Summary

 今までに施行された大規模臨床試験から心血管疾患に対するスタチンの有効性は確立されているものの,そのメカニズムは不明の点も多い。近年の血管内超音波(IVUS),IB-IVUS,VH-IVUS,光干渉断層像(OCT)などによる侵襲的,あるいは冠動脈CT(CTA)による非侵襲的冠動脈イメージングを用いた研究から,スタチン投与により冠動脈プラークは量的にも質的にも変化することが明らかとなった。今後は,おのおののイメージングの弱点を補完しあうmultiple imaging modalitiesを用いた研究や,今回有用性が示された非侵襲的なCTAなどを用いた大規模な検討が必要とされるであろう。


Key words

●スタチン ●OCT ●IVUS ●IB-IVUS ●CTA



はじめに

 近年,食生活,生活習慣の欧米化に伴い,狭心症,心筋梗塞などの虚血性心疾患は増加の一途をたどっている。この背景として,脂質異常症,糖尿病,肥満,高血圧などの,いわゆるメタボリック症候群に連なる冠疾患危険因子の関連が示唆されている。このなかでも,冠動脈プラークの進展に強く関与していることが示唆されているのは脂質異常症である。実際,脂質異常症治療薬であるスタチンは,過去に行われた一次予防,二次予防を目的とした前向きの無作為大規模臨床研究から,心血管イベントの抑制効果があることはすでに確立されている1)-5)。また,動脈硬化の進展が心血管イベントの増加に結び付くことも周知の事実であることから,これら動脈硬化進展のサロゲートエンドポイントとして,定量的冠動脈造影(quantitative coronary angiography;QCA)を用いた最小血管内径(minimum lumen diameter;MLD),血管内超音波(intravascular ultrasound;IVUS)を用いたプラークボリューム,光干渉断層像(optical coherence tomography;OCT)を用いたプラークを覆う線維性被膜の厚み,さらに冠動脈CT(CTA)によるプラークボリュームの変化も近年用いられるようになってきた6)-14)。

 しかしながらその一方で,急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;AMI)を起こした部位における以前の冠動脈造影上冠動脈狭窄率は50%以下のものが約70%を占めていることや,また近年の病理学的検討から,急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)におけるプラーク破綻は全体の3分の2を占めるにすぎず,残る3分の1はプラークエロージョンという従来見過ごされてきた病変から発生することも明らかになってきている15)-17)。

 本稿では,これらの事実もふまえつつ,今までのスタチンを用いた冠動脈プラークの進展抑制試験のなかで,冠動脈イメージングから得られる指標をサロゲートエンドポイントとして用いた研究について検討する。



1 スタチンの効果についての初めての画像診断:QCAを用いた検討

 スタチンによる多くの大規模臨床試験のなかで,初期のランドマーク研究としては4S研究が挙げられる4)。冠動脈疾患の既往がある高コレステロール血症の患者において,シンバスタチンによるコレステロール低下に延命効果があるかどうかを検討したもので,4444例を対象にしたことが4Sの名前の由来となっている。結果は,総死亡がスタチンにより30%低下した。あまり知られてはいないが,同時期にロッテルダムでQCAを用いてシンバスタチンの効果を検討した研究(MAAS study)がある5)。381例を2群に振り分け,AHA分類に従い冠動脈の主要セグメントごとに解析したこの研究では,4年間の各セグメントの平均内径(mean lumen diameter;Mean LD)はプラセボ群が0.08mm進行したのに対し,シンバスタチン群では0.02mmの進行に留まり,したがって0.06mmの進展抑制効果が認められた。同様に,各セグメントのMLDはプラセボ群が0.13mm進行したのに対し,シンバスタチン群では0.04mmの進行に留まり,したがって0.08mmの進展抑制効果が認められた。このように,381例ではイベントに差は出ないものの,QCAによるMean LDとMLDというサロゲートエンドポイントを用いることで,冠動脈硬化の進展抑制がスタチンにより可能となることがこの研究以後示された5)。



2 スタチンの効果を検討する画像診断のmain stream:grey scaleのIVUSを用いたプラークボリュームの検討

 QCAは冠動脈内腔の情報しか得られないのに対し,IVUSは血管壁内プラークが直接的に観察可能である。この特性を生かし,以後のスタチンの効果を画像診断で検討する場合はIVUSによるプラークの定量評価,すなわち血管外膜面積から内腔面積を差し引いた,プラーク面積,あるいはSimpson法を用い,これにプラークの長さを掛けたプラークボリュームの変化量の評価が中心となった。

 この手法のランドマークとなった研究は,NissenらによるREVERSAL試験である6)。この研究では,安定型狭心症患者を対象にプラバスタチン(40mg)を用いた標準治療群(n=249)とアトルバスタチン(80mg)を用いた積極的低下治療群(n=253)の2群に分け,18ヵ月後のプラークボリュームの変化を検討した。低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol;LDL-C)値はプラバスタチン群で平均150.2mg/dLから110.4mg/dLと25.2%低下し,アトルバスタチン群では150.2mg/dLから78.9mg/dLと46.3%低下した。エンドポイントであるプラーク量は,プラバスタチン群で4.4%増加,アトルバスタチン群では0.9%減少したことから(p=0.02),よりLDL-Cを低下させるとプラークは退縮することが報告され,積極的脂質低下療法におけるLDL-C低下の重要性が示唆された6)。同様に,安定型狭心症患者を対象にしたASTEROID試験では,ロスバスタチン(40mg/日)を24ヵ月間投与しプラークの変化を検討したが,LDL-Cは130.4mg/dLから60.8mg/dLまで53.2%低下し(p<0.001),アテロームボリューム率は全体で0.98%減少,また10mmの病変長をもつプラークではその体積は6.1%減少した7)。同様に日本からの安定型狭心症患者を対象にした研究としては,COSMOS研究が挙げられる。このIVUSを用いた試験では,LDL-C 80mg/dLを目標にスタチン量を調節し,18ヵ月後にはプラーク量は5%退縮した8)。

 急性冠症候群(ACS)についても,慢性期の積極的脂質低下療法によりプラーク退縮がもたらされることが,日本人を対象としたESTABLISH研究により明らかになった9)。この研究では,ACSで経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)を施行した70症例をスタチン投与群(アトルバスタチン20mg/日,発症より48時間以内に投与)とコントロール群に無作為化し,6ヵ月後のプラークボリュームをIVUSで評価した9)。プラークボリュームはアトルバスタチン投与群では13.1%退縮したが,コントロール群では8.7%増加した。また,LDL-C変化率とプラークボリュームの変化率は正の相関を示すことも明らかになり,この研究が結果として次のJAPAN-ACSの先行研究になった。

 JAPAN-ACS試験は日本で行われた多施設共同研究で,307例のACS患者を対象にPCIを施行した血管のtarget lesion以外のproximal or distal lesionにおいて,10ヵ月間のアトルバスタチンあるいはピタバスタチン投与がプラークの進展抑制をもたらすか,また2つのスタチンには差がないかを検討し,ピタバスタチンのアトルバスタチンに対する非劣性を示すことを目的とした研究である10)。LDL-Cは,ピタバスタチン(4mg/日,n=153)群で130.9mg/dLから81.1mg/dL(p<0.001)へ,アトルバスタチン(20mg/日,n=154)群で133.8mg/dLから84.1mg/dL(p<0.001)へ低下した。また,ピタバスタチン群ではプラークボリュームは49.8mm³から41.6mm³へと16.9%(p<0.001)減少し,同様にアトルバスタチン群では63.9mm³から53.3mm³へと18.1%(p<0.001)減少し,両群に差はなく,2つのスタチンは同等であることが示された。



3 プラーク性状の評価:RF信号を用いたIVUSの組織学的検索(IB-IVUS,VH-IVUS,iMAP)

 現在,RF信号を用いたプラークの組織性状評価が可能なシステムは,IB-IVUS,VH-IVUS,iMAPの3種類がある。これらは,RF信号処理や画像構成法に差はあるが,プラーク性状に重要な脂質および線維成分の定量評価が可能になっている11)12)。

 IB-IVUSを用いた研究では,Kawasakiらが安定狭心症にプラバスタチン(20mg/日,n=17)を投与した群と,アトルバスタチン(20mg/日,n=18)を投与した群,さらに食事療法群(n=17)の3群に分け,それぞれの6ヵ月後のIB-IVUSでのプラーク組織性状の変化を比較検討している11)。IB値により,各組織をlipid-rich,loose fibrous tissue,dense fibrous tissue,calcificationの4つに分類した。6ヵ月後のLDL-C値は,アトルバスタチン,プラバスタチン群では39%,32%とそれぞれ減少し,食事療法群では2%減少した。IB値による組織性状比較ではlipid volumeの減少とfibrous volumeの増加を認め,スタチンによるプラークの安定化のメカニズムが示唆された11)。

 VH-IVUSを用いたスタチン介入試験は,Hongらによりシンバスタチン(20mg/日)50例とロスバスタチン(10mg/日)50例を対象に行われ,1年後のLDL-Cはロスバスタチンが有意に低かった(78±20mg/dL vs 64±21mg/dL,p=0.002)12)。1年後のプラーク性状はシンバスタチン群では変化を認めず,ロスバスタチン群ではlipid volumeにあたるnecrotic core volumeの減少(15.5mm³から13.0mm³,p=0.015),およびfibro-fatty volumeの増加(4.5mm³から5.9mm³,p=0.017)を認め,より強力な脂質低下療法によるプラーク安定化が示唆された12)。



4 OCTを用いたスタチンの治療効果の評価

 プラークの脂質成分を覆う被膜が薄いことは,よりプラーク破綻をきたしやすい不安定プラークといえる。臨床的にも,ACSをきたしやすいプラークではこの被膜がきわめて薄く,65μm以下の厚みであることがJangらにより報告されている(thin cap fibroatheroma;TCFA)18)。現在,IVUSのaxial resolution(分解能)はせいぜい100~200μmとされていることから,このTCFAの検出はきわめて難しい。一方,OCTのaxial resolutionは10~20μmとされることから,OCTを用いることでTCFAの同定が可能になった18)19)。

 Takaradaらは,AMI症例を対象にスタチン投与群とコントロール群に分け,AMIのnon-culprit lesionsを対象にOCTを用いて線維性被膜の厚みの変化を検討した。スタチン投与群では,LDL-C値は144±22mg/dLから91±12mg/dL(p<0.001)と有意に減少し,線維性被膜もスタチン投与群では151±110μmから280±120μm(p<0.01)とコントロール群に比べてより厚くなり,AMI後のスタチン投与の重要性とその好ましい影響が再確認された13)。一方,OCTではその深達度は血管内面から1~2mmであり,冠動脈全体を観察することはできない。今後,スタチンによるプラークボリュームやプラーク全体の組織性状の変化を検討する際には,他のイメージングモダリティと併用する必要性が示唆されている17)19)。



5 CTAを用いたスタチンの効果判定

 近年,スタチンの効果を冠動脈CT(CTA)を用いて評価した研究を,私たちのグループが報告した。この研究では,フルバスタチンを投与した群とスタチンの服用ができなかった2群に分け,12ヵ月後にCTを再検した。スタチン群では,CTA上のプラークボリュームは92.3±37.7mm³から76.4±26.5mm³に減少し(p<0.01),脂質成分に富むと考えられるlow attenuation plaque volume(ソフトプラークボリューム)も4.9±7.8mm³から1.3±2.3mm³に有意に減少した(p=0.01)のに対し,スタチン服用困難群ではこのような変化は認められなかった14)。したがって,スタチン群とスタチン服用困難群を比較した場合,プラークボリュームの変化量(-15.9±22.2mm³vs 4.0±14.0mm³,p=0.01),ソフトプラークボリュームの減少量(-3.7±7.0mm³ vs 0.2±1.5mm³,p<0.01)とも,スタチン群でいずれも有意な減少が認められた14)。



まとめ

 今回,スタチンの効果をQCA,IVUS,IB-IVUS,VH-IVUS,OCT,CTAなどを用いて検討した今までの研究をreviewした。多くの研究ではスタチンの好ましい効果が示されたが,その詳細なメカニズムはいまだ不明の点も多い。おのおののイメージングデバイスには長所,短所があることから,今後はこれらのデバイスを組み合わせたマルチイメージングデバイスによる,より詳細な検討が必要となろう。


文 献

1)Wood DA:Cholesterol lowering does have a role in secondary prevention. Br Heart J 73:4-5, 1995

2)Tonkin AM:Clinical relevance of statin;their role in secondary prevention. Atheroscler Suppl 2:21-25, 2001

3)Garcia-Garcia HM, Costa MA, Serruys PW:Imaging of coronary atherosclerosis;intravascular ultrasound. Eur Heart J 31:2456-2469, 2010

4)Randomised trial of cholesterol lowering in 4444 patients with coronary heart disease;the Scandinavian Simvastatin Survival Study(4S). Lancet 344:1383-1389, 1994

5)MAAS Investigators:Effect of simvastatin on coronary atheroma;the Multicentre Anti-Atheroma Study(MAAS). Lancet 344:633-638, 1994

6)Nissen SE, Tuzcu EM, Schoenhagen P, et al;REVERSAL Investigators:Effect of intensive compared with moderate lipid-loweing therapy on progression of coronary atherosclerosis;a randomized controlled trial. JAMA 291:1071-1080, 2004

7)Nissen SE, Nicholls SJ, Sipahi I, et al;ATEROID Investigators:Effect of very high-intensity statin therapy on regression of coronary atherosclerosis;the ASTEROID trial. JAMA 295:1556-1565, 2006

8)Takayama T, Hiro T, Yamagishi M, et al;COSMOS Investigators:Effect of rosuvastatin on coronary atheroma in stable coronary artery disease;multicenter coronary atherosclerosis study measuring effects of rosuvastatin using intravascular ultrasound in Japanese subjects(COSMOS). Circ J 73:2110-2117, 2009

9)Okazaki S, Yokoyama T, Miyauchi K, et al:Early statin treatment in patients with acute coronary syndrome;demonstration of the beneficial effect on atherosclerotic lesions by serial volumetric intravascular ultrasound analysis during half a year after coronary event;the ESTABLISH Study. Circulation 110:1061-1068, 2004

10)Hiro T, Kimura T, Morimoto T, et al;JAPAN-ACS Investigators:Effect of intensive statin therapy on regression of coronary atherosclerosis in patients with acute coronary syndrome;a multicenter randomized trial evaluated by volumetric intravascular ultrasound using pitavastatin versus atorvastatin(JAPAN-ACS[Japan assessment of pitavastatin and atorvastatin in acute coronary syndrome]study). J Am Coll Cardiol 54:293-302, 2009

11)Kawasaki M, Sano K, Okubo M, et al:Volumetric quantitative analysis of tissue characteristics of coronary plaques after statin therapy using three-dimensional integrated backscatter intravascular ultrasound. J Am Coll Cardiol 45:1946-1953, 2005

12)Hong MK, Park DW, Lee CW, et al:Effects of statin treatments on coronary plaques assessed by volumetric virtual histology intravascular ultrasound analysis. JACC Cardiovasc Interv 2:679-688, 2009

13)Takarada S, Imanishi T, Kubo T, et al:Effect of statin therapy on coronary fibrous-cap thickness in patients with acute coronary syndrome;assessment by optical coherence tomography study. Atherosclerosis 202:491-497, 2009

14)Inoue K, Motoyama S, Sarai M, et al:Serial coronary CT angiography-verified changes in plaque characteristics as an end point;evaluation of effect of statin intervention. JACC Cardiovasc Imaging 3:691-698, 2010

15)Falk E, Shah PK, Fuster V:Coronary plaque disruption. Circulation 92:657-671, 1995

16)Schaar JA, Muller JE, Falk E, et al:Terminology for high-risk and vulnerable coronary artery plaques. Report of a meeting on the vulnerable plaque, June 17 and 18, 2003, Santorini, Greece. Eur Heart J 25:1077-1082, 2004

17)Ozaki Y, Okumura M, Ismail TF, et al:Coronary CT angiographic characteristics of culprit lesions in acute coronary syndromes not related to plaque rupture as defined by optical coherence tomography and angioscopy. Eur Heart J, 2011(in press, Epub ahead of print)

18)Jang IK, Tearney GJ, MacNeill B, et al:In vivo characterization of coronary atherosclerotic plaque by use of optical coherence tomography. Circulation 111:1551-1555, 2005

19)Prati F, Regar E, Mintz GS, et al;Expert's OCT Review Document:Expert review document on methodology, terminology, and clinical applications of optical coherence tomography;physical principles, methodology of image acquisition, and clinical application for assessment of coronary arteries and atherosclerosis. Eur Heart J 31:401-415, 2010


藤田保健衛生大学循環器内科助教

服部 晃左 Kousuke Hattori


藤田保健衛生大学循環器内科主任教授

カリフォルニア大学アーバイン校循環器内科客員教授

尾崎 行男 Yukio Ozaki