<< 一覧に戻る

皮膚アレルギー:この10年を振り返る

アトピー性皮膚炎:この10年を振り返って

Atopic dermatitis : Topics in the decade

中村晃一郎

皮膚アレルギーフロンティア Vol.9 No.3, 13-18, 2011

要 約
 アトピー性皮膚炎(AD)の診療では,かつてステロイド忌避による治療の混乱や不適切な民間療法などがみられた時期があった.日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎の治療ガイドライン(2000年,2004年),さらに診断法も含めた診療ガイドライン(2008年,2009年)が作成され,標準治療の指針が整備された.その骨子は,急性増悪期においてステロイド外用療法が主体であること,長期の寛解維持を目指すプロアクティブ治療の有効性が示されたこと,長期維持においてスキンケアの有効性が明らかになったことなどである.また,この間に新しい免疫調節薬による外用療法,かゆみのコントロールとしての抗ヒスタミン薬に対するエビデンスが整備された.重症例における免疫調節薬の内服療法,補助療法としての光線療法,心身医学療法も新たな治療として組み入れられた.また,患者教育や治療ゴールの説明の重要性が再確認された.
 10年間を振り返って,ガイドラインに示されるADの標準治療の基盤が整ったこと,また遺伝学,免疫学的に病態の解明が進んだことにより,AD治療の今後のさらなる前進が期待される.

KEY WORDS
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン/ステロイド外用療法/プロアクティブ治療/抗ヒスタミン薬/タクロリムス軟膏

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン
アトピー性皮膚炎診療に対するガイドラインが定められ,治療指針に一定の見解が得られるようになり,治療レベルの向上,日常生活における患者QOLも飛躍的に進歩した.

プロアクティブ治療
ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏が,急性増悪期や寛解期における薬物療法の外用療法の第一選択薬であり,寛解期において予防的に使用するプロアクティブ治療が,皮膚症状の長期寛解維持,再燃の防止に有用である.

はじめに

 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)は,19世紀にBesnierによってPrurigo Besnierとして提唱された疾患であり,その後Sulzbergerがatopic dermatitisとして命名した.ADはatopic eczema-dermatitis syndromeという呼称や,内因性・外因性ADという考え方も提唱されるなど,均一な疾患ではなく,ひとつの概念に組み入れられない症候群であるととらえられる.
 2000年に「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」が初めて作成され,ステロイド外用療法,タクロリムス外用療法を中心に,スキンケア,内服療法,光線療法,心身療法が標準治療として組み入れられた1).以降,ステロイド外用薬を中心とした治療法が広く浸透し,これらの標準治療はEBMから評価された2).ADの診療ガイドライン,エビデンスからみた標準治療,病態解析についての最近の知見を含めて,最近10年間での進歩に関して解説したい.

1 アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインと最近の治療トピックス

 90年代まではADの治療に関しては,時にステロイド忌避を主張する民間療法や,いわゆるアトピービジネスによる悪化例が多数認められた.2000年にわが国で「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」が初めて作成され,さらに改訂版が示された1-4).標準治療の基本は,的確な診断,患者教育,薬物療法としての外用療法(ステロイド外用療法),スキンケア,補助療法を中心に整備され,EBMからも評価が行われた5)(図1).

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る