はじめに
冠動脈,頸動脈あるいは大動脈における石灰化は,糖尿病,慢性腎臓病,加齢に伴って高率に認められる。長い間,血管石灰化は血管細胞の変性過程に起こるCa結晶の受動的な沈着であり,加齢に伴う生理的な現象と考えられていた。そのため,ほとんど研究の対象とならなかったが,骨形成に関わる蛋白質の発現が血管石灰化部分に確認されたことを契機に病態生理を解明する基礎研究が進み,現在では骨形成に類似した能動的な過程と考えられるようになった。
本稿では,基礎と臨床の両方の視点から血管石灰化研究のトピックスを概説する。
冠動脈石灰化の臨床的重要性
マルチスライスCTや電子ビームCTによる冠動脈カルシウムスコア(coronary artery calcium;CAC)の予後予測における意義については議論がある。急性冠症候群患者における血管内エコー検査で,責任病変でのCACは非責任病変のCACよりも軽度であり,CACはプラーク破綻や冠動脈血栓に起因する急性冠イベントよりも,むしろ慢性症候性冠動脈疾患と関連するということが一般的に考えられている。こうした知見は,血管石灰化が急性イベントに対して保護的に働くことを示唆するが,プラークの安定性に対する影響はプラークのCaの量だけによるものではないことも示している。解剖学的構造に基づく理論的解析では,プラーク破綻は硬さの異なる物質間の界面で起こる傾向がある。電子ビームCTによってCACを評価した無症候の25253人の患者を平均6.8年追跡した観察研究によると,CACは古典的な冠危険因子とは独立して全死亡率に寄与する因子であることが報告された1)。
冠動脈の高度石灰化病変は,冠動脈インターベンション時に解離や穿孔,破裂などの重篤な合併症の頻度を増大させることから,現在,石灰化の存在は冠動脈カテーテル治療の大きな障壁となっている。さらに,Niskanenらは2型糖尿病患者の10年間の前向き調査で,中膜石灰化の存在が心血管死亡率と強く相関することを示した2)。
血管壁の骨芽細胞の起源
Tintutらは,ウシ大動脈中膜より骨芽細胞,軟骨細胞,平滑筋細胞,ストローマ細胞などへの多分化能をもつ中胚葉幹細胞様の性質の細胞集団(calcifying vascular cells;CVC)を単離し,このCVCが血管石灰化を形成する細胞の起源であろうと報告した3)。一方,Speerらは血管壁にて石灰化する細胞の起源が血管平滑筋細胞であることを実証した4)。彼らは,血管平滑筋細胞に特異的に発現するSM22α遺伝子のプロモーターの下にCreリコンビナーゼ遺伝子を組み込んだ遺伝子をもつトランスジェニックマウス(SM22-Cre)とRosa26マウス(R26R-LacZ)を交配させて,血管平滑筋細胞特異的にLacZが発現するマウス(SM22-Cre/R26R-LacZ)を作製した。このマウスでは,中膜平滑筋細胞がLacZを発現する。このマウスとマトリックスγ-カルボキシグルタミン酸蛋白(matrix gamma-carboxyglutamic acid protein;MGP)欠損マウスを交配させ中膜血管石灰化を誘導すると,中膜に存在するLacZ陽性の血管平滑筋細胞がオステオポンチン陽性の骨軟骨細胞に分化することが明らかになった。また,SM22-Cre/R26R-LacZマウスの大動脈中膜より血管平滑筋細胞を調製し,高いリン濃度(3mM)で培養する実験を行ったところ,リンによって誘導される血管平滑筋細胞の骨軟骨細胞分化(Runx2の発現増加や血管平滑筋細胞遺伝子の発現抑制)はMEK阻害薬であるU0126存在下では認められなかったことから,血管平滑筋細胞が骨軟骨細胞へ分化する過程にはMEKによるErk1/2のリン酸化が重要であることが明らかになった。
血管石灰化の鍵因子の機能
1.BMP2
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のDemerやシアトルのワシントン大学のGiachelliのグループは,骨形成に重要な分子である骨形成蛋白質(bone morphogenetic protein;BMP)2やオステオポンチンがヒト動脈硬化病変に発現することを組織病理的に示した。また,骨形成に必須の転写制御因子Runx2やMGP,オステオプロテジェリン(osteoprotegerin;OPG)やアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase;ALP)など骨組織に特徴的な蛋白がヒト動脈硬化病変に発現することも明らかにされた5)-7)。BMP2は形質転換増殖因子(transforming growth factor;TGF)-βスーパーファミリーに属する分子であり,細胞表面上のBMP2受容体に作用し,細胞内のシグナル伝達を起こす。血管石灰化に関わるさまざまな細胞(血管平滑筋細胞,筋線維芽細胞,血管周囲細胞,血管内皮細胞,マクロファージ)がBMP2を発現する。BMP2は骨形成に関わる2つの転写因子(Msx2とRunx2)を活性化させ,骨形成においてMsx2は主に膜性骨化に,Runx2は軟骨内骨化に関与する(図1)。
Nakagawaらは,培養ヒト冠動脈平滑筋細胞を用いて,脱分化した血管平滑筋細胞ではBMP2が産生・分泌され,BMP2の内因性アンタゴニストであるnoggin,chordin,MGPの発現は低下していること,脱分化した血管平滑筋細胞の培養上清がC2C12細胞を骨芽細胞に分化誘導することを示した8)。さらに,平滑筋α-アクチンプロモーターを用いてBMP2を血管平滑筋細胞に特異的に発現させたマウス(BMP2-Tg)をApoE欠損マウス(apoE-KO)と交配させることによってBMP2-Tg/apoE-KOマウスを作製した。このマウスでは,高脂肪食餌にてALP陽性細胞数が増加し,動脈硬化性内膜石灰化領域が大きくなっていた。このことは,血管平滑筋細胞から分泌されるBMP2が,動脈硬化誘導性の環境下で内膜の石灰化を誘導することを示している。
またYaoらは,MGP過剰発現マウス,またはMGP欠損マウスとApoE-KOマウスを交配させたマウスを作製した。MGP過剰発現/apoE-KOマウスでは動脈硬化病変や石灰化病変は減少,ALK1,血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)の発現は低下した。一方,MGP欠損/apoE-KOマウスではBMP2の活性は亢進し,ALK1,VEGFの発現は増加し,また中膜にびまん性の石灰化が起こった。しかし,予想外に動脈硬化病変は減少した。この理由として,BMP2の活性化制御が異常であると血管内皮細胞の分化や単球の機能にも影響を与え,接着分子の発現や他の炎症性蛋白の発現が抑制されることが推定されている9)。
2.Runx2
転写因子Runx2(Cbfa1とも呼ばれる)はRuntドメインをもち,骨軟骨細胞分化に必須の転写因子である。Runx2の標的遺伝子としては,オステオカルシン,オステオポンチン,ALPなどがある。Runx2は動脈硬化病変において発現し,骨軟骨細胞に特異的な遺伝子の発現を誘導するとともに,myocardin/血清応答因子(serum response factor;SRF)複合体による血管平滑筋細胞特異的遺伝子の発現を抑制する10)(図2)。
3.Notch
Notchシグナルは,血管平滑筋細胞分化を調節するシグナルとして重要である11)-14)。また,ヒト冠動脈内膜切除標本や頸動脈プラークにはMsx2,Runx2,Osterixなど骨形成に必須な転写制御因子やNotchシグナル分子が発現する。また,ヒト大動脈由来血管平滑筋細胞にNotch1を強制的に発現させると,血管平滑筋細胞は骨芽細胞様の細胞に分化する。一方,Msx2をsiRNAによってノックダウンした血管平滑筋細胞では,Notchによる骨芽細胞への分化はほぼ完全に消失する。また,NotchシグナルはRBP-JK結合配列を介してMsx2プロモーターを活性化させる。こうした結果は,NotchはMsx2経路を活性化し,血管石灰化を促進することを示している15)。
4.Msx2
中膜石灰化は膜性骨化に似た組織像を呈することより,BMP2-Msx2経路が中膜石灰化病変の形成に深く関わるものと考えられている。Msx2は,先天的に頭頂骨に欠損孔のある家系を調べるなかで発見された骨関連因子で,ホメオドメインをもつ転写因子である。Msx2の機能喪失は頭頂骨癒合不全を起こし,逆にMsx2の作用が強いと頭蓋骨癒合症(新生児の頭蓋骨縫合が早期に閉鎖し,その結果,特有な頭蓋の変形をきたす疾患)を起こす。中膜石灰化を示すLDL受容体欠損マウスでは,Msx2の発現は中膜ではなく外膜にみられ,外膜に存在する筋線維芽細胞や血管周囲細胞はBMP2に反応してMsx2を発現する。高血糖,酸化脂質,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)αなどの刺激あるいは高リン血症では,外膜の筋線維芽細胞のBMP2-Msx2シグナルが活性化され,中膜平滑筋細胞ではオステオポンチンの発現が増加する。
5.RANKL,RANK,OPG
TNFαファミリーに属する3つの因子RANK(receptor activator of nuclear factor κB),RANK ligand(RANKL),およびOPGは,骨と免疫系の調節因子として機能する分子である16)。RANKLはT細胞や骨芽細胞に発現し,樹状細胞や破骨細胞,あるいはその前駆細胞に発現するRANKに結合して,骨吸収作用をもつ多核破骨細胞への分化を促進する。また,RANKLは成熟した多核破骨細胞の機能亢進作用,生存作用をもつ。OPGは心臓,血管を含む多くの組織に発現し,血管では血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に発現する。RANKLは,正常の血管ではほとんど発現していないのに対して,動脈硬化病変における石灰化病変では発現が増加し,OPGの発現は不変~低下する。OPGは,可溶性の「デコイ」受容体としてRANKLに結合してRANKL/RANKの作用を阻害する。したがって,RANKLとOPGのバランスによって多核破骨細胞の分化や機能が調節され,それによって骨吸収,骨形成が調節される。
ヒトの動脈硬化病変での免疫染色にて,RANKLとOPGは早期~進行した動脈硬化病変に発現し,OPGはミネラル化した骨様組織の縁に発現し,RANKLはCa沈着を取り囲む細胞外マトリックス(extracellular matrix;ECM)内に発現する。したがって,RANKLは動脈硬化病変の早期のミネラル化に関与すると考えられる。破骨細胞様のRANK陽性細胞は,RANKLを発現する細胞の近傍に存在することから,RANKLおよびOPGは骨芽細胞様細胞から産生され,破骨細胞様細胞の形成と活性を調節すると考えられる。また,RANKLはケモカインの放出,マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase;MMP)の活性化,単球・マクロファージの遊走を刺激する。一方,中膜石灰化では石灰化領域を取り囲んでOPGが発現し,RANKLの発現はほとんど検出されない。アポトーシス誘導因子TRAILの発現は,OPGの発現と同様である17)。
血管壁には,破骨細胞様の細胞が存在する。循環している単核球の前駆細胞が血管壁に入り,マクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony-stimulating factor;M-CSF)とRANKLの作用によって破骨細胞に分化する。血管内皮細胞,血管平滑筋細胞,単球・マクロファージはM-CSFを産生し,血管内皮細胞はRANKLとOPGをも産生する。そして,骨のリモデリングと同様に,動脈壁でも骨芽細胞様の細胞によるCaの蓄積と破骨細胞様の細胞によるCa吸収のバランスが働いている18)(図3)。
BucayらはOPG遺伝子の欠損マウスを作製し,OPG欠損マウスでは早期の骨粗鬆症と中膜石灰化が起こることを報告した19)。OPGは,骨粗鬆症と血管石灰化の合併を説明する因子であることを示す多くのデータがある。しかし,いまだに骨ではミネラルが喪失し,血管では蓄積するという現象がどのようなメカニズムかは不明である。血管では,OPGが不足すると破骨細胞様細胞が活性化するにもかかわらず,Ca蓄積の方向に傾くメカニズムの解明が待たれる。
Osakoらは,閉経後女性で骨粗鬆症と血管石灰化が合併するメカニズムを解析した20)。血管平滑筋細胞と血管内皮細胞がRANKL,RANK,OPGを発現すること,血管平滑筋細胞にRANKLを添加すると抗OPG抗体存在下で骨芽細胞分化を誘導すること,また,血管内皮細胞にRANKLを添加するとBMP2の発現を誘導すること,エストロゲンは,血管内皮細胞にてα型エストロゲン受容体(estrogen receptor;ER)αを介してRANKLによるBMP2の発現誘導を抑制すること,またRANKLによって誘導される血管平滑筋細胞の骨芽細胞への分化を抑制すること,そしてこの作用は,MGP siRNAによって消失することを明らかにした。つまり,エストロゲンは血管平滑筋細胞にMGPの発現を誘導することによって血管内皮細胞から分泌されるBMP2の作用を抑制し,骨芽細胞への分化,石灰化を抑制するというメカニズムを提唱した。Kiechlらは,909人のコホートを15年間フォローし,血清RANKLレベルが古典的な危険因子,C反応性蛋白(C-reactive protein;CRP),頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(intimal-medial thickness;IMT),OPGレベルとは独立して,心血管イベント(脳梗塞,一過性脳虚血,心筋梗塞,心血管死)の予測因子であったと報告した21)。ハザード比は,1.27(95% CI,1.16~1.40,p<0.001)であった。動脈硬化度とは独立した因子であり,RANKLはプラーク不安定化やラプチャーの指標になるのかもしれない。
6.Caとリン
高リン血症とCaxP値の高値は,血管石灰化を促進する。そして,石灰化の進行は血清リン濃度,CaxP値,Ca摂取量に相関している。無機リンが血管平滑筋細胞の石灰化を引き起こすメカニズムについて,多くの知見が得られている22)。培養ヒト血管平滑筋細胞を高リン濃度(>2.4mM)で培養すると,細胞を取り囲むECM中にヒドロキシアパタイトの蓄積が起こる。無機リンは,Na依存性リン共輸送体(Pit-1)を介して血管平滑筋細胞が形質変換を起こし,血管平滑筋細胞特異的遺伝子の発現抑制,骨芽細胞特異的遺伝子(オステオポンチン,オステイカルシン,Runx2)の発現亢進が起こる。また,無機リンは細胞生存に関与する分泌蛋白Gas6(growth arrest-specific gene 6),およびその受容体Axlの発現を抑制することによってアポトーシスを誘導することも報告されている23)。
Shroffらは,透析患者における血管石灰化のメカニズムを明らかにするために透析前の血管からの組織病理学的な解析をし,臨床的指標,生化学指標,血管指標との関連を解析した。腹膜透析のカテーテル挿入時や腎移植時に大網動脈を採取し,Ca含量とALPレベルを検討した24)。その結果,透析前の全患者の血管で,Kossa染色では明らかな石灰化がなくてもCa含量は対象の2倍以上に増加していた。透析患者では4倍以上に増加しており,Kossa染色で中膜と内弾性板に沿ってびまん性の点状石灰化が認められた。Ca含量は,透析期間,CaxP積,頸動脈IMTと関係した。脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)は関連しなかった。また,TUNEL染色でアポトーシスを検討すると,透析患者の血管で有意にアポトーシスが亢進していた。骨芽細胞への変換(Runx2陽性細胞で評価)は透析前血管でもみられ,透析血管ではさらに増加していた。また,石灰化を阻害する因子で血管平滑筋細胞から分泌されるMGPとfetuin-Aは透析前から発現が増加し,透析血管ではさらに増加していた。
7.MGP
MGPは,BMP2の機能を抑制することで血管平滑筋細胞や間葉系細胞が骨芽細胞に分化する過程を阻害する。LuoらはMGP欠損マウスを作製し,弾性動脈および筋性動脈中膜の血管平滑筋細胞は軟骨細胞で置換され,高度に石灰化が起こることを見出し,MGPは血管石灰化や軟骨の石灰化を抑制する因子であることを報告した25)。MGP欠損マウスでは,OPGの欠損マウスと比較して広範に血管石灰化が起こり,血管破裂も2ヵ月以内に起こる。しかし,骨粗鬆症はみられない。
8.Receptor for advanced glycation end products
S100A12(calgranulin Cとも呼ばれる)は,冠動脈粥腫のプラーク破裂と関連がある炎症性サイトカインで,receptor for advanced glycation end products(RAGE)に結合し,細胞内に炎症シグナルを惹起させる。S100A12は分化型血管平滑筋細胞には発現が認められないが,動脈硬化病変,特にラプチャーしたプラークで強く発現する。Hofmannらは,S100A12はマウスでは発現が認められないことを利用して,血管平滑筋細胞に特異的にヒトS100A12を過剰発現させたマウスを作製した26)。その結果,胸部大動脈の瘤状の拡張が認められた。また,ApoE-KOマウスと交配して得られたマウス(S100A12/ApoE-KO)では,動脈硬化プラークの面積が1.4倍増加するだけでなく,石灰化の面積が約6倍増加した。また,マウスの培養大動脈平滑筋細胞および大動脈組織で,BMPや骨芽細胞特異的遺伝子(Runx2,Dmp-1,BGLAP)の発現が増加していた。さらに,尿中8-isoprostane濃度も増加していた。S100A12/ApoE-KOマウス由来の培養平滑筋細胞でのRunx2,BMP2などの発現亢進は,NAD(P)Hオキシダーゼ阻害薬(apocynin,DPI)にて抑制された。ただし,S100A12/ApoE野生型マウスでは血管石灰化は最小限しか誘導されなかったことから,S100A12は酸化ストレスが亢進している環境下で血管平滑筋の酸化ストレスによる機能障害を促進すると推定される。そして,NAD(P)Hオキシダーゼの構成サブユニットであるNox1が直接RAGEと蛋白-蛋白相互作用することを示した。したがって,S100A12のリガンドはRAGEとNox1のヘテロダイマーに結合して細胞内にシグナルを伝えていると考えられる。われわれは最近,RAGEの活性化によってNotch経路依存性に血管平滑筋細胞が骨芽細胞に分化することを報告した27)。またCecilらは,ピルビン酸欠損マウスでの血管石灰化においてRAGEが主要な役割をしていることを報告した28)。したがって,高血糖,慢性腎臓病,加齢などで血管石灰化が高頻度に起こるメカニズムとして,RAGEの活性化が関与している可能性がある(図4)。
おわりに
血管石灰化の臨床的意義とメカニズムを解説した。血管石灰化は能動的な過程によって形成される病態であることが示され,その制御機構も徐々に明らかにされつつある。BMP2や転写因子Runx2,Msx2などが中心的な役割をもつが,BMP2そのものの発現を調節する因子,BMP2経路を細胞内外から調節する因子,さらにBMP2とは無関係に血管石灰化を制御する因子もあり,複雑なメカニズムである。さらに,免疫や炎症の制御に重要なRANKL/RANK/OPGが骨リモデリングと血管石灰化との協調的な制御に深く関わっていることが明らかになった。血管石灰化機構の解明によって,画期的な予防薬,治療薬の開発がなされることが期待できる。血管石灰化研究は,血管医学のなかで最もホットな領域の1つである。
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群馬大学大学院医学系研究科臓器病態内科学教授
倉林 正彦