寛解の意味とは
石黒 本日は「RAの寛解基準」をテーマに,東海地方ご出身の先生方にお集まりいただき,名古屋から関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)の新しい考え方を発信したいと思っています.よろしくお願いします.
まずは寛解の意味について,先生方のお考えをお聞かせいただきたいと思います.
出席者(発言順)
石黒直樹 Ishiguro Naoki…司会
名古屋大学大学院医学系研究科機能構築医学専攻
運動・形態外科学講座整形外科教授
森田充浩 Morita Mitsuhiro
藤田保健衛生大学整形外科准教授
金子祐子 Kaneko Yuko
慶應義塾大学医学部リウマチ内科
藤井隆夫 Fujii Takao(誌上参加)
京都大学医学部附属病院リウマチセンター特定准教授
寛解の意味とは(続き)
石黒 まずは寛解の意味について,先生方のお考えをお聞かせいただきたいと思います.
森田 一般的な病気の場合,薬物治療で完全に治れば治癒という言葉が用いられます.しかしRAやがんのように,治療によっても完全に治ることがない,あるいは再燃・再発を繰り返すような病気では,寛解という言葉が使われると解釈しています.とくにRAでは関節症状が常に変化し,それにつれて患者さんの満足度も変動します.臨床的には,症状が消えて患者さんが不自由を感じない状態を,寛解と言ってよいと考えています.
金子 私も同じ考えをもっています.RAは免疫異常に基づく疾患ですが,今の医療は免疫異常を是正するところまでは到達していません.そのため治癒ではなく,あたかも治ったかのように見える状態,すなわち寛解が治療の目標になると思っています.
藤井 金子先生が指摘されたように,「寛解」は治療目標という点で重要かと思います.とくに患者QOLを維持するために,また生命予後を向上させるため,この寛解という言葉が日常臨床でもよく使われるようになったことはRA診療の1つの進歩だと思います.
薬物治療の進歩と治療効果の向上
石黒 現在のRAの治療目標は寛解とされています.このように寛解が重要視されるようになってきた背景には,何があるのでしょうか.
森田 日本ではとくに薬物治療の治療基準が不十分だったため,臨床医はこれまでさまざまな薬を組み合わせ,RAの治療にあたってきました.しかし近年になり,アンカードラッグであるメトトレキサート(MTX)が十分な有効性を発揮する16mgまで使えるようになったり,新しい生物学的製剤が開発されたことで,よりすみやかに症状を改善させられるようになってきました.これらの新しい治療法によって,患者さんの治療目的も,医師の目指す治療の水準も高くなってきたと思います.
石黒 MTXと生物学的製剤による治療法の進歩について,金子先生,もう少し詳しくご説明いただけますか.
金子 MTXは,欧米では1990年代に盛んに使われており,日本もそれに追従する形で用量を増やしてきました.欧米では20~25mgが当たり前のように使われていましたが,日本では最近まで8mgしか使えませんでした.そのために論文が採用されないようなことも起こりましたが,IORRAやREALなどに基づいた公知申請によって,ようやく16mgまでの投与が承認されました.また生物学的製剤も,欧米にやや遅れてですが使えるようになり,ようやく日本でも比較的容易にRAの寛解を得られるようになってきました(表1).
石黒 SAKURAコホートでは,MTXの投与量と寛解率のあいだに相関がありましたか.
金子 SAKURAコホートを始めた2008年ごろのMTXの最大用量は8mgでしたが,現在は16mgまで増量しており,寛解率も飛躍的に改善しました.生物学的製剤の導入率が,開始当初の10~20%から40~50%に増えていることも,影響していると思います.
石黒 MTXの使用量の点が指摘されています.一方,開始時期が変化していると思うのですが,その点はいかがでしょうか.
藤井 日本リウマチ学会で作成した「MTX診療ガイドライン」では,MTXの適応は「RAと診断されて予後不良と思われる患者では,リスク・ベネフィットバランスに鑑みて,MTXを第1選択薬として考慮する.他の低分子DMARDsの通常量を2~3ヵ月以上継続投与しても,治療目標に達しないRA患者には積極的にMTXの投与を考慮する」と推奨されています.骨破壊を最小限に抑えるためRA治療にスピードが要求されていることを考えると,罹病期間にかかわらず活動性がある場合には常にMTXの使用を考えるべきで,当科でもより早期にMTX導入が行われています.とくに血清反応が陽性で,副作用リスクが乏しく,発症早期の方は初診時からMTXを導入している方も少なくありません.
治療目標としての寛解は現実の目標か
石黒 先生方は,日本でも寛解をRAの治療目標としてもよいとお考えでしょうか.
金子 難しい問題ですが,発症後の罹病期間が3~5年より短い患者さんの場合は,寛解を目指してよいと考えています.
森田 整形外科の立場から言えば,まず患者さんにRAの概念を理解してもらったうえで,患者さんが治療による恩恵を受けられるところに治療目標を設定する必要があると思っています.患者さんに安心してもらうため,今はすみやかに適切な治療を行うことで症状が消え,進行もせず,生活の質を低下させない状態に改善できることを,説明する義務があると思うのです.
石黒 手術が前提となる整形外科では,内科より進行した患者さんを診ることが多いと思いますが,そのような症例でも寛解を目指すことができるのでしょうか.
森田 関節破壊のX線所見を呈する患者さんは,治療が後手に回っていたり,罹病期間が長い例が多く,寛解について説明し,薬物治療を行っても,満足度が低くなりがちです.また,一旦失われた関節機能に構造的寛解をもたらす治療手段を,われわれはまだもっていません.そのような患者さんでは,どうしても治療の評価は低くなりますから,それを見越したフォローが重要です.
石黒 そうですね.藤井先生はどのようにお考えですか.
藤井 骨破壊が乏しい早期のRA(<2年)では寛解を治療目標としています.しかし合併症のある方や高齢の方,また長期罹患で骨破壊がすでに進行している患者さんでは,薬剤の副作用リスクに十分注意すべきです.その際にも低疾患活動性は最低限の目標として達成するように心がけています.日本では,患者さんが治療方針に参加せず,医師に任せられることが多いと思いますが,寛解を達成する意義を患者さんにもよく理解してもらわないと,医師の自己満足になってしまいます.Treat to Target(T2T)の「基本的な考え方」にあるように,RA治療が患者さんと医師のshared decisionであることを知ったうえで寛解を目指すべきと思います.
寛解の種類
石黒 RAの寛解には,臨床的寛解,機能的寛解,構造的寛解の3種類がありますね.
金子 臨床的な治療においては,臨床的寛解を目指します.臨床的寛解は,DAS28で2.6未満と定義されていましたが,2010年に発表されたACR/EULARの新寛解基準(表2)では,総合的疾患活動性指標であるSDAI,CDAI(図1)が使われます.
機能的寛解はHAQという身体機能を評価するアンケート調査で0.5以下,構造的寛解はmodified Sharp scoreの1年間の進行が0.5以下と定義されています.
石黒 臨床的寛解の延長線上に,機能的寛解,構造的寛解があると考えてよいのでしょうか.
金子 早期の患者さんでは,そう考えてよいと思います.しかし進行したRAでは,機能的寛解,構造的寛解が得られない患者さんもおられます.
森田 RAは炎症性疾患ですから,関節構造体である滑膜の炎症が抑制されなければ,寛解とは言えないと思っています.手を触って関節が腫れていたり,押すと痛がるような患者さんに対して,寛解という言葉は使えないでしょう.それらの臨床症状を取り除いてあげることが,臨床的寛解なのだと解釈しています.
石黒 臨床的寛解が得られれば,関節の破壊が予防され,機能も保護されるということですね.では逆に関節の破壊がすでに起こっている長期罹患症例では,機能的寛解はどのようになるのでしょうか.
藤井 関節破壊がある程度進行してしまうと後遺症が残ってしまうので,数字上機能的寛解は達成できない場合も多いと思います.しかしそのような場合でも疾患活動性(炎症)が残った状態ではさらに骨破壊が進行しQOLが落ちてしまうので,機能的寛解が達成されない状態でも,構造的寛解が達成されるよう留意すべきです.すなわち現在保っている機能を維持するよう治療を継続します.
T2Tの概念と寛解基準の必要性
石黒 寛解達成を目指す方策として,いまT2Tが大きくクローズアップされています(表3).
金子 T2Tは糖尿病や高血圧の治療において,すでに導入されている概念です.糖尿病ならHbA1c 6.9%未満,高血圧なら140mmHg未満といった数値目標を達成することで,合併症の予防につながることが,多くのエビデンスにより明らかにされています.これと同じように,RAの治療でも数値目標を設定し,一定期間ごとに治療を見直して寛解を達成しようとするのが,T2Tの考え方です.
石黒 そうすると,まずは疾患活動性の評価が必要になりますね.
金子 T2Tの概念から考えると,腫脹関節,圧痛関節,VASなどを組み合わせた複合的指標が用いられるべきです.森田先生がおっしゃったように,臨床症状が残っている患者さんに対して寛解という言葉を使うことには抵抗がありますから,本来ならすべての症状が抑えられた状態としたほうがよいと思います.
石黒 複合的指標を用いることの大切さが指摘されましたが,藤井先生,代表的なものについて簡単にご説明をお願い致します.
藤井 DAS28,SDAI,CDAIが代表的なものですが,DAS28は計算式が難しく,暗算できません.また疼痛関節の比重が大きいため,寛解基準はやや甘いと言われています.タイトコントロールを考えた場合,SDAI寛解のほうがより重要と思われますが,SDAIの算出にはCRPの値が必要で,当日採血の結果が参照できない施設では,活動性指標を患者さんに提示できないという難点があります.その点では,CDAIが最も使いやすいかもしれません.いずれにしても,T2Tリコメンデーションでは複合的指標を用いることの重要性が記載されていますので,施設の実情に併せていずれかの指標を継続的に使用することが大切なポイントだと思います.
T2Tによる治療の均質性の保証
石黒 T2Tは,治療の均質性の保証につながるのでしょうか.
森田 たとえば日本では,RAの患者さんを診る間隔が,基幹病院と診療所とでかなり違います.それを3ヵ月に1回は見直しましょうと定める意義は,大きいと思います.これにより2週間ごとに診ている施設も,あるいは2ヵ月ごとの施設も,今の治療を続けるべきか,満足度が低ければ見直したうえで変更しなければ次の3ヵ月はどうなってしまうのかなどについて考えるようになったと思うのです.
金子 そうですね.漫然と治療を続けることなく,明確な基準をもってRAの治療にあたれるようになってきたと思います.
藤井 病診連携が有用と考えられるRA診療ではこの均質性は重要であり,少なくとも専門医間ではT2Tストラテジーの標準化がされつつあると思います.一方,患者さんに対してもT2Tの重要性を認識できるよう啓発活動を行うべきで,患者さんの意識向上により医師の治療均質化がより進むものと予想されます.
石黒 従来は医師ごとにとらえ方が違っていたかもしれない評価が,共通のものさしによって統一され,均質な医療が提供できるようになったことも,重要なポイントですね.違う医師にかかったとき,それぞれの経験論によることなく同じ治療方針が継続されることは,患者さんにとって大きなメリットです.
森田 誰もが共通の認識として客観的な指標をもっていれば,同じイメージで患者さんに接することができますからね.
金子 DAS28 4.1の患者さんというシンプルな表現で,共通のイメージがもてます.
新寛解基準の必要性
石黒 DAS28が広く普及しているところに,なぜ新寛解基準が必要とされたのでしょうか.
金子 DAS28は,28関節と腫脹関節,圧痛関節,患者さんのVASで算出し,2.6未満が寛解とされます(図1).しかし研究が進み,疼痛が少ないと腫脹関節が10ヵ所あっても2.6未満に収まってしまったり,寛解とされる症例でも関節破壊が進行することがわかってきました.また計算式が複雑なため,日常臨床の場ですぐに算出できないという欠点もあったことから,より簡便で,厳格な指標が求められていました.
石黒 新しい寛解基準は,将来的な構造的破壊や機能的問題点を克服するための高い治療目標であり,従来より厳しくなっているといえますね.
藤井 やはりDAS28寛解と構造的あるいは機能的寛解の達成とのあいだに大きな隔たりがあるためだと思います.もちろん,SDAIなど他の指標を用いたとしても臨床的寛解がRAの最終ゴールではありませんが,骨破壊やQOLを考えたうえで抑えるべき炎症の度合いをより厳しく規定しようという考えが反映されていると思います.
森田 生物学的製剤が使えるようになり,治療の選択肢が広がったことも,新寛解基準制定の背景の1つだと思います.従来のDMARDsだけで寛解導入するためには,いかに早く,初期のうちに見つけられるかが鍵でした.しかし7種類もの生物学的製剤が承認され,正確な治療によって完成したRAでも寛解が得られるようになり,より高い目標を目指すことが可能になりました.
石黒 なるほど.DAS28はDMARDsによる治療が行われていた時代のものであり,生物学的製剤という新しい薬剤が登場した現在では,より高い目標を目指すための新しい寛解基準が必要だったということですね.
新寛解基準とDAS28寛解の違い
石黒 実際に新寛解基準を使ってみて,どのように感じていますか.
金子 当院のRA患者1,400人を評価したところ,DAS28では寛解が48%でしたが,SDAI,CDAIでは40%でした.
石黒 森田先生はどうですか.
森田 私が診ている個々の患者さんの成績を見ると,DAS28では寛解が40~50%,SDAI,CDAIでは30~40%と,やはり10%くらい低くなっています.アセスメントが厳格になっていることが,原因ではないかと思っています.
石黒 DAS28では腫脹が3~4ヵ所あっても寛解になっていましたが,SDAI,CDAIではそういう結果にはならないですからね.
森田 2桁に近い値になってしまいます.患者さんが症状を感じないような,高い水準が求められる,厳しい指標だと思います.
石黒 藤井先生の印象はいかがですか.
藤井 京大のKURAMAコホートでも371例中SDAI寛解は106例(28.6%),Boolean寛解は79例(21.3%)で,DAS28寛解(50.0%)に比べるとかなり低いです.とくにBoolean基準では,患者VASが1cm以下でないといけないので,罹病期間の長い方(>10年以上)ではまず達成できません.したがって,新寛解基準の正当性があるのは早期のRAにかなり限られてしまうのではないかと思います.一方,低疾患活動性達成率は,SDAIが67.9%,DAS28が64.2%でほぼ同等でしたので,長期罹患患者において目標とすべき低疾患活動性を評価する場合にはこれらの複合的指標は使えると思います.
石黒 実際の臨床において,金子先生はDAS28,SDAI,CDAIのどれを中心に使っておられるのですか.
金子 私の考える寛解に最も近いのは,Boolean評価の寛解基準です.疾患活動性を見ることはできないのですが,Boolean評価1つまでは許容しようという気持ちで治療にあたっています.
石黒 森田先生はいかがですか.
森田 私は,自分が使い慣れているDAS28,とくにESRを常に計算しながら患者さんに説明しています.前回のカルテを見ながら,今日までのあいだにこのくらいの改善度が得られたというイメージをもつことが大事ですが,使い慣れているのでそのイメージを把握しやすいのです.またCRP,赤沈のデータが正確に反映される点も,DAS28の長所です.医師に気をつかって痛みを我慢している可能性もありますから,治療が本当に有効なのかどうかを客観的なデータも含めて判断できるよい指標だと思います.
SDAIは,症状をよく反映しますので,これが悪ければ治療の効果が出ていないといえます.ただし,早期の患者さんではすみやかに治療効果が得られ,疼痛も消えやすいため,すぐにSDAIが改善されるのですが,整形外科で診ている経過の長い患者さんではSDAIがなかなかよくなりません.それでも,目標として常に注視しておく必要があります.関節の症状のある患者さんは,Boolean評価で寛解に達していないことをきちんと確認します.
石黒 藤井先生は何を中心に使っておられますか.
藤井 以前は当日のCRPや赤沈値を含めてDAS28を患者さんに示していたときもあったのですが,かなり時間がかかります.最近では,診察前採血がされている方ではSDAIを,診察後の採血患者ではCDAIをみるようにしています.しかし当科ではDAS28も後日グラフとして「あなたのリウマチレポート」としてお渡しし,その際にはDAS28も含めて患者さんと検討するようにしています.
金子 実は低疾患活動性に関しては,DAS28のほうがSDAI,CDAIより厳格なのです.T2Tの概念では,寛解を目指して治療し,寛解が難しければ低疾患活動性を目標にすることになりますが,SDAI,CDAIの場合は比較的容易に低疾患活動性を達成してしまいます.総合的疾患活動性指標は,その点を理解したうえで使う必要があると思います.
森田 おっしゃる通りです.とくにCDAIは血液検査をせずに評価できるので,頻繁に採血しない診療科の医師にとっては使いやすいのですが,構造的な問題のある患者さんの場合,SDAI,CDAIではあまり改善せず,DAS28のように寛解を達成することができません.
評価指標におけるVASの意義
石黒 医師によるVASが加味されることに違和感があるのですが,先生方はいかがでしょうか.
金子 医師と患者さんのVASに差があることはよく知られています.その理由はやはり両者の立場の違いで,Smolenらも,患者さんは痛みを重視するが,医師は腫脹関節を重視するために差が出てしまうとの論文を『ARTHRITIS&RHEUMATISM』に掲載しています.ですから医師のほうはきちんと患者さんに説明して,両者の目標を融合させながら治療を進めるべきだと思います.
石黒 グローバル・アセスメントであって,pain VASではないのですが,しかし患者さんは痛みに対して決めてしまうという大きな問題がありますね.罹病期間の長い患者さんでは,どうしても1~2ヵ所は痛い関節が出てきて,強く影響を受けてしまいます.
森田 「今日の体の状態はどうですか」などと,気持ちの状態も含めて聞くようにすると,「体のコンディションはいつもの〇%くらいです」と,痛みだけにとらわれない言い方に変えてくれます.ただ,気分による変動が大きいので,気象に左右されるという問題点はあります.
金子 Smolenらの論文にも,質問の仕方が書かれているのですが,「今の状態はどうですか」と聞くと,「腰痛が」とか,「シェーグレン症候群で口が渇いてつらい」と言って,それでVASが上がってしまいます.全般的状態と言っておいて,それらを切り離すのは,患者さんにとっては難しいのだと思います.
石黒 患者VASの問題は大きな注目を集めています.一方で,Patient Reported Outcomeという患者さん主体の見方では,この項目は重要との意見もあります.バランスの問題かとも思いますが,藤井先生はどうお考えでしょうか.
藤井 評価する関節が28関節である場合には,その他の関節症状がもれてしまいますが,患者VASはその関節も評価されます.また受診日当日はそれほど問題ないが,しばしば痛むことがある関節の評価は患者VASに含まれると思うので,指標としての必要性はあると思います.しかし長期罹患患者や,合併症のある患者さんでは,RAの炎症による症状以外のものも含まれてしまうため,注意する必要があるのはご指摘の通りです.繰り返しになりますが,これらの患者さんでは寛解を目指さず低疾患活動性でよいと割り切れば,患者VASの曖昧さも許容されるのではないでしょうか.
Boolean評価
石黒 Boolean評価については,どうとらえておられますか.1関節の腫れも痛みも許されないので,わかりやすい基準ではあるものの,一定の罹病期間を経たRAではなかなか達成が難しいと思いますが.
金子 Boolean評価でみると,当院では31%が全項目を満たしており,また1項目だけ満たさない患者さんも同じく31%おられます.1項目だけ満たさない患者さんの場合,その項目は80%が患者VAS,つまり腫脹関節,疼痛関節はゼロです.患者VASは年齢と,罹病期間の長さにつれて高くなりますので,進行したRAの患者さんで寛解を達成するのはかなり困難だと思います.
森田 整形外科では完成したRAの患者さんが多いので,他の指標と比較すると,Boolean評価は日々のマーカーとしてみるには難しいと思っています.
藤井 新寛解基準は確かに厳しく,合併症や骨破壊のない早期のRAに適用する基準と考えます.一方,複合的基準といっても限界があるので,日常臨床では上記以外のRAではX線所見や超音波検査なども多用して,各患者の治療ゴールを決めるべきと思います.
石黒 Boolean評価は臨床試験などで用い,実際の日常臨床ではSDAI,CDAIが使われることになるのでしょうね.
まとめ
石黒 ここまで寛解基準について議論し,問題点も指摘されましたが,やはり基準の必要性は大きいと思います.新寛解基準の登場した背景を考慮すれば,今後臨床で使っていくことが望ましいと考えるのですが,先生方のご意見はいかがですか.
金子 DAS28の有用性は高いと思うのですが,世界的な流れであるSDAI,CDAIにも慣れて,その評価を治療に反映していかなければならないと思います.
私は,痛みに対処しつつ,なだめながら患者さんに接するのではなく,「以前の生活が取り戻せますよ」と言ってあげられる時代にrheumatologistになれたことに,幸せを感じています.その意味で,寛解基準を高く設定し,そこを目指して治療するのは良いことだと思っています.
森田 生物学的製剤をうまく安全に使いこなすためには,新寛解基準による治療効果の評価が必要です.薬が効いているか,患者さんの満足度は得られているか,QOLが改善しているかをきちんと把握するためには,新寛解基準を使わなければならないと思います.
また整形外科医の立場として,構造的破壊を起こさせないことが重要だと思っています.骨びらんを呈する前に,炎症によって関節に何が起こっているのかを考えると,X線所見が認められてからでは遅いのです.Sharpスコア,HAQなども重要ですが,症状があって機能障害が出ていれば関節構成体に問題があるわけで,骨破壊の前に軟骨や滑膜の初期の炎症を抑えられればより治療効果が高まり,患者さんの満足が得られます.ですから関節の構造を保護できるよう,早期から治療に入るための指標,あるいは治療効果を反映できる指標が,もっと出てくればいいと思っています.
藤井 薬剤の進歩に伴って治療ストラテジーが標準化され,また治療ゴールが明確に数値化されたことはリウマチ学の大きな進歩だと思います.しかしこれが一部の医師のみで共有されるのでは無意味ではないでしょうか.T2Tにもあるように,患者さんも同様に寛解や低疾患活動性の意味を理解するよう,より多くの媒体を用いて啓発すべきです.患者さんと医師が同じ基準に向かって治療を進めることが患者QOLを最も高める治療になると思います.
石黒 新しい治療薬と,評価指標が開発されたことで,RAの治療は進歩しました.RAの臨床に携わる医師にとっては治療する喜びが増え,患者さんだけでなく,医師の幸せにもつながっているといえます.高い目標を設定し,それを達成するために,新しいツールもうまく活用しながら治療を進めていければよいと思います.