Summary
血管系と代謝系は,個体のホメオスタシスを維持するために常に密接に関わり合いながら機能している。その連関は生理機能の維持に重要なだけでなく,メタボリックシンドロームの発症にも深く関わっていることが明らかになりつつある。脂肪組織の肥満では,慢性炎症と捉えられる組織学的変化が生じているが,このとき血管は脂肪細胞新生やマクロファージの浸潤に必須である。動脈硬化と脂肪組織の肥満は,両者とも慢性炎症と捉えることができ,病態の分子機構においても多くの共通点があることが強く示唆される。
Key words
●慢性炎症 ●血管新生 ●マクロファージ ●メタボリックシンドローム
はじめに
脂肪細胞が単に脂質を蓄積しているだけでなく,内分泌臓器として活発にアディポカインを分泌して全身代謝に影響を与えていることが明らかとなり,メタボリックシンドロームは脂肪組織,特に内臓脂肪の肥満を基盤とする病態として概念付けられている1)2)。つまり,内臓肥満によりメタボリックシンドロームを発症すると易動脈硬化状態をきたすと考えられている。ところが一方で,メタボリックシンドローム,あるいは糖尿病が動脈硬化と同様に慢性炎症性疾患であるという概念も広く提唱されるようになっている3)。
本稿では,脂肪組織における血管の役割と病態における慢性炎症の役割についてみていきたい。
1 脂肪組織機能と血管
脂肪組織は,単に受動的に脂質を蓄積するだけの臓器ではなく,エネルギー源としての脂質の流れをダイナミックに制御している。末梢臓器でエネルギーが必要な場合には蓄積した中性脂肪を分解し,遊離脂肪酸として末梢臓器へ送る。逆に,食後などに血中脂質が増大したときには,中性脂肪のクリアランスを進めるとともに遊離脂肪酸の放出を抑制し,末梢臓器に過剰な脂質が送られないようにするバッファーとして機能する4)。過剰な遊離脂肪酸,あるいは末梢臓器への脂質蓄積はインスリン抵抗性など代謝異常や血管障害を惹起する(脂肪毒性(lipotoxicity))ことから,脂質組織による脂質の流れの制御が重要であることがわかるだろう。
脂質需給の制御には,血管が必要であることが知られている。たとえば,食事に伴い脂肪組織への血流量は健常人において倍加する5)。このような血流の変化は,脂質や糖などの利用と蓄積に寄与する。肥満やインスリン抵抗性があるとこのような血流量の調節が鈍り,脂肪組織単位重量あたりでみると食後の血流増大がみられなくなり,脂肪組織による中性脂肪の引き抜きも低下する6)。また,インスリンによる遊離脂肪酸放出抑制作用も低下する。結果として,食後の遊離脂肪酸や中性脂肪濃度の上昇をもたらし,骨格筋,肝臓や膵島への脂質蓄積を引き起こす。
肥満において脂肪組織への血流変化のダイナミックな制御が乱れるメカニズムはまだ明確ではないが,インスリンの直接作用や交感神経系を介した間接作用が重要であると考えられている。この点から,内皮細胞におけるインスリン抵抗性が骨格筋や脂肪組織への血流配分を乱している可能性がある7)また,肥満に伴う血管網自体の構造的変化とともに,内皮細胞や平滑筋細胞といった血管細胞の機能障害が基盤にある可能性がある。いずれにしろ,肥満やインスリン抵抗性はホメオスタシス維持に必要な血流の変化を障害し,代謝臓器機能を悪化させ,さらにインスリン抵抗性や肥満を増悪させることになる。
このように,代謝と血流量の調節は常に連関しており,血管構築の改変や血管細胞機能の変化を基盤とする血管機能障害は,代謝を担う細胞と血管との緊密なクロストークを乱し,肥満やインスリン抵抗性,糖尿病の発症・進展において重大な役割を果たすことになる7)。
2 脂肪組織の肥満と血管
肥満した内臓脂肪からは,インターロイキン(interleukin;IL)-6や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)-αなどの炎症性サイトカインが産生・分泌され,逆に抗炎症作用を有するアディポネクチンの発現は低下する。肥満脂肪組織由来の炎症性サイトカインは,過剰な遊離脂肪酸とともに遠隔組織で炎症シグナルを活性化し,インスリン抵抗性や動脈硬化などの慢性炎症性疾患を惹起することが考えられている8)。当初,脂肪細胞が主たる炎症性サイトカインの産生細胞と考えられていたが,肥満脂肪組織に多数のマクロファージが認められることが明らかとなり9),炎症性細胞の寄与が強く疑われるようになった。同時に,脂肪組織自体に炎症が生じていると示唆されるようになった。ところが,組織学的変化についての検討は少なく,炎症の基盤となる明確な組織学的変化が生じているかどうかは明らかではなかった3)。その技術的な理由として,脂肪組織が脆く,固定・切片作製の際に組織構築を維持することが難しいこと,また大きな脂肪細胞が主体であることから,切片の観察から三次元的なイメージを捉えることが難しいことが挙げられるだろう。
われわれは,肥満脂肪組織における変化を直接検討するために,生きている脂肪組織をそのまま観察できる新しいイメージング法を開発した10)。この手法で,db/dbマウスで急速に肥満が進行する8週齢の精巣上体脂肪組織を観察したところ(図1),レクチン陽性の小さな細胞に取り囲まれた小型脂肪細胞が多数存在することを見出した(図1B)。
細胞集団のなかにある小型脂肪細胞は,新しく分化成熟している途上の脂肪細胞であり,この細胞集団は脂肪新生(adipogenesis)の場であると考えられた。この細胞集団の近傍には必ず血管があり,しばしば血管のsproutingもみられることから(図1D,E),細胞集団は血管新生(angiogenesis)の場でもあると考えられた。実際,抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)抗体を用いて血管新生を抑制したところ,血管新生だけでなく小型脂肪細胞を含む細胞集団が全くみられなくなった。つまり,脂肪新生には血管新生が必須であることが明らかとなった(図1C)。このように,脂肪新生と血管新生が密接に連関していることから,われわれは肥満の際に脂肪新生をもたらすこの細胞集団をadipo-/angiogenic cell clustersと名付けた。
3 脂肪組織肥満と免疫細胞
マウスの肥満内臓脂肪では,adipo-/angiogenic cell clustersと異なったタイプの細胞集団も出現する。マクロファージが王冠状に脂肪細胞の周囲に集合することから,Crown-like structures(CLS)と呼ばれ,死んだ脂肪細胞をマクロファージが包み込む像と考えられている(図2) 11)。
CLSは,脂肪組織の炎症で典型的にみられる変化の1つである。
最近,マクロファージに多様なサブタイプがあることに注目が集まっている。肥満で増えるマクロファージは古典的な活性型(M1)マクロファージであり12),炎症を進め,TNF-αなどのサイトカインを介して脂肪細胞機能を障害する13)。このM1マクロファージの集積を阻害するさまざまな介入によって,脂肪組織の炎症だけでなく全身のインスリン感受性にも影響を与えることが報告されており14)-16),脂肪組織局所の炎症が全身的な作用を及ぼすことが示されている。一方,脂肪組織にはもともとM2型のマクロファージが存在し,炎症を抑制する機能をもつことが示唆されている。
われわれは,マウス精巣上体脂肪組織間質で高脂肪食負荷の早期からCD8⁺T細胞が増加し,これに遅れてマクロファージが集積することを見出した17)。逆に,CD4⁺T細胞や制御性T細胞は肥満後期に減少する。この結果から,CD8⁺T細胞が脂肪組織炎症を惹起すると考え,検証した。その結果,CD8抗体によるCD8⁺T細胞除去により脂肪組織炎症は著明に抑制され,高脂肪食負荷に伴うインスリン抵抗性も抑制された。同様に,CD8⁺T細胞の存在しないCD8aノックアウトマウスでは,高脂肪食負荷によってもマクロファージの集積は生じなかった。このCD8aノックアウトマウスにCD8⁺T細胞を養子移植したところ,脂肪組織での明確な炎症所見がみられるとともに,耐糖能およびインスリン感受性の低下が認められた。
以上の結果より,CD8⁺T細胞は肥満早期に脂肪組織に集積し,炎症のカスケードを惹起すると考えられた(図3)。
われわれの結果は,自然免疫系の細胞だけでなく獲得免疫の機構が肥満に伴う脂肪組織炎症の制御に必須であることを明確に示すものである18)。ほかにも,CD4⁺Th2細胞およびCD4⁺制御性T細胞が,脂肪組織での炎症を抑制する機能をもつことが示唆されている。またごく最近,好酸球がM2マクロファージの維持に必須であることが報告された19)。
4 肥満脂肪組織の血流・細胞ダイナミクス
われわれは,脂肪組織内血管における細胞・分子現象をリアルタイムで観察する方法を開発した20)。この手法を用いることにより,肥満によって血管内皮と白血球の相互作用が亢進することをリアルタイムで明確に示すことができた。肥満では,内臓脂肪の局所において内皮細胞-白血球相互作用が活性化し,白血球は内皮細胞と相互作用しながら血管外へと進出し,CLSなどをつくる。また,血管透過性の亢進も認められ,炎症プロセスの基盤である血管の応答が生じていることが明確になった。
また,肥満に伴い血流が低下することも明らかとなった。血流の低下自体が脂肪組織機能を障害することが考えられるが,さらに低酸素状態を引き起こす可能性もある20)21)。低酸素はさらなる脂肪組織機能の障害,血管・脂肪新生,あるいは炎症惹起に関与している可能性があり,今後の検討が待たれる。
おわりに
これまでみてきたように,脂肪組織の肥満においては内皮細胞-白血球相互作用の活性化,脂肪細胞の新生と細胞死,マクロファージの浸潤,血管新生,間質細胞の活動と組織構築の改変といった,動脈硬化と多くの共通点をもつ組織学的変化が生じる。さらに,肥満の慢性期には線維化も認められる。このような変化は慢性炎症に特徴的なものであり,脂肪組織の肥満は局所的な慢性炎症を惹起するということができる(図3)。
肥満を背景として進行するメタボリックシンドロームや動脈硬化では,血管と脂肪組織を含む代謝臓器の両者において慢性炎症と捉えられる共通した変化が生じている。この背景には,脂質を含む共通したストレス要因,それに対するストレス応答の分子機構,血管と炎症細胞や実質細胞の相互作用など,共通した分子機構・細胞応答が基盤として重要である。今後,このような共通した分子基盤を検討することによって,さらに肥満による病態形成の分子機構が明確になると考えられる。また病態を慢性炎症と捉えたとき,マクロファージなどの炎症細胞に加えて,組織内の血管や間質に存在する線維芽細胞などの機能と,これらの細胞の相互作用を理解することが必須となる。このような観点からの研究は病態の理解をもたらすだけでなく,新たな治療標的の同定にもつながるものと期待される。実際,われわれが示したように抗VEGF抗体や抗細胞間接着分子(intercellular adhesion molecule; ICAM)-1抗体は脂肪組織の炎症を抑制し,全身代謝を改善する可能性がある10)20)。また,抗炎症薬が代謝を改善することが報告されている22)23)。今後,血管と代謝組織におけるストレス応答の共通点と相違点をさらに解明することにより,新たな治療法開発に発展することが期待される。
文 献
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東京大学大学院医学系研究科循環器内科特任准教授
真鍋 一郎 Ichiro Manabe