2012年11月9~14日まで,ワシントンDCにおいて米国リウマチ学会(ACR)が開催され,10~13日まで参加させていただきました.行きの便でニューヨーク乗り換えをしたところ,ワシントンの空港でロストバゲージとなってしまい,先行き不安な出だしとなりました.発表用のポスターもロストしてしまい途方にくれましたが,幸いにもその夜に荷物がホテルに届き,大事には至りませんでした.


 ワシントンの気候は最高気温が10度くらいの時期だったのですが,たまたま12日までは暖かい陽気となり,とても過ごしやすかったです.犯罪多発都市と聞いていたので多少警戒していましたが,昼間は普通の観光都市兼官庁街でしたし,夜の地下鉄でも人気さえあれば問題となることはありませんでした.会場となったワシントンコンベンションセンターは非常に大きく,3ブロックの広さがあり,会場内で簡単に迷子になれるほどでした.



 今回のACRではトファシチニブの追加の結果などはありましたが,ここ数年のような誰もが注目するような内容はあまりなかったように感じました.関節リウマチに関しては新規薬剤としてトファシチニブ以外のJAK阻害薬,Syk阻害薬,PDE-4阻害薬,Btk阻害薬,PI3K阻害薬,その他チロシンキナーゼ阻害薬などとさまざまな低分子化合物薬が開発中で,臨床試験の結果がいくつか報告されていましたが,先行薬であるトファシチニブを超えるほどのインパクトはなさそうでした.ポスター発表では,強皮症の新しい予備分類基準や強皮症に対する造血幹細胞移植の臨床試験(ASTIS)の約30ヵ月までの結果などが示されており,今後の展開が気になります.

 いつもは内科という立場で,あまり変形性関節症(OA)に関して積極的にはかかわらないのですが,OAに関する発表もかなりありました.SEKOIAであったり,ARRY-797臨床試験であったり,OAに対する薬物治療も少しずつ始まっていることを実感できました.

 基礎の内容では,大阪大学の菊田順一先生がPlenary Sessionに選ばれており,破骨細胞が2種類存在することをイメージング技術を使って示しており,非常にattractiveな内容でした.その他Year in ReviewではGWAS,T細胞サブセット,インフラマソーム,自然免疫などといったものが取り上げられていました.

 個人的にはポスター発表が最も印象に残っています.初めてのポスター発表が海外学会という緊張する状況でしたが,海外からの方に多く足を止めていただき,「面白いね」という感想ももらいました.内容に関する質問には適当に単語を並べて答えましたが,結果の解釈になるとなかなか答えることが難しく,英語の勉強は必須だと感じました.内容は初発関節リウマチではメトトレキサート治療で血中IL-6が低下するが,十分なIL-6低下がみられなかった症例ほど関節破壊が進みやすかった,というものです.論文にまとめて投稿したところだったのですが,出国前にrejectされたばかりでしたので,興味を持ってもらえることがとてもうれしく感じました.

 ワシントンは観光名所も多く,到着日の半日を観光に当てようかと考えていたら,前述のロストバゲージで動揺してしまい,ほとんど外に出られませんでした.

 今回のACRで学んだ最も大切なことは,発表用のポスターは機内持ち込みにする,ということでした.今後も何かしらの発表ができるように日々努力していこうと思います.


慶應義塾大学医学部リウマチ内科

仁科 直 Nishina Naoshi