皮膚アレルギー:この10年を振り返る
基礎アレルギー:この10年を振り返って
Recent advance in cutaneous allergy
皮膚アレルギーフロンティア Vol.9 No.3, 7-11, 2011
要 約
約10年前,科学者のあいだで「免疫学の大切な課題はやり尽くされてしまった」という風潮があった.しかしながらこの間,Th17や制御性T細胞などの新たなT細胞サブセットの同定,皮膚樹状細胞サブセットの新たな役割の解明,自然免疫という新学問領域の台頭,好塩基球の新規役割の解明,形質細胞様樹状細胞などの新規免疫細胞サブセットの同定など多数の重要な発見がなされた.また,免疫細胞の動態をライブイメージングすることも可能となった.免疫反応を理解するうえでの重要な新規ツールの開発に伴い,基礎研究の成果が皮膚免疫・アレルギー学の発展に直結し,現在は生物学的製剤を用いた分子標的治療法までもが臨床応用される時代となった.
KEY WORDS
T細胞/樹状細胞/自然免疫/ライブイメージング/生物学的製剤
ライブイメージング
二光子励起レーザー顕微鏡を用いることにより約300~400μmの深度の構造物まで励起が可能となる.これはマウスでは皮膚表面から皮下脂肪組織まで十分にカバーできる深達度である.
生物学的製剤
生物学的製剤とは,生物が産生した蛋白質を利用して作られた薬剤である.現在,tumor necrosis factor(TNF)α,IL-6,p40を標的とした中和抗体が尋常性乾癬の治療に用いられている.生物学的製剤の特徴は,標的に特異的に作用することである.
はじめに
21世紀になってから約10年が経過する.筆者が大学院に入学したのが1999年であるから,その頃からの基礎アレルギーの変遷が今回のテーマと合致することになる.当時は,遺伝子改変マウスの解析がNatureなどのトップジャーナルの紙面を賑わせていた.しかし現在は遺伝子欠損マウスの解析は当然のように要求される時代であり,マイクロアレイ,siRNA,システムバイオロジー,iPS等の発見など,毎年のように研究の流行が変化してきた.これらの研究の潮流を網羅することは,この紙面ではとても収まりきれない.したがって,以下に筆者が関与してきた内容を中心にこの10年間を振り返ってみたい.
1 遺伝子改変マウスの作製
現在の免疫・アレルギー学は,マウスを用いた研究とともに進んでいるといっても過言ではない.その大きな契機となったのが,遺伝子改変技術の進歩であろう.10年前にはごく限られた基礎の研究室でしか作製できなかったが,現在ではある程度の遺伝子操作の技術を有していれば臨床医学の教室でも遺伝子改変マウスの作製は可能であり,代行してくれる受託業者も多数存在する.
当初は遺伝子欠損マウスといっても,マウスの全細胞で遺伝子の機能を欠損させるマウスしか作製できなかったが,現在は,ある特定の細胞でのみ標的遺伝子を欠損させることや,ジフテリアトキシン毒素などを用いて特定の細胞をあるタイミングにおいて欠損させること,さらには,ある細胞のある遺伝子産物の発現のみを制御可能なマウスも作製可能である.これらのマウスを疾患モデルなどに適応すると,詳細な遺伝子の機能を解析することが可能であり,免疫・アレルギー学の発展への貢献は多大である.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。