―聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リウマチ・膠原病内科の沿革についてお聞かせください.

 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院(病床数518床)は,横浜市の地域中核病院として昭和62年5月に開院いたしました.リウマチ・膠原病領域は,開院当時から総合診療内科が診療を担当していましたが,平成14年にリウマチ・膠原病内科が開設されました.私は平成21年度に当院に赴任しました.当科のスタッフは全員,聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科に所属しています.


―関節リウマチ(RA)診療の現状についてお聞かせください.

 現在当科には,関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)と膠原病の患者さんが合わせて月に1,300名ほど来院されますが,そのうち約7割はRAの患者さんです.

 当院は大学病院ですが,地域のかかりつけ医と連携して,地域の方々に継続性のある適切な医療を提供することを重視しており,平成22年には地域医療支援病院として承認されました.日常診療は地域の先生に,より専門的な治療が必要な場合には当院で行うという分担制を特徴としています.RAのように診断や治療のめざましい発展がある分野では,この連携ネットワークを十二分に発揮できると考えています.

 当科では困っている患者さんの診療を優先するため,初診予約制はとらず,診療患者さんに制限を設けないスタイルを一貫しています.これは日本で昔からリウマチ医の諸先輩方が啓発し,世界的にもようやく当たり前となった考え方,「関節リウマチは早く診断をつけ,治療を開始する」ということを実践するためです.近年,地域中核病院の一部で安易な受診を回避させる傾向がありますが,このスタイルをリウマチ診療に当てはめることには疑問が残ります.早期診断,早期治療の原則に反するのはもちろんのこと,副作用などへの対応が重要な治療の流れのなかでは適当ではないと思います.患者さんのためには,「専門医が遠い存在ではない」日本の医療の良さを発揮させるべきだと考えています.



―RA診療で実践されているワークシートについてお聞かせください.

 当科では通常のカルテとは別に,患者さんの臨床的特徴や治療経過を実際に診察した医師が入力してワークシートを作成して,RA診療に活かしています.臨床試験は前向き試験が一番良いのですが,限られた患者さんしか母集団になり得ませんし,結果が出るまでにかなりの時間がかかります.しかし,その結果が出るまで治療を待つわけにはいきません.一方で,経験や勘のみに頼る意思決定は通用しませんので,自らが行ってきた診療行為を振り返ることで判断材料のひとつとするわけです.当科の診療ワークシートはあくまでも後ろ向き研究の疫学調査ですが,大まかな傾向はわかりますし,少しでも早く患者さんにフィードバックすることができます.


―院内での情報共有はどのように取られていますか.

 症例カンファレンスは毎日朝,晩2回行っています.当科では病棟担当医だけでなく,部長も診察をして情報収集を行います.とくに膠原病はまったく同じ症状の患者さんはいませんから,丹念に患者さんの訴えを汲み取り,丁寧に所見をとることが重要だと考えています.


―RA診療における病診連携の新しい試みについてお聞かせください.

 われわれが目指す病診連携は「双方向型リウマチ診療」です(図1).



従来からの抗リウマチ薬や生物学的製剤を用いて寛解導入後,抗リウマチ薬の投与のみで寛解維持ができるようになった時点で,すみやかにかかりつけ医に戻っていただきます.つまり近隣の先生から診断や治療の依頼,生物学的製剤などのスクリーニング,余病発症時の対応を請け負います.その患者さんたちを寛解導入し,寛解期関節リウマチ治療を近隣の先生にお願いするわけです.

 本来ならば,初期の治療方針が決まった時点で近隣のクリニックにお任せすべきでしょうが,残念ながら薬剤量調整のタイミング,副作用のチェックや漫然と抗リウマチ薬や生物学的製剤投与が続けられるケースも多くみられます.とくに生物学的製剤を用いた治療では,私は導入した生物学的製剤を休薬させることが,今後のリウマチ専門医に求められるスキルだと思っています.当科の疫学調査では,導入初期に医師がさまざまな工夫をして,より早く疾患活動性を改善させることが,生物学的製剤休薬のためのポイントのひとつであることがわかっています.それには患者さんの背景を鑑みながら,より細かく診て,治療していくことが求められますので,「双方向型リウマチ診療」が最もよいのではないかと考えています.そして休薬までもっていくという意識が大切だと考えています.

 また年3回ほど「横浜西部リウマチ勉強会」を開催しています.これは近隣の先生方との交流の場でもあるため,当院の会議室でテーブルを囲んで顔を見ながらの会にしています.当科からテーマごとにスライドにまとめて発表し,その後,参加者全員でディスカッションをしますが,毎回白熱した討論になります.テーマによっては,皮膚科の先生との合同勉強会や,看護師,薬剤師も出席する会になることもあります.


―患者教育についてはどのように取り組まれていらっしゃいますか.

 患者教育はリウマチ治療では欠かすことができません.診療時間内ですべてを話すことは難しいですから,横浜市旭区医師会と共催で市民公開講座を毎年開催しています.地元の患者さんが対象ですので,著名な先生をお呼びするのではなく,日常診療における疑問点に焦点をあてた勉強会にしています.毎回200名以上が参加されており,患者さんと一緒にレベルアップしていると実感しています.診察室以外で患者さんとお会いすることで,診療では見えなかった背景などがわかり,実際の治療に活かされることもあります.

 また日々更新される新しい診療に関する情報は,重要なものについて患者さん向けの手作りリーフレットを作成し,外来で説明を加えながら配布しています.いろいろなパンフレットが出ていますが,患者さんがすべてを理解するのはなかなか難しいようです.入り口として,より端的に理解してもらうために,1枚にまとめています.


―抗リウマチ薬の効果判定についてはどのようにされていらっしゃいますか.

 基本的にはCDAI,SDAI,DASなど,現在汎用されている評価基準を念頭に置いて効果判定を行っていますが,一番の目標は患者さんの痛みが取れるということです.そういう意味では,2011年に出たBooleanの基準を私たちは重視しています.とくに生物学的製剤を使っている患者さんについてはBooleanの基準を目標にすると,生物学的製剤の休薬導入が可能になると考えています.

 また,ACRやEULARが新しい基準を出すたびに,われわれは当科の患者さんで検証して,その有効性を確認しています(図2,3).




―生物学的製剤の導入によって実際に臨床現場で起こった変化についてお聞かせください.

 生物学的製剤の登場により,RA治療に大きな変化があったと思います.メトトレキサート(MTX)が主体であった時代以上に,専門医に課せられた役割が増えています.しかし,医師1人でできることには限りがあり,これまで以上に看護師,薬剤師とのチーム医療が重要になってきています.当科では,複数の外来看護師に生物学的製剤の投与にかかわってもらっています.生物学的製剤投与に関係する看護師さんたちのさらなるレベルアップを図るために,定期的に勉強会も開催しています.患者さんからは,さまざまな専門看護師から意見を聞くことができて,非常に安心だという感想を聞いています.


―生物学的製剤を使用する際に注意されていることや,心がけていることについてお聞かせください.

 生物学的製剤が出始めた当初も今も,副作用への注意は十分に払っています.とくに感染症には気をつけています.他の疾患などに比べて死亡率は高くないRA患者さんに対して,リスクのある治療をするわけですから,「導入前チェックリスト」を用いて危険因子をすべて書き出し,入念にチェックしています(図4).



また,ややオーバーダイアグノーシスと考えられても,予防投与が必要な場合には積極的に併用しています.

 生物学的製剤を一旦導入したならば,寛解導入,維持,その後の休薬導入,休薬維持という4ステップを踏んでいく努力が必要であると考えています.


―アダリムマブの特徴や適している患者さんについて先生のお考えをお聞かせください.

 アダリムマブを投与する場合には必ずMTX を併用するようにしています.当科の患者さんでは,年齢,RAの罹病期間,アダリムマブ導入までの期間,MTX投与量や疾患活動性にかかわらず寛解導入できているようです.とくにアダリムマブ投与開始4週目の時点で寛解導入できている患者さんが45.8%いらっしゃいました.効果発現が早い印象があります.また,12週目までに寛解導入できた患者さんの78.6%の方が24週目まで寛解維持できていることがわかっています.ただし,やはり無効例もあります.無効を見極めることは,漫然とした生物学的製剤の投与を避けるために重要なことですが,当科の患者さんでは,24週目で寛解維持できている患者さんは,12週目の活動性改善率が高いことがわかっています(図5).



 生物学的製剤のスイッチングはリウマチ専門医に求められる重要なスキルです.当科の場合,アダリムマブを1剤目で投与されていても,2剤目で投与されていても,12週目および24週目の寛解率に差を認めませんでした.また,エタネルセプトからアダリムマブのスイッチングで効果を示す患者さんを多く経験しています.スイッチングは患者さんのご意向や安全性に配慮しながら選択されるべきものであると考えています.そして,漫然と生物学的製剤が投与されている場合,生物学的製剤を投与していてもなかなか寛解導入できない場合にはスイッチングを積極的に考慮すべきであると考えています.

 さらにアダリムマブは皮下注射・自己注射のメリットもあります.点滴製剤の治療時間も短くなってはきていますが,待ち時間を含めると病院に拘束される時間は3,4時間にはなります.自己注射ができると非常に楽ですし,仕事や旅行などのスケジュールにとらわれません.RAはとくに仕事を一生懸命頑張っている世代に多い疾患ですから,そういう意味でもアダリムマブはよいと思っています.


―今後の課題や展望についてお聞かせください.

 RA患者さんはリウマチ専門医から離れることを非常に嫌がることが多く,近くのクリニックで診てもらうように言っても,不安を訴える方がいます.ですから,リウマチ専門クリニックが増えてほしいと願っており,リウマチ専門医は地域にもっと飛び込んでいくべきではないかと思っています.

 これからも1人でも多くの患者さんの声に耳を傾けられるよう,患者さんの身近にいるリウマチ医として診療を続けていきたいですね.




聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院

リウマチ・膠原病内科 前 副部長

(現 新横浜山前クリニック院長)

山前正臣