レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系は, 脈管学に関与する液性因子群の中心に位置する内分泌系と言って過言ではありません. 1898年, TigerstedtとBergmanはウサギ腎臓抽出物を生理食塩水に薄めて他のウサギに静脈注射し, 血圧上昇を観察してレニンを発見しました. その後, 昇圧の本態はレニンではなくアンジオテンシンIIであることが1940年にわかり, その生化学的機序も1950年代に解明されました. 1977年には, 世界で最初の非ペプチド性アンジオテンシン変換酵素阻害薬カプトプリルが誕生し, 1988年には臨床応用可能な非ペプチド性アンジオテンシンII受容体拮抗薬ロサルタンが開発されました. 同じ頃に, アンジオテンシンII受容体にタイプ1とタイプ2があることがわかり, ノックアウトマウスの解析によってアンジオテンシンIIの昇圧以外の作用や受容体以降の細胞内シグナルも詳細に検討されました. 21世紀になると, 最古のRAA系抑制薬であるスピロノラクトンを改良し副作用を少なくした新しい鉱質コルチコイド受容体拮抗薬エプレレノンや, 臨床応用可能な直接的レニン阻害薬アリスキレンが開発され, RAA系はその上流から最下流に至るまで研究し尽くされ, 臨床応用可能な阻害薬も出揃った感がありました. 近年, 多様化する脈管学研究のなかでRAA系一筋に研究を続けてこられた先生方がいらっしゃり, 若い世代へ引き継がれようとしています. その理由は, 本特集で明らかなように, RAA系はさらに多様化し新規のペプチドや酵素, 受容体が今なお発見され続け, それらの経路が解明されつつあるからです. それら新規RAA系は, 内分泌関連疾患に留まらず腫瘍や炎症性疾患にも関与する可能性が示唆されています. 脈管を調節する内分泌系の中心に位置する古くて新しいRAA系が今後どのような展開をみせていくのか, 興味は尽きません.