Treat to Targetのリコメンデーションについて─GOAL研究会のアンケートから
竹内 本日は,わが国における「Treat to Target(T2T)」普及活動の中心を担っておられる先生方にお集まりいただき,関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)診療におけるTreat to Targetの現状についておうかがいしていきたいと思います.
出席者(発言順)
竹内 勤 Takeuchi Tsutomu…司会
慶應義塾大学医学部リウマチ内科教授
伊藤 聡 Ito Satoshi
新潟県立リウマチセンター診療部長
岸本暢将 Kishimoto Mitsumasa
聖路加国際病院アレルギー膠原病科(成人,小児)
西田圭一郎 Nishida Keiichiro
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科人体構成学分野准教授
Treat to Targetのリコメンデーションについて―GOAL研究会のアンケートから(続き)
竹内 現在のわが国におけるT2T普及活動の取り組みについて,10項目のリコメンデーション(表1)に関するGOAL研究会のアンケート結果をみますと(図1),たとえば「疾患活動性の評価は,中~高疾患活動性の患者さんでは毎月,低疾患活動性または寛解が維持されている患者さんでは3~6ヵ月ごとに定期的に実施する」というステートメント5の同意レベルが比較的低めでした.
伊藤 これは評価の間隔が短すぎるということなのでしょうか.
竹内 疾患活動性が中~高疾患活動性のときに毎月行うことは,現実問題として難しいことを反映しているのかもしれません.先生方の日常診療のご経験から,ステートメント5というのは実現可能なものでしょうか.
伊藤 疾患活動性の高い方は毎月診察してこまめに治療を変えたいところですが,他県から来院される方もおられますので,患者さんによっては現実的に2ヵ月に1回しか診察できないという問題があると思います.
竹内 見方によっては,同意レベルがほかと比べて少し低かったというだけで,10点満点中の8.287ですので意外と高いともいえると思いますが,岸本先生はいかがお考えですか.
岸本 欧州ではもっと間隔を空けて診療するという意識がありますので,ステートメント5は間隔が短いという見方をされるかもしれませんが,日本では逆に3~6カ月では長すぎるという感覚もあるかもしれません.それから,ステートメント5で言っていることは疾患活動性をモニターするのか,それとも副作用チェックも含めて毎月みるのか,その辺りがうまく理解されていなかったのかもしれません.
竹内 確かに質問の内容は,そこまでは踏み込んでいませんでした.中~高疾患活動性のときは毎月,低疾患活動性ないし寛解になったときには3~6ヵ月と規定しているので,どちらかというと安全面よりは疾患活動性に重点を置いて診察頻度を規定したものだと思います.
岸本 副作用チェックも含めて考えると,3~6ヵ月というのは少し長いという印象があります.
西田 私は診察の際に,比較的疾患活動性が低い方には「調子は良いですか」と尋ねて,「調子が良い」あるいは「変わりがない」場合には,血液検査所見や患者さんご自身に日々の状態を書き込んでいただいているノートに目を通し,とくに問題がなければ3ヵ月おきに疾患活動性や薬の副作用をチェックするようにしています.逆に疾患活動性が高い方については,1ヵ月に1回は診察するようにしています.
竹内 実はアンケートの中身について解析したところ,同意していただけない理由は「低疾患活動性で3~6ヵ月というのは長すぎるのではないか」というものでした.その点も含めてGOAL研究会でT2Tの考え方について皆さんに解説したあとのアンケート結果では,同意レベルは総じて大体0.5ポイント程度上がっていました(図1).
それから,「設定した治療目標は,疾病の全経過を通じて維持すべきである」というステートメント8の同意レベルも比較的低かったのですが,これについてはどのような印象でしょうか.
岸本 もともとこのT2Tで想定していたのは早期RAで,長期罹患の患者さんや合併症のある患者さんは想定していませんでしたので,それを救済するためにステートメント3と9が設けられています.基本的には臨床的寛解を目指しますが,患者さんの要因によっては低疾患活動性でもいいですよ,設定した目標はずっと維持してくださいよ,というように後づけで説明しているので,項目の順番のわかりにくさから,ステートメント8の同意レベルの低さが目立ったのかもしれません.
竹内 現在,各地区で皆さんにGOAL研究会を開催していただき,すでに約1,000名の方に参加していただいています.今回お見せできたのは167名のアンケート結果でしたが,今後もっと幅広い層のリウマチ医の意見が集積され,また新しいことがわかるかもしれませんので,1,000名のアンケート結果を待ちたいと思います.
日常診療におけるComposite Measureの使い方
竹内 T2Tを普及させるために,先生方にも日本各地で研究会を展開していただき,このステートメントについてご説明いただいていますが,このなかでComposite Measure(総合的疾患活動性指標)については事前アンケートでも同意レベルが9を超えており,さらに内容をお話ししたあとは9.6になっていました.これは世界的にみても同意レベルが高いと思いますが,実際はどうなのでしょうか.
西田 ステートメント6に「関節所見を含む」という言葉が入っていますが,わが国のリウマチ医は昔から諸先輩方に「関節を診なさい,触りなさい」と教えられてきましたので,当然のように実施されているのかもしれません.私たちも全身の腫脹関節,圧痛関節をあるだけ調べなさいと教えられてきました.現在主流のDAS28による評価では28関節の評価ということもあり,慣れてしまえば短い診療時間のあいだにできます.そういう点で,ステートメント6はこれまでのわが国のリウマチ診療に即していたのかもしれません.
竹内 これはわが国のリウマチ教育あるいはリウマチ診療のレベルの高さを反映した結果とも考えられます.
岸本 あるアンケートでは,米国では数%しかComposite Measureを用いてフォローしていないという報告があります.私も米国でフェローをしていましたので実状をみてきました.それと比べて日本では本当に皆さんが関心をもって診療されている印象があります.
伊藤 今まではCRPや赤沈値で判断していましたが,治療を強化するかどうか判断するための明確な指標ができましたので,患者さんとも非常に話しやすくなりました.ただ,実際にDAS28やSDAI(simple disease activity index)について患者さん一人ひとりに説明をするとなると時間の制約がありますので,実際には必要な方から優先順位をつけて説明していかざるを得ません.
竹内 たとえば大学病院などで本当に忙しい日常診療のなかでは,Composite Measureによって疾患活動性を評価し,さらに中~高疾患活動性のときには3ヵ月おきに再度評価し,目標を達成していなければ治療を変更するという一連の手順は,ほとんど実践されていないようなのです.ですから,私はアンケートの回答と実臨床には乖離があるのではないかという印象ももっています.
私は,今までは触診をしてDASの人形の絵に,腫脹関節,圧痛関節の印をつけていました.しかし,印はつけても,腫脹関節や圧痛関節が何個という記載までは行っていませんでした.その数字がなければDASは計算できません.そうすると,これは言うは易し行うは難しで,実際にはかなり厳しいのかもしれません.
伊藤 当院は,電子カルテに人形のイラストが出てくるようになっています.そこに圧痛関節数と腫脹関節数を入力すると,DASとSDAIが自動的に計算されて画面に表示されるようになっていますので,そういうシステムがあると非常に助かります.
竹内 そのような診療支援ツールがないと,なかなか難しいですね.そういう情報がその場で患者さんにフィードバックできるようになれば,T2Tの精神である,患者さんと医師が共通の目標に向かって治療を進めていくという本来の姿になります.というのも,「自分が寛解だといえば,それは寛解なんだ」と言っている先生もまだおられるのです.共通の指標を使っておらず,寛解の定義もまだ完全にコンセンサスになっていないのです.しかし,こういう共通の物差しで患者さんと医師が目標に向かって治療を進めていくという方法は双方にとってメリットがあり,ボタンのかけ違いも生じない気がします.そういう意味でも,T2Tはハードルの高さはありますが,やはり価値があるものだと思います.
伊藤 私はリウマチセンターにいて,電子カルテでDASやSDAIをみることができますが,連携先の小規模の病院にはそのような電子カルテがありません.そのようなところでも,時々DASを計算してみると,今まで低疾患活動性だと思っていた患者さんが実は中~高疾患活動性であったということがあります.ですから,T2Tの概念が発表されたときに「何を,こんな当たり前のこと」と思ったのですが,実践してみると,これはやはりすごいことだと思いました.自分が行っていた治療を再認識することができ,その後の診療が間違いなく変わります.
竹内 確かに当たり前のことだと思われがちなのですが,実臨床でこれをやっているかというと,先ほどもお話ししたように私の周りにいる先生方でもほとんど実施できていないのです.よく聞いてみると,それを実施できない環境があるようなので,どうやって改善していくかが次の課題になるのでしょう.
画像評価や身体機能評価の方法
竹内 ステートメント7は,臨床的な評価に加えて画像評価や患者さんの身体機能評価も,治療変更をする際に勘案してくださいと書いてあるのですが,これもわが国では非常に同意レベルが高いようです.実臨床で行われる画像評価はどのようなもので,どのくらいの頻度でなされているのでしょうか.
西田 単純X線は,とくに関心領域については1年に1度くらいの頻度で撮っていると思います.MRIは,ほぼ診断時のみです.それから数年前からエコーを診察室に置くようになり,頻繁に使用するようになりました.治療の変更などを考慮する際に,その場でわかる画像所見がひとつ加わったので,診療上非常に助かっています.
竹内 GOAL研究会に出席されている実地の先生方は,皆さん単純X線による関節破壊評価をされているのでしょうか.
岸本 臨床試験のようにSharpスコアを計算することは日常診療ではほぼ不可能です.ただ,画像的寛解の概念は浸透してきているようで,単純X線は半年~1年に1回は撮らなくてはいけないという意識は高まっています.また,単純X線を半年~1年に1回撮影することは患者さんにとってもメリットがあります.半年~1年前の単純X線写真と現在のものを並べて患者さんにみせて,「全然変わってませんね.やはりお薬が効いていますね」とお話しするとある程度の達成感が得られると思いますし,生物学的製剤導入の前に「ここが欠けています」とX線写真をみせると,導入への動機づけにもなると思います.
身体機能評価に関しても,日常診療ではなかなか難しいと言われる先生もおられますが,当院では診察室に入る前にHAQ評価用紙にチェックしていただいているので,診察時には把握できているようになっています.
竹内 伊藤先生は,単純X線写真による関節破壊度の評価についてはどのようにされていますか.
伊藤 やはり過去の写真と比較をしながら評価することが大事です.当院の場合は,とくに生物学的製剤を使っている方は年に1回は撮ることになっています.1年後にうっかりオーダーを忘れると,電子カルテを開いたときに整形外科の先生から「撮っていない」と厳しくcautionが入っています.自分自身で気をつけているのは,MTX以外のDMARDで,検査所見では寛解になっていても,骨びらんが進行する症例が時々ありますので,そのような患者さんは注意して単純X線写真を撮るようにしています.
竹内 伊藤先生の病院のように,誰かが撮影間隔を把握していて知らせてくれればよいのですが,1年後に撮影するというのは意外と難しいですよね.
西田 私は大学病院なので,診療補助を行ってくれているシュライバーに「1年経ったら『X線撮影の時期です』と言ってください」とお願いしているので助かっていますが,1人で管理するとしたらなかなか難しいでしょうね.
岸本 DMARDで治療されている方は,1年後というのが難しいかもしれませんね.ただ,生物学的製剤で治療されている方については,当院の場合は必ず後期研修医のチェックが入るので,撮っていない場合には指摘を受けます.
竹内 私もよく忘れてしまいがちなので,対応策を考えているところです.HAQ評価はツールがあればできることなので,皆さん問題なくやっていただいていると思います.今後,画像評価をどのように実施していくのか,あるいはどのようなタイミングで実施するべきなのかも,GOAL研究会でディスカッションし,いい方法を考えていただきたいと思います.
患者へのTreat to Targetの普及について
竹内 ステートメント10は,患者さんにT2Tの内容を理解していただくことで,実はこれが最も難しいかもしれません.
伊藤 これはかなり頑張っています.まず,患者さんに向けたT2Tの講演を全国で最初に行ったのはおそらく新潟県だと思います.それから,地元のテレビに私が出演して患者向けの「T2Tとは?」という番組を放送しました.録画映像が視聴できるようになっています(http://www.iryou-hiroba.com/frontline/backnumber/archives/
20110910/index.html).
ほかにも,DASに関する冊子を配付していますが,残念ながら全員には行き届きませんので,まずは必要な方からお渡ししています.そうすると,患者さんのほうから「先生,今日のDASは何点でしょう?」と質問されるようになり,本当にコミュニケーションがよくなりました.
竹内 それは理想的ですね.
伊藤 医師が「あなたには生物学的製剤が必要です」と言ってコストや副作用の話を含め説明した場合,患者さんにはやはり動揺がありますし,すぐには理解できないこともあります.当院はリウマチの専門病院ですので,そういう方には診察後,看護師が別室でフォローアップの説明をしてくれます.
岸本 当院では,病院で開催する教育セミナーで説明する機会はありますが,なかなかそれで全部を伝えきることはできないと思います.1対1の診療の場面では,DASなどの数値をみせて,「よくなっているね」,「これくらいになればいいですね」という具体的な話をすることが大事だと思います.コメディカルの方にフォローアップしていただくことまではまだできていないのですが,重要なことだと思います.
竹内 いくつかの方法を使いながら広げていく,という方向が理想ですね.今後,患者さんあるいはリウマチ医,一般開業医,コメディカルに広めていくことを考えた場合に,どのような方法が考えられるでしょうか.
西田 どの県でもそうだと思いますが,岡山県でもリウマチ友の会は大変熱心な組織です.また,先日,市民公開講座の参加受付を開始したところ,2日で300人以上が集まりました.それから一般開業医や薬剤師,看護師などについては,少なくとも岡山県下で均一な医療を提供しようという主旨で,最近リウマチネットワークという活動を始めたのですが,その医療ネットワークのなかで医療関係者の底上げも可能になると思いますし,T2Tを広めることもできると期待しています.
竹内 そういうネットワークを形成して,いろいろな情報を共有していくことが大事でしょうね.西田先生のおられる岡山県や,伊藤先生のおられる新潟県は一体となっている印象がありますが,一番難しいのは東京かもしれません.リウマチ専門医の数は日本で一番多いのですが,ネットワークの構築はこれからの課題です.地域によって,できること,できないことがあるように思います.
いずれにしても,皆さんにご協力いただき,これまでいい形でT2Tの普及活動が進んでいますので,ぜひこれからも推進してほしいと思います.
「治療目標を達成」し,「達成した治療目標を維持」するために重要なこと
竹内 次に,T2Tを個々の患者さんの治療に当てはめるとすると,どういう治療戦略が最も患者さんのアウトカムを改善するのに役立つかについて考えていきたいと思います.大きく分けて,寛解導入とその寛解の維持という2つの観点になりますが,とくに2011年2月からMTXが第一選択薬として16mgまで増量が可能になりましたので,それを踏まえて寛解導入のためにはどのような治療戦略をとるべきでしょうか.
西田 まずMTXが必要な患者をみつけるために,なるべく早く診断するというコンセンサスが得られてきたと思います.ところが実際にわれわれのところに患者さんが来ていただくまでには半年~1年経っていることが少なくありません.そういう意味では,最初に診療をする一般開業医の先生方のところまでT2Tを普及していくことは非常に大切だと思います.
竹内 仮に早期診断ができた場合,現在の環境では具体的にどのような治療法が考えられますか.
岸本 地域性があるかもしれませんが,たとえば当院では比較的若い患者さんが多く,挙児希望の方も多いですので,最初からMTXを投与しない患者さんもおられます.ACR治療推奨2012年updateにもあったように,6ヵ月以上経過した方では,予後不良因子があれば低疾患活動性でも単剤ならMTXを選択することになっていますが,罹病期間6ヵ月以内の早期の患者さんであれば,単剤はサラゾスルファピリジンという選択肢もまだ残っていますので,それもひとつの方法だと思います.
ただし,以前竹内先生にT2Tのステートメント4にある3ヵ月ごとに治療の見直しをするということについて,MTXの増量は治療の見直しではなく,3ヵ月以内にはできるだけ耐用できる最大用量にするのがT2Tの概念であるということを教えていただいたのですが,これがまだなかなか一般に伝わっていない気がします.
竹内 GOAL研究会を通じて,皆さんにT2Tのコンセプトをお伝えしていますが,それが全例にできるわけではありませんので,あくまでひとつの目標であることを知っていただくことが重要です.
伊藤 2011年は,RAの新分類基準が発表され,国内では予後不良因子があれば最初からMTXが投与可能になり,用量も最大16mgまで認められ,本当に画期的な年でした.ただ,私の経験としては,16mgに増量してもあまり即効性がなく,効いてくるまでにかなり時間がかかる印象です.竹内先生がよく「MTXでは寛解が得られるけれども時間がかかる」と言われていましたが,今まで私はサラゾスルファピリジンやブシラミンを投与してあまり効果がみられないときにMTXを上乗せし,その切れの良さは実感していました.しかし一方で,確かにMTX単剤はあまり良くない印象でした.調べてみると,MTX 8mg+葉酸は,実はブシラミン200mgと効果も関節破壊抑制も同等というデータが出ていました.ですから,今までの最大用量の8mgを投与して,MTXから開始したからよいだろうと自己満足に陥ってはだめで,増量できる方にはもっと増やすべきですし,あるいはサラゾスルファピリジンやブシラミンも併用したほうがよいかもしれません.
竹内 まさにT2Tですね.治療目標を設定してある治療を行った結果,目標に届いていればよいけれども,届いていなければその治療は十分ではないと考える必要があるということです.日本リウマチ学会が作成した「メトトレキサート(MTX)診療ガイドライン」では,「予後不良因子がある人はMTXを第一選択薬として考慮する」と書かれていますので,それに従えば,MTXを6mgから開始して,副作用などをチェックしながら最高16mgまで増量していくことになります(図2).T2Tの概念に則れば,安全性が担保される最大用量まで3ヵ月以内に増量するという戦略をとります.MTXは臨床的に効果がみられるまでに比較的時間がかかるため,その間に関節破壊が進展してしまう可能性がありますので,その点についてもGOAL研究会などを通じて啓発していく必要があります.
伊藤 そうすると,T2Tのためには1ヵ月ではなくて,2週間ごとや,場合によっては1週間ごとにMTXを増量していく戦略も必要かもしれません.しかし一方で,MTX投与の際には肝機能のチェックが必須になりますので,HBc抗体やHBs抗原の検査も行うとなると,その日のうちに検査結果がわかる施設であればよいのですが,開業医の先生ですと,HBs抗原,HBc抗体の検査結果がわかるまで時間がかかりMTXの導入が遅れてしまう可能性があります.
竹内 T2Tでは3ヵ月という具体的な時間が設定されていますので,たとえばMTXを始めて3ヵ月後に治療効果判定をすると想定したときに,4週に1回診療する場合には,8mgから開始して4週目に12mgに増量し,そして8週目に16mgに増量しないと3ヵ月の治療効果判定に間に合いません.副作用などのチェックをすることを考えると,このペースで増量していくのは開業医の先生のところでは現実的ではないかもしれません.
アダリムマブとMTXについて
竹内 MTXの投与量を考えるうえでは,国内で行われている早期RAを対象としたHOPEFUL試験が参考になると思います.この試験では,MTX 6mgまたは8mg単独とMTX+アダリムマブの2群間の比較が行われ,治療開始6ヵ月後にDAS28と血沈で評価した臨床的寛解率がMTX+アダリムマブで約31%,MTX単独で約15%となり,MTX+アダリムマブはMTX単独と比べて2倍近い寛解率を示しました.低疾患活動性の達成率も約50%と約25%で,同様に2倍の差がみられました.
またHOPEFUL試験は欧米で行われた大規模臨床試験であるOPTIMA試験と比較的似た患者対象で,結果を比較してみると興味深いことがわかってきました.臨床的寛解導入率,あるいは低疾患活動性導入率はOPTIMA試験よりHOPEFUL試験のほうが約20%高かったことから,日本のリウマチ患者はよく薬に反応して,臨床的反応が良いのだろうと私も思っていました.しかし驚いたことに,Sharpスコアで比較してみるとHOPEFUL試験のMTX+アダリムマブの構造的寛解導入率が約60%であったのに対し,OPTIMA試験のMTX+アダリムマブは80%を超えており,一方でMTX単独投与による構造的寛解はHOPEFUL試験で35%,OPTIMA試験では2倍の約70%でした.
MTXの投与量という観点では,欧米ではMTXを8週までに20mg投与するのに対し,日本ではこの試験開始当時は6~8mgです.その差が一番大きかったのか,あるいは日本人におけるリウマチの関節破壊の進展が早いのか,それとも日本では関節評価が甘いために,あたかも薬が効いているように臨床評価していたのかなど,さまざまな問題提起がありました.
伊藤 やはり一番はMTXの用量ではないかと思います.
竹内 そうすると,わが国でも今後MTXが16mgまで使用できるようになったことで,rapid escalationあるいはhigh dose MTXというようにMTXの使い方を洗練させていく必要があります.
伊藤 ただ,「患者さんを選んで」という注意書きも必要です.
竹内 それは非常に大事なことです.安全性モニタリングのチェックができて,正しく使える人が使うべきです.
伊藤 私は2011年の2月から,比較的若い方にはまずMTXを増量して,その時点で寛解に至る方もおり驚いていましたが,たとえMTX増量で反応しなかった場合でも,そこにアダリムマブを追加すると非常に効果があることがわかってきましたので,今データをまとめているところです.
竹内 MTXを増量せずにアダリムマブを使うよりは,増量してアダリムマブを追加したほうが効果は高いでしょうね.
伊藤 MTXの用量を増やすことでアダリムマブも生きてくるという印象で,海外でのアダリムマブの効果と同等の効果を日本でも得られるようになってきたのだと思います.
岸本 実際,市販後調査の結果でもMTXを6mgよりも8mg以上使ったほうが欧米に近いデータが出ています.
竹内 安全性をモニタリングしながらMTXを正しく使ったうえで,タイミングを遅らせることなくアダリムマブを導入することが大事ですね.また寛解導入に至り,それを維持していくことに関しても,やはり専門性が求められてきます.
岸本 私はいつも実地医家の連携させていただいている先生に,寛解導入または維持にかかわらず,「腎臓,肝臓,肺のチェックは欠かさずにしてください」とお願いするようにしています.
竹内 それは大事なことですね.それに加えて関節評価ができなければMTXもTNF阻害薬も使えないですね.なかにはリウマトイド因子やCRPだけ下げようとしてMTXやTNF阻害薬を使っている方もおられるのですが,それは問題があるので関節評価を加えた総合的な活動性の評価をしていただきたいですね.
西田 保険診療上は16mgが最大用量となっていますが,最大用量は個々の患者さんで違うというところを肝に銘じて使うべきだと思います.
竹内 とくに日本人では,すべての方に16mg使えるわけではありません.
西田 忍容性は一人ひとり違うと思います.その忍容性を見きわめながら使うという意味でも,専門性が必要になってくるでしょう.
竹内 RAというのは一様の疾患ではなくて,病態も違えば薬に対するレスポンスも違う,当然MTXの安全性に対する反応も全然違うことも,やはりよく知っているのは専門医です.そういう専門性の高さのなかで,T2Tを実現させるためには,T2Tが「均一な診療をしましょう」というツールでありながら,実際は個々の患者さんで適用の仕方が全然違うことを知っているか否かが大きいと思います.その点も含めて,皆さんとともに今後も啓発活動を続けていきたいと思います.本日はありがとうございました.