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レニン-アンジオテンシン系阻害薬の新しい話題

ACE阻害薬

Angiotensin converting enzyme inhibitor

山崎力

Angiology Frontier Vol.10 No.1, 19-23, 2011

Summary
 降圧薬治療臨床試験のメタ解析のなかで最も信頼性の高いBPLTTCメタ解析は,アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)に比べてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の冠動脈イベント抑制効果が大きいことを示しており,ACE阻害薬とARBの直接比較試験であるONTARGET試験でもこの結果が支持されている。一方,脳卒中イベント,心不全イベントにおいては両者の抑制効果に差はないと考えられる。日本で承認されているACE阻害薬とARBの降圧効果は,ACE阻害薬の最大用量(通常用量の倍)がARBの通常用量とほぼ同等か弱干上回る程度と考えられる。したがって,ACE阻害薬で心血管イベント抑制効果を得るためには最大用量を使用すべきであろう。

Key words
●BPLTTC ●メタ解析 ●ARB ●冠動脈疾患

1 ACE阻害薬の位置付けを考えるうえで重要なBPLTTCメタ解析

 アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme;ACE)阻害薬は,アンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blockers;ARB)にとって代わられつつある。「代わられた」と過去形でいったほうがより正しいのかもしれない。今や,ACE阻害薬を積極的に診療に活かしている医師は少数派であろう。しかし,これは日本に限定した現象のようである。われわれは,今EBMの時代にいる。四半世紀にわたって高血圧治療のエビデンスが発表され続けてきたが,これまでARBがACE阻害薬よりも優れていることが示されたことがあっただろうか?「ARBは咳のないACE阻害薬」との認識が日本で広まって久しい。副作用である空咳を除いては両薬剤の真の効果,すなわち高血圧治療の最終目標である心血管イベント抑制効果は全く同等だとの認識である。本当に同等ならば,ACE阻害薬がARBに代わられるのも仕方ないであろう。しかしエビデンス,特にARBのエビデンスが積み重なるにつれて,両薬剤間に横たわる越えがたい差が明らかになってきているのではないだろうか。ACE阻害薬とARBの関係を明確にしたエビデンスが,2007年に発表されたBPLTTC(Blood Pressure Lowering Treatment Trialists’Collaboration)によるメタ解析の結果である1)。このメタ解析では,前向きかつ全症例データの再解析というきわめて信頼性の高い手法を採用し,ACE阻害薬とARBの臨床試験約15万症例の患者データを用いて冠動脈イベント,脳卒中イベント,心不全イベントに関して降圧と各イベントリスク抑制効果の関係を明らかにした。その解析結果は,これまでのACE阻害薬とARBの違いに関する論争に終止符を打つものであり,ACE阻害薬にのみ冠動脈イベント抑制効果で「降圧とは独立した効果」が検出され,しかも両薬剤間にACE阻害薬が優位である統計上の有意差が認められたのである。一方,脳卒中イベントと心不全イベントに関しては両薬剤ともに「降圧とは独立した効果」は認められず,イベント抑制効果は同等であった。この結果は,ACE阻害薬には薬剤特異的な冠動脈イベント抑制効果があることを示すとともに,ARBにはそのような効果はなくARBの心血管イベント抑制作用は主に降圧のみに依存していることを表している。BPLTTCは他の降圧薬(Ca拮抗薬,β遮断薬,利尿薬)に関しても評価を行っているが,降圧薬のなかでこれほど明確なかたちで「降圧とは独立した効果」が確認されたのは,ACE阻害薬の冠動脈イベント抑制効果のみである。
 この結果から導かれるメッセージは明確である。心血管イベントの抑制という高血圧治療の最終目標を考えた場合,ACE阻害薬がARBに劣る点はなく,特に冠動脈イベント抑制の強さを考えるとACE阻害薬が第一選択薬にふさわしいということである。世界各国の大半のガイドラインでは,今なお「ACE阻害薬に認容性のない場合にのみARBを処方する」ことが推奨されている。このことは,BPLTTCメタ解析に代表されるACE阻害薬のエビデンスにARBのそれが追いついていないことを反映している。
 以下,より最新のARBのエビデンスで,ACE阻害薬に対する何らかの優位性を確立できたか否かについて検証してみたい。

2 冠動脈イベント

 ACE阻害薬とARBの直接比較試験として最近話題となったのが,ONTARGET試験である。ACE阻害薬(ramipril(本邦未承認))に認容性を有する心血管イベント高リスク患者25620例を,ACE阻害薬(ramipril)単独投与群,ARB(テルミサルタン)単独投与群,両薬剤併用群の3群にランダムに割り付け,56ヵ月間(中央値)の心血管イベント抑制効果を比較した。その結果,心筋梗塞イベントに関し3群間に有意差は認められなかった。では,この結果をもとにARBはACE阻害薬と同等の冠動脈イベント抑制効果をもっていると結論してよいだろうか? Ramipril単独投与群に比べてテルミサルタン単独投与群で血圧を0.9/0.6mmHg下げていた(有意性に関する判定は実施されていない)にも関わらず,心筋梗塞リスクが1.07(95%信頼区間:0.94~1.23)と劣性傾向を示していることから,この試験をもってARBはACE阻害薬と同等の効果を有していると結論することはできない。両群間の降圧差を考慮すると,今回得られた心筋梗塞抑制リスクの値がBPLTTCメタ解析の結果と一致することは明白であろう(図1)。

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