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シリーズ スポーツ医学

第23回 トップメディカルドクターにきくスポーツの落とし穴~アメリカンフットボール~

藤谷博人

Arthritis―運動器疾患と炎症― Vol.9 No.1, 86-90, 2011

 アメリカンフットボールの「外傷」は重症度の高いことが多く,頭部における脳振盪,急性硬膜下血腫,そして頸部における頸髄損傷が本競技に特徴的である.
 一方,「障害」については現場の認識が低いことが多いが,脳振盪後症候群,頸椎症など,現役時から潜在的に進行し引退後に症状が発症する慢性の神経系疾患もあり,注意が必要である.
 近年米国プロフットボール界では,脳振盪による後遺障害の実態が明らかになってきており,ルール変更によるヘルメット同士の故意の当たりに対する厳しい罰則などの厳粛な対応が取られている.

アメリカンフットボールに特有な「外傷」

 アメリカンフットボールは,最も激しいcollision(衝突)sportsのひとつであり,外傷・障害の発生は高率である.
 本競技の「外傷」の特徴として,まず全身のあらゆる部位に発生し得ることが挙げられる.表1は,わが国における最も規模の大きい外傷調査の結果であるが,それによると膝関節,足関節が最も多いものの,肩・鎖骨,頭部,頸部,肘,下腿,大腿,腹部などにもみられ,非常に広い範囲に発生している1).

 また,重症度の高い「外傷」が発生することも本競技の特徴といえる.アメリカンフットボールに特有な重症外傷として,頭部における脳振盪,および急性硬膜下血腫,そして頸部における頸髄損傷がある.

1.脳振盪
 現場では比較的よく経験されるものではあるが,その医学的な病態についてはいまだ明らかではない.最近では,頭部打撲により生じた一過性の混乱や健忘であり意識消失の有無は関係なく,またその発症は打撲直後でもその数分後でも起こるものとされている.
 脳振盪受傷後の競技復帰の時期については,以前から多くの議論があるが,いまだそれを決定し得る医学的なエビデンスはなく,現在も現場においては重大な問題となっている.2004年,国際スポーツ脳振盪会議(プラハ)において,「脳振盪と診断されればその試合,練習には戻れない」との提言が出された.今後スポーツにおける脳振盪への対応は,後述する後遺障害の問題からも,さらに厳しくなるものと思われる.

2.急性硬膜下血腫
 ヘルメットへの強い衝撃により頭部に回転加速度が発生し,脳表のずれにより架橋静脈に牽引力が生じて破綻,出血するもので,きわめて死亡率が高い.アメリカンフットボールの死亡事故のほとんどがこの急性硬膜下血腫であるが,わが国における調査では,夏合宿に,そして下級生に多く発生する傾向が強く,疲労による集中力の低下などがその要因と考えられている2).
 受傷機転からもヘルメットでその予防をするのは困難であり,選手のコンディショニングの改善から,頭部へのヒットが含まれる練習メニューの制限などに至るまで,チームでの組織的な対策が必要となる.

3.頸髄損傷
 アメリカンフットボールにおいては,頭(顔)を下げて頭頂部からタックルした際,ストレートになった頸椎に強大な軸圧外力がかかり,頸椎脱臼骨折が生じて発生することが多い.ディフェンスバックが離れた距離からスピードに乗ってボールキャリアをタックルするプレーなどで多いとされている.軸圧損傷のため,頸部の筋力強化で予防することは不可能であり,頭(顔)を上げて頭頂部で当たらない安全なタックリングの技術指導が最も重要な予防対策となる.

認識されにくい「障害」

 アメリカンフットボールにおける慢性の「障害」は,急性の「外傷」に比べ周囲から直接わかりにくいこともあり,現場でのその認識はやや低いものと思われる.
 しかしながら,現役時から潜在的に進行する頭・頸部の「障害」のなかには引退後に症状が発症するものもあり,競技後の人生のほうがはるかに長いことを考えれば,とくに長期に継続する神経系の「障害」についてはより重大な認識をもって厳密に対処すべきである.本稿では2つの「障害」について解説する.

1.脳振盪後症候群(Postconcussive syndrome)
 単独あるいは複数回の頭部外傷に引き続いて起こるもので,その臨床症状は多彩であり,単一の病態として定義することは難しい疾患概念である3).
 「Sports-related concussion」4)のなかでは,現役時代に脳振盪をくり返し,脳振盪後症候群と診断された元NFL(National Football League)の選手たちが,記憶障害,性格変化,理解力低下,うつなどを発症し,引退後も夫婦,家族,社会との関係に支障をきたしている状況が,実名入りで公表されている.

2.頸椎症
 筆者らは,引退後10年以上経過した選手の頸椎の形態的変化を単純X線像にて調査した5).その結果,椎間孔の狭小化は経験者の70.8%に認められ,非経験者(33.3%)よりも有意に多かった(図1).

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