に最初のガイドラインが発表された2).その後,欧州,英国免疫・臨床免疫学会,イタリアからもガイドラインが発表され,2009年に欧州のメンバーが中心になって改訂されたガイドラインには世界アレルギー機構(WAO)も名を連ねる3).その後,わが国では2007年に厚生労働科学研究班によりプライマリケア版のガイドラインが,2010年に日本アレルギー学会により非専門医を対象としたガイドラインが発表されたが,基本的には2005年の日本皮膚科学会のガイドラインの内容を踏襲し,その一部を簡略化したものである1).これらのガイドラインの果たした役割のなかでもとくに重要な点は,治療の視点から病型を分類し,特発性の蕁麻疹の概念を確立したことと,診断から治療までのアルゴリズムを示したことにある(表1).

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