第18回日本血管生物医学会学術集会は,2010年12月1日(水)~3日(金)の3日間,大阪梅田スカイビル22階,23階,36階の会場で第8回Korea-Japan Joint Symposium on Vascular Biologyを兼ねて開催された。Korea-Japan Joint Symposium on Vascular Biologyは隔年で韓国と日本で開催されるため,2008年度の金沢での開催以来2年ぶりの日本開催であった。参加者は初日の午前中ですでに約250名の参加があり,3日間合計で471名と例年になく多く,韓国・台湾からも多くの参加者があった。
学会では,より多くの演題を発表していただけるように3会場を口述発表用として用意し,特別講演を4演題,プレナリーレクチャーを2演題,シンポジウムを15演題企画した。例年にない盛りだくさんな多くの演題を拝聴することができた。
会長講演では,森下竜一先生(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授)が生活習慣病に対する遺伝子治療から始まりアンチエイジングの観点から認知症・骨粗鬆症の新しい治療標的分子の解析まで,大変幅広いこれまでの研究成果をご講演された(写真1)。
また,本学会の目玉企画の1つとして『Nature Medicine』のChief-in-EditorであるJuan Carlos氏をお招きし,“How to Write Nature Medicine?”というセッションを企画した。Carlos氏は,『Nature Medicine』での編集会議の大変さ,採択に至るまでのプロセスをさまざまな例を挙げながらご講演された(写真2)。
特別講演では,1日に中村祐輔先生(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターゲノムシークエンス解析分野教授)から“From cancer genomics to cancer treatment”のご講演をいただき,2日午前には西川伸一先生(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター幹細胞研究グループディレクター)から“Embryonic development of vascular system including hemogenic endothelial cells”,午後からは門脇 孝先生(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)から“Molecular mechanism of obesity-linked insulin resistance and type2 diabetes”のご講演をいただき,3日午前には小室一成先生(大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学教授)から“Angiogenic therapy for heart failure”のご講演をいただいた。いずれのご講演も各分野の最先端の内容であり,3日間で聴くには非常に贅沢な布陣であった。プレナリーレクチャーでは,日韓の血管生物医学会メンバーを代表して,佐藤靖史日本血管生物医学会理事長(東北大学加齢医学研究所腫瘍循環研究分野教授)とHyo-Soo Kim教授(Seoul National University Hospital)からご講演をいただいた。
今回のシンポジウムでは,若手からも広くアイデアを募集するため若手の先生に実行委員として企画から参画していただき,それぞれのテーマ別の座長と連絡を取りながら演者を選別していった。結果として,比較的新しい話題提供ができたように感じている。たとえば,シンポジウム6:血管細胞の転写調節のセッションでは,窪田直人先生(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科)から血管内皮細胞でのインスリンシグナルの低下が骨格筋でのインスリンによる糖の取り込み低下をもたらすことが報告され,血管障害と糖尿病発症を結ぶ新たな分子メカニズムが明らかにされた。また,シンポジウム7:Regenerationのセッションでは,家田真樹先生(慶應義塾大学医学部循環器内科)から心臓の線維芽細胞に3つの遺伝子(GATA4,Mef2c,Tbx5)を導入することで直接心筋細胞へ分化させることが報告された。加えてシンポジウム12:Stem cell/progenitor cellsのセッションでは,Thomas N. Sato先生(奈良先端科学技術大学院大学生体機能制御学教授)からsecreted frizzled related protein 2(sFRP2)の新しい作用として,心筋梗塞のときの線維化における役割に関して報告されたのも印象深かった。
また,一般演題のなかから40歳以下の高得点者をYIA(young investigator award)に選出し,さらにすべての演題のなかから高得点演題を優秀演題として選出して口述発表を行い,日本人・外国人それぞれ上位者を表彰した(表1)。
本学術集会では,さらに特別企画としてNature Medicine Vascular Medicine Awardと称し,『Nature Medicine』のChief-in-EditorであるJuan Carlos氏に一般演題の高得点演題の抄録と図をreviewしていただき,3つの演題を選んでいただいた。最終日での表彰式では,Juan Carlos氏から直接記念の盾と賞状が手渡されたが,お祝いの言葉のなかで“『Nature Medicine』に掲載されるわけではありません”とコメントされ,聴衆の笑いを誘っていた(写真3)。
学会のスペシャルゲストとして,第90代内閣総理大臣の安倍晋三氏と女優の川島なお美さんをお迎えした。安倍元総理からは,日本の現状と今後の展望に関して大変わかりやすくご講演をいただいた。川島なお美さんからは,ワインの話から始まり非常に幅広いお話を伺うことができた。学会事務局側としてはゲストの警備が大変であったが,特に大きなトラブルもなく無事に進行できたことを大変うれしく思う。
学会終了後の懇親会では,英語落語のダイアン吉日さん,今宮戎神社の福娘,バスケットボールチーム大阪エヴェッサのチアガール,忍者と侍などの企画を用意したところ,約300名の参加者に参集いただいた。特に,外国人の方の参加が大変多かったように思う(写真4)。
出し物が終わった後も,ステージ上では外国人の方も混ざって思い思いに写真撮影を行い,大変楽しいひと時を過ごしていただけたことと思われる(写真5)。
駆け足で学会を振り返ってみたが,よくもまあこれだけの企画を考えたものだと自分たちのことながら感心してしまうが,改めて森下学会会長の卓越した企画力と突破力を認識するとともに,よくそれに私たちも付いていけたものだと自分で自分を褒めたくもなる。当日に至るまでのプログラム企画において,実行委員の皆様(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学の谷山義明先生,里 直行先生,循環器内科の中岡良和先生,真田昌爾先生,微生物病研究所情報伝達分野の木戸屋浩康先生,国立循環器病研究センター研究所細胞生物学部の福原茂朋先生)には何度も集まって苦労を共にさせていただいたことを感謝申し上げます。また,当日の学会運営では大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学のラボの皆様・微生物病研究所情報伝達分野のラボの皆様・第4内科のOBの皆様に受付・会場係・クローク係などを担当していただき,円滑な運営にご尽力いただきましたことを心より御礼申し上げます(写真6)。
このような学術集会を機会として,国内のみならず韓国・台湾などの研究者と交流を深め,より質の高い研究内容をアジアから発信していけるように頑張りたいと思う。
大阪大学大学院連合小児発達学研究科健康発達医学寄附講座教授
中神 啓徳