ADモデル
遺伝子操作ADモデル:サイトカイントランスジェニックマウス;発症メカニズムと治療評価
Engineered atopic dermatitis model, cytokine transgenic mice:the occurrence mechanism and evaluation of treatment
皮膚アレルギーフロンティア Vol.9 No.1, 19-23, 2011
要 約
ア卜ピー性皮膚炎(AD)のモデルマウスは自然発症型のものと遺伝子改変がなされたものに大きく分かれる.このうち本項では個々のサイトカイントランスジェニックマウスについての特徴を述べる.自然発症型のADモデルやアレルゲンを負荷したADモデルではヒトと同様に抗原に対する特異的IgEを介した外因性ADになりやすいが,サイトカイントランスジェニックマウスでは特異的IgEを介さない内因性のADに類似した病態をとる.著明な炎症細胞浸潤を伴う皮膚炎や高IgE血症がみられる場合も多い.サイトカイントランスジェニックADモデルが,すべてヒトのADの条件を備えることは不可能のため,病態解明や薬剤開発を行う際にはおのおののマウスの特異性を考慮し評価する項目にターゲットをしぼり,用いるモデルを選択したい.
KEY WORDS
ア卜ピ一性皮膚炎/サイトカイン/トランスジェニックマウス
アトピー性皮膚炎
好酸球の増加と特異的IgEが検出される外因性のADと,特異抗体がみられない内因性ADに分けられる.臨床では外因性と内因性の要素が複雑に混在しており,背景には表皮細胞由来のIL-I8がADの形成にかかわっている.
サイトカイン
免疫システムの細胞が分泌する蛋白質で,それに対する受容体をもつ細胞に情報伝達を行い,細胞の増殖・分化・機能発現を行う.とくに免疫・炎症に関係したものが多い.免疫の4-wayバランスにおいても重要な役割を演じる.
はじめに
Th2疾患に分類されるアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis;AD)は,鼻炎,喘息,結膜炎など一連のアレルギー性疾患の既往と家族歴をもつことが多く,そこに外因性の環境抗原に対する過敏症を合併したために発症・増悪する.好酸球増多と高IgE血症を伴うことも多い.抗原・アレルゲンとマスト細胞あるいは好塩基球上のFcεRに結合したIgE抗体の架橋の結果,好塩基球とマスト細胞が活性化され,IL-4,IL-5やIL-13などのTh2サイトカインとヒスタミン,セロトニンなどのケミカルメディエーターの生成が増加する.好塩基球とマスト細胞の活性化には抗原特異的IgEが重要な役割を果たす.ADは末梢血好酸球の増加が認められ,また血清IgE値はある程度高く,環境抗原に特異的なIgEが検出される外因性のADと,明らかな特異抗体がみられない内因性ADに分けられることが多い.実際の臨床では,IgEの著明な上昇が認められ,抗原特異的なIgEだけでは説明がつかない症例など外因性と内因性の因子が複雑に混在しており,その背景にはアレルゲン・IgEを介した炎症のほかに,表皮細胞の破壊に伴い放出されるIL-18による抗原非特異的経路がADの形成に深くかかわっている.これらの誘導には角層構成蛋白フィラグリンの遺伝子異常,黄色ブドウ球菌感染や搔破なども関与している.
これらすべての事項を満たすモデルは存在しないが,ADの症状に似たモデルとして種々の系統が報告されている.大きく分けると,NC/Nga,DS-Nhなどの自然発症型のマウスと,サイトカイントランスジェニックマウスなどの遺伝子改変マウスである.本項ではとくにサイトカインの遺伝子操作によりADに特徴的な所見を生じるマウスを中心に述べる.これらはそれぞれ一長一短があり,ADモデルとして応用する際にはおのおののマウスのもつ特徴を理解し,使用目的にあった利用が必要となる.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。