はじめに

 現在の下肢静脈瘤レーザー治療(endovenous laser treatment;EVLT)では,レーザー光熱反応による高熱を利用して血管内皮障害を起こし,二次血栓形成を引き起こすといわれている。それにより,静脈逆流血遮断を目的として治療を行う術式である。前号(Vol9.No4)では,レーザー光作用およびレーザー光を使ったEVLTについて,マクロ的な視点に立って解説を行った。

 本稿では,そのレーザー光がレーザー本体から放たれた後,特に血液が充満する血管内においてどのように熱に変化し血管壁へ影響を及ぼすのか,実験例をふまえ解説を行っていきたい。


1 レーザー光の広がりとエネルギー強度

 一般的に,理想的なレーザー光の強度分布がガウス分布で近似できるものとすると,そのピーク値をI0,レーザービーム半径を中心強度のI0の1/e2とするとパワー密度は次式となる。


ビームの単位時間あたりのレーザー出力をP0(W)とすると,


となる。①,②より,次式が求められる。


 これが,エネルギー強度分布として求められる。 レーザー光の特性として中心点のエネルギー強度(パワー)が最も高く,中心を離れると急速に減弱していくことがこの式で表されている(図1)1)。



さらには,レーザーファイバー内を反射しながら直進してきたレーザー光は,ファイバー先端では屈折率の違いより集光しない限り直進できなくなる(図2)。



2 ファイバー先端の蛋白変化について

 レーザーファイバー先端ではその周辺に存在する物質に反応を起こすが,EVLTではその対象となる反応物質がヘモグロビンであったり水であったりする。810nmの波長では,まず最初にヘモグロビンへの吸収が起こる(レーザー光反応)といわれている。しかし,その反応熱は実際の測定において軽微であり,また反応時間もEVLT治療時間に比較して誤差範囲内である2)。血管壁に影響しうる温度を分類すると,40℃以内の体温,70℃程度の蛋白凝固温,100℃程度のSteam Bubble温(沸点),Carbon Capに至る300℃程度の一次レーザー光反応温,1000~2000℃程度の二次レーザー光反応温に分けられる3)。



3 レーザーファイバー先端の状態変化について

 レーザーファイバー先端で起こっている現象について述べる。

 まず,ファイバー先端から血液中に照射されたレーザー光は,ファイバー先端に接している血液に直接吸収され,光熱反応が起こる。ファイバー先端の蛋白物質は粘性の高いコアギュラムに変化し,ファイバー先端へ付着が始まる4)。さらに,周辺の蛋白物質はコアギュラム化し,融合し始める。融合したコアギュラムの水分蒸散により,ファイバー先端では炭化形成が促進されるようになる。この段階をCarbon Cap 2)形成初期と定義できる。この段階より,レーザー光のほとんどがこのCarbon Capへ照射,吸収され,熱へと変換されることとなる。

 炭素物質に対するレーザー光の吸収5)については,図3を参照していただきたい。



水,ヘモグロビンなどへの吸収曲線と一概には比較できないが,温度測定実測値から,血液へのレーザー吸収に比べてCarbon Capへのレーザー吸収による温度変化では4~7倍の熱が産生されていた2)。

 さらに,Carbon Capへレーザー光が加わることでCarbon Cap自体が一気に発熱,そして増大していくことが判明した(図4)。



この事象が判明したことで,EVLTにおいてレーザー光反応より熱反応が重要であることが証明された2)。ただし,血管内ではレーザーファイバーを動かしており,血管壁およびファイバー先端のコアギュラム,そしてCarbon Capは一定の状態で存在していないと思われる。無数に存在する血液によりCarbon Capの脱落,生成が繰り返されながら,ファイバー先端に付着しているCarbon Capからの熱が主として血管内膜を焼灼していると考えられる(図5)。



 超音波ガイド下でEVLT中の血管内腔を観察すると,ときどきファイバーが内腔面に付着してイレギュラーな動きをすることがある。この状態では,Carbon Capを介して血管壁側に多大な熱量が加わり,これが血管壁の穿孔,そして術後出血の原因になると考えられる。

 逆に,どんなにファイバー先端にCarbon Capが形成されたとしても,血管内腔にファイバーが存在する限り内膜面に及ぼす熱影響は少ない。熱の影響で容易に血管収縮をきたすようであれば問題ないが,周辺組織の線維化や解剖学的理由により血管収縮が起こらず,そしてファイバーから血管壁が離れた場合,血管焼灼不十分となりうる。



4 1%の"レーザー光作用"と99%の"レーザー熱作用"

 血液中におけるレーザー光熱反応および引き抜き速度を検討した場合,使用レーザーの周波数が影響を及ぼすであろう時間は平均で0.23秒程度であった。これは,EVLTにおける実際の治療時間が30数秒に比較して1%未満(図6)であり,レーザー光作用時間は無視できる範囲といえる。



つまり,810nmでのレーザー光熱反応では,EVLT治療時間からも周波数についての議論は無意味となる。



おわりに

 本稿では,レーザー光一般において光の特徴について述べた。次に,レーザー特性である光作用と熱作用について術中におけるファイバー先端の状態変化を明らかにした。

 第一の作用としては光作用であるが,臨床の現場ではほとんど影響がないことが判明した。治療に対して最も影響があるのがレーザー熱作用であり,本稿ではこの熱作用の最重要ファクターであるレーザーファイバー先端のCarbon Capについて具体的な実験データを含めて解説を行った。

 これらレーザー光の特性を把握したうえで治療にあたることで,治療効率を損なうことなく患者の安全性を向上することが可能となると考えている2)。


文 献

1)新井武二:レーザ加工の基礎工学.東京,丸善株式会社,2007

2)川田通広,伊藤基巳紀,木村正廣,他:下肢静脈瘤レーザー治療におけるファイバー先端温度変化について―810nm半導体レーザーによる実験的検討―.静脈学 20:299-305, 2009

3)Disselhoff BC, Rem AI, Verdaasdonk RM, et al:Endovenous laser ablation;an experimental study on the mechanism of action. Phlebology 23:69-76, 2008

4)Black JF, Barton JK:Chemical and structural changes in blood undergoing laser photocoagulation. Photochemistry and Photobiology 80:89-97, 2004

5)Mutschke H, Andersen AC, Jäger C, et al:Optical data of meteoritic nano-diamonds from far-ultraviolet to far-infrared wavelengths. Astronomy&Astrophysics 423:983-993, 2004


高知大学医学部外科学講座(外科2)助教

川田 通広・岡﨑 泰長


財団法人 防府消化器病センター

近藤 庸夫


医療法人財団 健貢会 東京病院院長

笹栗 志朗