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シリーズ スポーツ医学

第24回 トップメディカルドクターにきくスポーツの落とし穴~バレーボール~

村島隆太郎

Arthritis―運動器疾患と炎症― Vol.9 No.2, 52-57, 2011

 スポーツによる障害・外傷の内容・発生頻度は,そのスポーツの競技特性・ルール・競技時間・トレーニング法と大きな相関がある.スポーツドクターの役割は,スポーツ障害・外傷を予防・治療し,パフォーマンスを向上させることにある.バレーボールについての障害の歴史,バレーボールに生じやすい外傷・障害の現状とその予防・治療について述べ,ルール・競技時間・トレーニング法による影響について考察した.

はじめに

 スポーツによる障害・外傷の内容・発生頻度は,そのスポーツの競技特性・ルール・競技時間・トレーニング法と大きな相関がある.スポーツドクターの役割は,スポーツ障害・外傷を予防・治療し,パフォーマンスを向上させることにあるので,そのスポーツに生じやすい障害・外傷について詳しく知る必要がある.

バレーボールによる障害の歴史

 ロサンゼルス・ソウルオリンピックにイタリアチームドクターとして参加し,国際バレーボール連盟の医事委員であるAndrea Ferrettiは,著書「バレーボール障害」で以下のように述べている.
 『1950年代,レシーブは,スパイクに対しても指を使ったパスで行っており,多くの指の外傷が報告されていた.長指伸筋腱損傷による槌指は「バレーボール指」と呼ばれていた.1960年代初期,チェコスロバキアで,ボールを前腕ではじくアンダーハンドレシーブ法が考えられ,指の重い外傷は減少した.
 1964年,バレーボールは東京オリンピックで公式競技となり,1972年,ミュンヘンオリンピックで日本男子は速攻と膝前方でのレシーブ技術の改善により,金メダルを獲得した.そのようななか,膝のくり返す挫傷を防ぐために,膝の防具が必須アイテムとなった.1970年代,ゲーム中断を減らす目的でルールが変更され,選手はネット下のセンターラインを一部超えても,足がセンターラインと接触しているか,その上に残っていれば許されるようになった.このルール変更はジャンプ着地時に,相手の足の上に乗るという事態を引き起こし,足関節捻挫を増加させた.1980年代,ジャンプサーブとバックアタックがバレーボールをより躍動的にしたが,ジャンパー膝(膝蓋靱帯炎)が増え,ジャンパー膝の頻度・重症度とトレーニング法・トレーニングサーフェスとの相関が示され,対策が進んだ.肘の外傷を防ぐための肘の防具も頻繁に使われるようになった.肩の障害で多いのは,肩甲上神経麻痺による棘下筋萎縮である.足関節捻挫予防としてのテーピング・スプリントの効果はいまだ不明である1).』

バレーボールに生じやすい外傷・障害

 1993年度の全日本チーム(全日本男子18名,全日本女子18名,全日本女子ユース12名)に行ったメディカルチェックでは,生じやすい外傷としては,足関節捻挫,小指PIP関節脱臼・骨折,膝半月損傷などが多かった.慢性障害としては,ジャンパー膝,腰痛症,動揺肩関節,肩甲上神経麻痺,アキレス腱炎などのオーバーユースで生じるものが多い.成長期にはオスグット病,腰椎分離症,シンスプリント(過労性脛部痛),脛骨疲労骨折などが起きやすい2).

1.シンスプリントと疲労骨折
 脛骨内側中下1/3の疼痛を特徴とするシンスプリントは,脛骨後内側の疼痛を特徴とする脛骨疾走型疲労骨折との鑑別が必要であるが,疲労骨折のほうがより近位に起こりやすい.ともに,安静または運動量の軽減で対応する.脛骨前方の疼痛を特徴とする脛骨跳躍型疲労骨折は難治性であり,6ヵ月の安静でも癒合せず,横骨折に移行することもあり,切除骨移植術後の再発例の報告もある3).この疲労骨折とならないように,脛骨前方の疼痛に対しては早期に安静と運動量の制限を行う.そのほか生じやすい疲労骨折の部位は,中足骨と腓骨である.

2.筋挫傷
 筋挫傷はハムストリングス・大腿直筋・腓腹筋内側頭に多いが,腹直筋にもみられる.スパイク動作時に生じ,重症の場合は,筋の断裂部が腫瘤として触知できる.周辺の内出血斑は重症を示す徴候である.筋挫傷は圧痛部位と筋の他動的伸展による運動時痛で診断可能であるが,重症度の評価として超音波診断が役立つ.初期の出血は高エコー像を呈し,経時的に不均一な低エコー像となる.血腫になると周辺が高輝度になり,血腫の消退とともに小さくなるが,漿液腫(seroma)となった場合は内部が無エコーとなり,波動(fluctuation)が触知できるようになり,穿刺排液の適応となる.エコーでの筋線維の途絶は断裂を示す.治療は初期の冷却・安静ののち,重症度に合わせてストレッチング・筋力増強訓練と進むが,早期の復帰は再発を起こしやすいので,筋最大伸展しても運動時痛のない状態になってからの復帰が望ましい.

3.手指の外傷
 小指PIP関節脱臼・骨折は,ブロック時に小指にボールが当たることで生じる.脱臼のみの場合は徒手整復固定し,腫脹軽減したら,buddy tapingなどで早期復帰させる.PIP関節の脱臼骨折で脱臼が放置されると著しい可動域障害を引き起こすことがあるので,疼痛・腫脹の強い例ではX線検査は必須である.
 中手骨骨折には徒手整復後,隣接指とともに手関節15~20度の背屈,MP関節65~70度屈曲位でのギプスまたはスプリントで3週固定したのち,自動可動域訓練,受傷後6週で他動可動域訓練となり,関節可動域がほぼ正常となったのちにスポーツ復帰となる.保存治療では中手骨の軽度の短縮変形は許容するが,回旋変形治癒は指屈曲時に交叉指となるので,回旋を厳しく予防したいときは隣接指も含めて指尖まで固定する(図1).

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