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レニン-アンジオテンシン系阻害薬の新しい話題

RA系阻害と糖尿病

Renin-angiotensin system inhibition and diabetes mellitus

前田泰孝井口登與志

Angiology Frontier Vol.10 No.1, 50-56, 2011

Summary
 糖尿病のさまざまな臓器障害において,レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害による保護効果が報告されている。本稿では,特に標的臓器の組織RA系が重要な役割を担っており,酸化ストレスや炎症を包含する悪性サイクルを形成することで糖尿病臓器障害の発症・進展に大きく寄与している可能性を示す。糖尿病におけるRA系阻害は,臓器障害の発症・進展機序を抑制する本質的な治療薬となりうることが推定される。新たにレニン阻害薬が加わり,今後はいかにアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)と使い分けるべきか,あるいは併用することで相加的な効果が望めるのかといったことが焦点となるであろう。また,組織アンジオテンシンⅡ(AⅡ)産生系を標的とした創薬の可能性についても言及する。

Key words
●レニン-アンジオテンシン系 ●酸化ストレス ●糖尿病 ●キマーゼ ●NAD(P)Hオキシダーゼ

はじめに

 近年臨床領域において,レニン-アンジオテンシン(renin-angiotensin;RA)系阻害薬による血圧非依存性の抗動脈硬化作用が多く示されており,循環系RA系とは独立して組織RA系が介在していると考えられている。動脈硬化発症の分子メカニズムとしては,組織アンジオテンシンⅡ(angiotensin Ⅱ;AⅡ)刺激による1型アンジオテンシンⅡ受容体(AT1受容体)の活性化により,細胞内Ca2+濃度の上昇とジアシルグリセロール(diacylglycerol;DAG)の産生を介してプロテインキナーゼC(protein kinase C;PKC)が活性化し,NAD(P)Hオキシダーゼによるスーパーオキシドの産生が増加するという機序が推定されている。すなわち,RA系阻害薬は標的臓器局所におけるAⅡ産生を抑制,あるいはAT1受容体の活性化を抑制することで酸化ストレス亢進状態を改善し,糖尿病大血管症の発症・進展を抑制する可能性が示唆される。筆者らは,糖尿病における心血管系の酸化ストレス亢進に組織AⅡ産生に重要な役割を果たすキマーゼの発現亢進を介した組織RA系の活性化が重要な役割を果たしていることを示す成績を得ている。さらに,RA系阻害薬が糖尿病そのものの発症を抑制することも明らかになった。RA系の活性化はインスリン抵抗性を惹起するほか,膵β細胞障害にも直接関与していると考えられている。
 本稿では,糖尿病および血管合併症の発症・進展におけるRA系の役割とRA系阻害の効果について,最近の知見を交え概説する。

1 組織RA系と酸化ストレス

 糖尿病合併症の病因として多くの仮説が提唱されているが,なかでも酸化ストレスが注目されている1)-4)。われわれは,高血糖下においてPKC,およびNAD(P)Hオキシダーゼの活性化を介して酸化ストレスが亢進するという経路が糖尿病における合併症の進展に寄与しているという仮説を報告してきた5)6)。活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)の主要な産生源であるNAD(P)Hオキシダーゼは,PKC依存的に高グルコースによって活性化される。AⅡはPKCを介してNAD(P)Hオキシダーゼを活性化し,酸化ストレスの亢進を引き起こすことが知られている7)。すなわち,AⅡはAT1受容体に結合し,ホスホリパーゼC(phospholipase C;PLC)を活性化させる。PLCはイノシトール三リン酸(inositol trisphosphate;IP3)とDAGを生成する。IP3は細胞内のCa2+の貯蔵部位である小胞体やミトコンドリアに働きCa2+を遊離させ,細胞内Ca2+濃度を高めることでPKCを活性化し,細胞壁のNAD(P)Hオキシダーゼを活性化するという機序が推定されている(図1)。

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