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座談会(Round Table Discussion)

『Angiology Frontier』創刊10周年記念座談会 わが国における閉塞性動脈硬化症(ASO)の変遷

倉林正彦井口登與志宮田哲郎野村昌作

Angiology Frontier Vol.10 No.1, 1-9, 2011

倉林 本日は,「わが国における閉塞性動脈硬化症(ASO)の変遷」をテーマに,おのおのご専門の立場よりご意見をお伺いしたいと思います。

[出席者,発言順]
倉林 正彦 Masahiko Kurabayashi(司会)
群馬大学大学院医学系研究科臓器病態内科学教授

井口 登與志 Toyoshi Inoguchi
九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点教授

宮田 哲郎 Tetsuro Miyata
東京大学大学院医学系研究科外科学専攻血管外科学准教授

野村 昌作 Shosaku Nomura
関西医科大学内科学第一講座主任教授

近年10年間におけるASO増加の背景

1.ASOは糖尿病患者の急増に比例

倉林 ここ10年間において,閉塞性動脈硬化症(ASO)患者は非常に増加しています。その背景として,やはり糖尿病患者の急増が最も影響しているのでしょうか。
井口 ASO患者は糖尿病患者の増加と比例しており,生活習慣そのもの,つまり食事の欧米化に伴う脂肪摂取の増加や自動車数の増加による運動不足が関係しているといわれています。
倉林 近年は,ASOや脳血管疾患(CVD),虚血性心疾患(IHD)は全身の動脈硬化の一部分症であり,それぞれが合併したpolyvascular diseaseを呈するという考え方が定着してきているようですね。
宮田 国際的な疫学研究のREACH Registryにおいて,末梢動脈疾患(PAD)にIHDが合併している割合は欧米人の52%に比べて日本人では30%とやや少ないですが,CVDは同程度の合併率となっています。この合併率の高さは一般の人口に比べれば確実に多く,ASOがpolyvascular diseaseであることを如実に示しています(図1)。

倉林 通常,日本人のIHDの頻度は欧米の4分の1程度といわれていますが,REACH Registryの結果より,日本人も急速に欧米型に近づいているということがいえます。

2.動脈硬化の危険因子が欧米型に
倉林 動脈硬化の病態については,危険因子が欧米型になっているということに尽きると思いますが,特に糖尿病が大きく関与していると考えてよいでしょうか。
野村 糖尿病は血小板の活性化や血管内皮障害を引き起こすため,心血管イベントの危険因子として非常に重要です。血小板の活性化は血栓症のスタートを意味します。血小板は活性化されると,マイクロパーティクルと呼ばれる膜小胞体を遊離します。マイクロパーティクルは,血小板血栓から凝固血栓への橋渡しをするだけでなく,白血球や血管内皮細胞の接着分子の発現を亢進させて血管内皮障害を引き起こし,動脈硬化の発症と進展に関与することが知られています。
倉林 糖尿病では血小板活性化と血管内皮障害が亢進しており,心血管イベントのリスクがより高いということですね。
野村 そうですね。糖尿病患者では,イベント発症をふまえた治療を早期に開始することが重要と考えています。
倉林 わが国では糖尿病患者が急増していますが,インスリン抵抗性型が増え,インスリン分泌不全型は少なくなっているのでしょうか。
井口 基本的に,日本人における糖尿病患者はインスリン分泌不全型が多いといわれています。現在も,2型糖尿病患者の平均BMIは米国人の32kg/m2に対して日本人は約23~24kg/m2であり,欧米に比べ肥満が少ないですから,インスリン抵抗性の少ない糖尿病患者が多いことには間違いありません。それでも「沖縄クライシス」といわれているように,沖縄県は非常に長寿の県だったのですが男性は最近では26位くらいまで一気に落ち,メタボリックシンドロームが非常に増えてきました。これは,米軍によってわが国で最初にハンバーガーがもたらされるなど食事の欧米化が起こった結果であり,沖縄県での病態の変化に遅れてわが国全体でも同じようなことが起こってきているといわれています。ですから,今後は糖尿病も欧米型になっていくのではないかと思われます。
倉林 糖尿病と並んでASOの重要なリスクとして慢性腎臓病(CKD)があります。わが国では,糖尿病予防の啓発や治療薬が進展しているにもかかわらず,透析患者は増加の一途を辿っています。糖尿病罹病期間が長い患者は,そのまま透析に至るということなのでしょうか。
井口 透析導入者数が減少しないのは,早期腎症が捉えられていないことが最も大きな問題ではないかと思います。また,長寿になったことで高齢者の透析導入が増えてきたということもあるかもしれません。
倉林 ASO患者の予後は非常に不良ですが,これは冠動脈疾患(CAD)やCVDの合併頻度が高いためと考えてよいのでしょうか。
宮田 当院でバイパス術を施行したASO症例の遠隔期死因の多くは心血管病変です。ASOの治療目的は生命予後改善とQOL向上ですが,生命予後改善には心血管病変あるいは脳血管病変のコントロールが影響すると思います。
 また,下肢虚血症状の有無にかかわらず足関節上腕血圧比(ABI)が低下するだけで心血管病変のリスクは増えますから(図2),無症候性であってもABIが下がっていれば,生命予後は不良だという危機感をもつべきです。

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