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シリーズ スポーツ医学

第30回 トップメディカルドクターにきく~体操~

清水卓也

Arthritis―運動器疾患と炎症― Vol.11 No.2, 50-55, 2013

 体操競技は一般人が真似ることができないような動作パターンが多用されるため,神経系が発達する幼少期からのトレーニングが必要な種目である.また上肢を荷重に使用するため,手関節などの痛みを伴いやすく,選手や指導者がこれらの症状は当然として受け止めてしまう傾向がある.本稿では,筆者の体操競技選手の診療の経験と,体操競技に関する傷害の文献などから体操競技で生じる外傷,障害の特徴を概説する.

はじめに

 体操競技は,男子は床・鞍馬・つり輪・跳馬・平行棒・鉄棒の6種目,女子は跳馬・段違い平行棒・平均台・床の4種目の演技実施で点数を競う競技であり,おもに支持系,懸垂系,跳躍系の運動で構成される.とくに回転系の技は,モーメント長が回転速度に影響するため,身長が低いほうが有利である.また上肢で体重を支持する運動は他競技と異なっており,スポーツ傷害の機転となり得る.さらに体操競技はきわめて特殊な動きが必要であり,とくに神経系の発達する幼少時からのトレーニングが行われる.とくに成長加速期の時期を中心として,成長軟骨への負荷が増大することによる,体操競技に特有の骨端線障害がみられる.

体操競技の外傷・障害の疫学

 スポーツ外来受診者診療録から,体操競技の傷害発生を後ろ向きに検討した道永らの1997年の報告1)によると,男子は上肢傷害が46%,下肢傷害が38%であるのに対して,女子は上肢傷害24%,下肢傷害56%で,男子には上肢傷害,女子には下肢傷害が多い傾向を示したとしている.また外傷と障害の比率では,男子が外傷28%,障害72%に対して,女子は外傷55%,障害45%で,男子には障害が多く,女子には外傷が多かったとしている.この報告で,手術例は88例であったが,女子の前十字靱帯(ACL)損傷18例,男子アキレス腱断裂8例,女子の膝半月損傷8例,男子の足関節impingement exostosis 7例などとなっている.以上から,女子では下肢外傷,男子では上肢障害が多いといえる.
 Injury Surveillance System (ISS)による大学生レベルの15競技を解析した報告2)では,足関節捻挫の発生率は15競技の平均で0.83/10,000Athlete Exposures(以下AE)に対して,女子体操競技では1.05/10,000AEと有意に高い発生率を示している.また膝前十字靱帯損傷の発生率は15競技の平均で0.15/10,000AEに対し,女子体操競技で0.33/10,000AEと有意に高い発生率を示している.体操は競技動作で対人プレーのようなコンタクトによる不確定要素がないにもかかわらず,従来より前十字靱帯損傷が問題となっている球技の女子バスケットボール,女子サッカーよりも高い値を示している.
 合衆国女子体操の強化選手を1年にわたって前向きに観察した報告3)では(表1),急性発症は足関節が最も多く,次いで大腿,膝関節,指となっている.

特徴的なのは手関節,腰部については慢性発症が大部分である.また急性発症が多い膝関節でも倍以上の慢性発症がみられることである.また肩関節傷害が少ないのは女子の特徴である.
 オーストラリアの高ランキングの女子体操選手の報告4)では当初は162名のコホートを設定したが,18ヵ月の追跡期間で88名が競技から引退したという.このことからも,体操競技においてスポーツ傷害のマネジメントは重要である.

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