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特集 インクレチンと心血管障害

特集にあたって

井口登與志

Angiology Frontier Vol.12 No.1, 10-10, 2013

近年, 糖尿病患者数の増加に伴い, 糖尿病性合併症の発症と重症化の予防はわが国のみならず世界的に重要な課題となっている. このような背景のもとに糖尿病治療は急速に進歩し, さまざまなインスリン製剤や血糖降下薬が臨床応用可能となってきたが, 特に近年登場したインクレチン関連薬は糖尿病治療に大きな変革をもたらしている. これまでの血糖降下薬治療に伴う問題点として, 低血糖, 肥満, そして膵臓β細胞への過剰な負荷によるβ細胞の疲弊などが挙げられていたが, これらの問題点を回避できる可能性のある血糖降下薬としての期待から, 2009年12月に最初のDPP-4阻害薬が登場して以来, わずか3, 4年のうちにその処方数は急増し, すでに最も多く処方されている血糖降下薬となっている. 上記のような血糖降下薬としての利点とともに最近注目されているのが, インクレチン関連薬の血糖低下作用を超えた多面的作用である. 特に, その膵外作用として心腎血管系疾患への有効性の可能性が報告され, 注目を集めている. 今回の特集では, 期待も込めてこのインクレチン関連薬の心腎血管系への有効性に焦点をあて, エキスパートの先生方に概説していただいた. インクレチン研究のわが国を代表する先生方に, インクレチンの基礎, GLP-1受容体作動薬およびDPP-4阻害薬の基礎と臨床について解説をいただき, さらに最新の研究成果を血管内皮細胞障害改善作用, 抗動脈硬化作用, 腎保護作用および心保護作用の観点より紹介していただいた. 糖尿病の合併症としての心腎血管系疾患の管理は, 日常臨床の場においてきわめて重要な課題となっている. エキスパートの先生方にご執筆いただいた今回の特集が, 読者の方々のインクレチン関連薬についての理解を深め, かつ日常診療に役立ち, 結果として糖尿病心腎血管合併症の抑制に少しでもつながることを願っております.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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