<< 一覧に戻る

遺伝子・再生医学講座

第33回 心筋シート―重症心不全に対する細胞治療

澤芳樹

Angiology Frontier Vol.10 No.1, 63-66, 2011

はじめに
 最近,重症心不全治療の解決策として新しい再生型治療法の展開が不可欠と考えられており,すでに自己骨格筋筋芽細胞による臨床応用が欧米で開始されている。われわれも,自己骨格筋筋芽細胞と骨髄単核球細胞移植を併用すると,単独より心機能改善効果が高いことを証明し,大阪大学医学部附属病院未来医療センターにおいて臨床研究を進めている。さらにわれわれは,温度応答性培養皿を用いた細胞シート工学の技術により細胞間接合を保持した細胞シート作製技術を開発し,従来法であるneedle injection法と比較して組織,心機能改善効果が高いことを証明した。これらの結果をもとに,骨格筋筋芽細胞シート移植による心筋再生治療の臨床研究も同センターにて開始した。
 本稿では,今注目を集めている人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)を用いた心筋再生治療を含めて,末期心不全患者への心筋再生治療の現状と将来について概説する。

自己筋芽細胞による心筋再生治療

 骨髄細胞は今日の細胞移植治療において最も注目され,すでにその利便性から早期の臨床応用が開始され,現在までに多くの報告がなされている1)2)。これら臨床治験では,治療としての安全性とともに可能性には一定の評価が得られ,効果としては症状の改善,心筋組織への血液灌流改善が認められている。特に,最近REPAIR-AMIと呼ばれるドイツの多施設臨床試験で,急性心筋梗塞患者に対する骨髄細胞冠動脈注入が術後心機能を有意に改善させることを明らかにし,骨髄細胞の有用性がEBMとして証明された3)。しかし,骨髄から採取した細胞中,心筋細胞に分化しうる細胞は0.02%程度であり,現段階では骨髄細胞移植による治療効果は細胞からの血管新生因子などの分泌(paracrine effect)における局所部位の血液灌流改善が本体であると考えるのが妥当と思われる。
 一方,近年,骨格筋由来細胞を細胞移植に用いる研究が盛んに行われ,細胞移植において臨床応用可能な細胞源として注目を集めてきた。最近ヨーロッパでは,Menaschéの臨床試験の流れを汲んでGenzyme社とメドトロニック社が100例以上の大規模試験を行った。これがMAGIC(Myoblast Autologous Grafting in Ischemic Cardiomyopathy)と呼ばれる臨床試験で,ランダム割り付け,プラセボ対照,二重盲検,多施設(欧州の24施設)で97例を対象に行われた。一次エンドポイントである心臓の局所壁運動(細胞注入場所),心臓全般の機能において細胞移植群のプラセボ群を凌ぐ有効性が認められなかったため試験は早期に終了し,見直しの段階のようである。一方,アリゾナハートセンターのDr.Dibらは米国食品医薬品局(FDA)の承認のもとPhaseⅡ臨床試験を開始しつつあり,その結果が期待されている。本邦においては,大阪大学で世界的にも初めてとなる自己筋芽細胞と骨髄細胞を併用する再生治療法を4例の虚血性心筋症患者に補助人工心臓下に施行し,心機能の回復と脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide;BNP)値の低下を確認した。一方,経過中に致死的な不整脈の発生は認めていない。

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る