倉林 本日は,「わが国における閉塞性動脈硬化症(ASO)の変遷」をテーマに,おのおのご専門の立場よりご意見をお伺いしたいと思います。
[出席者,発言順]
倉林 正彦 Masahiko Kurabayashi(司会)
群馬大学大学院医学系研究科臓器病態内科学教授
井口 登與志 Toyoshi Inoguchi
九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点教授
宮田 哲郎 Tetsuro Miyata
東京大学大学院医学系研究科外科学専攻血管外科学准教授
野村 昌作 Shosaku Nomura
関西医科大学内科学第一講座主任教授
近年10年間におけるASO増加の背景
1.ASOは糖尿病患者の急増に比例
倉林 ここ10年間において,閉塞性動脈硬化症(ASO)患者は非常に増加しています。その背景として,やはり糖尿病患者の急増が最も影響しているのでしょうか。
井口 ASO患者は糖尿病患者の増加と比例しており,生活習慣そのもの,つまり食事の欧米化に伴う脂肪摂取の増加や自動車数の増加による運動不足が関係しているといわれています。
倉林 近年は,ASOや脳血管疾患(CVD),虚血性心疾患(IHD)は全身の動脈硬化の一部分症であり,それぞれが合併したpolyvascular diseaseを呈するという考え方が定着してきているようですね。
宮田 国際的な疫学研究のREACH Registryにおいて,末梢動脈疾患(PAD)にIHDが合併している割合は欧米人の52%に比べて日本人では30%とやや少ないですが,CVDは同程度の合併率となっています。この合併率の高さは一般の人口に比べれば確実に多く,ASOがpolyvascular diseaseであることを如実に示しています(図1)。
倉林 通常,日本人のIHDの頻度は欧米の4分の1程度といわれていますが,REACH Registryの結果より,日本人も急速に欧米型に近づいているということがいえます。
2.動脈硬化の危険因子が欧米型に
倉林 動脈硬化の病態については,危険因子が欧米型になっているということに尽きると思いますが,特に糖尿病が大きく関与していると考えてよいでしょうか。
野村 糖尿病は血小板の活性化や血管内皮障害を引き起こすため,心血管イベントの危険因子として非常に重要です。血小板の活性化は血栓症のスタートを意味します。血小板は活性化されると,マイクロパーティクルと呼ばれる膜小胞体を遊離します。マイクロパーティクルは,血小板血栓から凝固血栓への橋渡しをするだけでなく,白血球や血管内皮細胞の接着分子の発現を亢進させて血管内皮障害を引き起こし,動脈硬化の発症と進展に関与することが知られています。
倉林 糖尿病では血小板活性化と血管内皮障害が亢進しており,心血管イベントのリスクがより高いということですね。
野村 そうですね。糖尿病患者では,イベント発症をふまえた治療を早期に開始することが重要と考えています。
倉林 わが国では糖尿病患者が急増していますが,インスリン抵抗性型が増え,インスリン分泌不全型は少なくなっているのでしょうか。
井口 基本的に,日本人における糖尿病患者はインスリン分泌不全型が多いといわれています。現在も,2型糖尿病患者の平均BMIは米国人の32kg/m²に対して日本人は約23~24kg/m²であり,欧米に比べ肥満が少ないですから,インスリン抵抗性の少ない糖尿病患者が多いことには間違いありません。それでも「沖縄クライシス」といわれているように,沖縄県は非常に長寿の県だったのですが男性は最近では26位くらいまで一気に落ち,メタボリックシンドロームが非常に増えてきました。これは,米軍によってわが国で最初にハンバーガーがもたらされるなど食事の欧米化が起こった結果であり,沖縄県での病態の変化に遅れてわが国全体でも同じようなことが起こってきているといわれています。ですから,今後は糖尿病も欧米型になっていくのではないかと思われます。
倉林 糖尿病と並んでASOの重要なリスクとして慢性腎臓病(CKD)があります。わが国では,糖尿病予防の啓発や治療薬が進展しているにもかかわらず,透析患者は増加の一途を辿っています。糖尿病罹病期間が長い患者は,そのまま透析に至るということなのでしょうか。
井口 透析導入者数が減少しないのは,早期腎症が捉えられていないことが最も大きな問題ではないかと思います。また,長寿になったことで高齢者の透析導入が増えてきたということもあるかもしれません。
倉林 ASO患者の予後は非常に不良ですが,これは冠動脈疾患(CAD)やCVDの合併頻度が高いためと考えてよいのでしょうか。
宮田 当院でバイパス術を施行したASO症例の遠隔期死因の多くは心血管病変です。ASOの治療目的は生命予後改善とQOL向上ですが,生命予後改善には心血管病変あるいは脳血管病変のコントロールが影響すると思います。
また,下肢虚血症状の有無にかかわらず足関節上腕血圧比(ABI)が低下するだけで心血管病変のリスクは増えますから(図2),無症候性であってもABIが下がっていれば,生命予後は不良だという危機感をもつべきです。
診断におけるピットフォール
1.ABI測定の必要性
倉林 ASOの診断についてはいかがでしょうか。
井口 私たちは,糖尿病患者におけるASOの有病率をABIを用いて検討する目的で,九州動脈硬化予防研究を実施しました。これは,多施設で糖尿病患者3906例を対象にオムロンコーリン社のform®を使ってABIを測定しており,わが国での糖尿病の疫学調査では比較的規模は大きいと思います。結果は,ABI 0.9未満をASOとすると,糖尿病患者の7.6%がASOを有しており(図3),65歳以上の高齢者に絞るとASOを有する患者は全体の12.7%でした(図4)。
最も注目すべき点は,この調査におけるABI測定前にASOと診断されていた患者はわずか24.4%にすぎず,4人に1人しか診断されていなかったという現状です(図5)。
糖尿病患者ではASOを見逃している確率がいかに高いかということを示すデータではないかと思います。
しかも,抗凝固薬や抗血小板薬が投与されていたのは45%と半数に満たなかったことも示されました。ASOのみならず糖尿病患者では,心血管病変あるいは脳血管病変を合併している患者が多いと考えられます。しかし,50%以上の患者はこれらの治療を受けていないというのが現状ですから,早期診断,早期介入の必要があると思います。そのためには,糖尿病患者ではABIを積極的に測定すべきだと思います。
倉林 罹病期間やコントロール状況などは層別化できるのですか。
井口 危険因子に関して多変量解析をしていますが,治療介入しているのですべてが出てくるわけではないものの高血圧はよく同定されます。また冠動脈心疾患(CHD),ニューロパチー,蛋白尿を合併していれば,よりASOを合併している可能性は高いだろうということは明らかです。
2.糖尿病を有する患者に対する注意点
倉林 今,糖尿病患者に対するフットケアが注目されていますが,病変が神経性か血管性かという鑑別は,やはりABIが指標となりますか。
井口 そうですね。初期にはしびれを訴えますから,症状だけなら神経症と間違えられることが確かに多いのですが,鑑別には簡易に測定できるABIが適していると思います。もちろん,CTなどを撮れればそれに越したことはないのですが,なかなかすべての患者は撮れません。
宮田 石灰化が強い場合は,足趾上腕血圧比(TBI)も1つの指標になると思います。
井口 糖尿病では石灰化症例が多く,そのような場合にはABIが高く出ることがあり,その頻度はわれわれの検討では4.5%でした。また,ABIが0.9~1.0という境界型も高齢者では10.7%と多く,このような症例はおそらく中枢性の閉塞がありABIの異常値は出ないため,今後検討していく必要があると思います。ですから,本当は直接的に血流をみるエコーがいいと思いますが,誰にでも実施できるというものではありません。
宮田 閉塞あるいは狭窄している血管をABIで評価しているわけで,本当はそこに至る前に診断できればいいのですが,なかなか良い方法がありません。
井口 早期に動脈硬化を捉えるには血管内皮機能の評価も期待されていますが,血流依存性血管拡張反応(FMD)も結構ばらつきが大きいですし,有用と思われるのは駆血前後の指尖部末梢動脈の血流変化をみるEndo-PATくらいですね。これは,内皮機能検査としては非常にいいと思います。
保存的治療における薬物療法
1.ASOに対する薬物療法
倉林 ASOと診断された場合の薬物療法について教えてください。
宮田 薬物療法も治療目的は生命予後改善とQOL向上という2点に絞ることができます。TASCⅡでは,生命予後改善のために動脈硬化の危険因子を減らすことと,抗血小板療法を実施することが明示されています。また,QOL向上のためにはまず運動療法と薬物療法の実施が推奨されています。単剤で生命予後改善とQOL向上の両方を満たすことができる薬はなかなかありませんから,症例によっては複数の薬剤を併用しなければならない可能性があります。
野村 現在わが国で使用可能な抗血小板薬(表1)のなかで,アスピリンとチエノピリジン系のチクロピジンやクロピドグレルはレジスタンスの問題があります。
ASO治療では血小板機能を抑えるだけでは不十分で,ある程度血管拡張作用も期待できる薬剤が望まれます。また,サルポグレラートなどのように,in vitroで血小板凝集能を単に抑えるだけではなくin vivoで生体内に投与してその効果が増強されるような薬剤が適していると思います。
倉林 In vivoで付加的な効果があるということですか。
野村 サルポグレラートは,内皮が存在したときに単なる抗血小板作用だけではなく血管内皮機能改善などそれ以外の作用も期待されています。
また最近話題となっているのは,チエノピリジン系のクロピドグレルです。チエノピリジンはその活性代謝物が抗血小板作用を示すのですが,薬物代謝酵素CYP2C19の遺伝子多型が日本人は欧米人の5倍程度存在するといわれており,効きにくい可能性があるということが明らかになってきました。また,欧米ではクロピドグレルにプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用するケースが多いのですが,PPIも同じ酵素によって代謝されることから,併用時にクロピドグレルの代謝が落ちて抗血小板作用が低下するのではないかと報告されています。
ただ,最近は反論の報告も出ています。たとえば,CYP2C19の遺伝子多型があったとしても,CYP関係の酵素はほかにもいくつかあり,投与後1週間以内でほかの酵素も効いてきます。したがって,もう少し日本人でまとまった結果が出なければ,結論付けるのは危険だと思います。
2.糖尿病を合併するASO患者に対する薬物療法
宮田 血管外科に紹介されてくるASO患者は,2剤併用どころではなく,アスピリン,シロスタゾール,サルポグレラート,ベラプロストをフルセットで投与されていることも多いのですが,先生方は抗血小板薬をどのように使われていますか。
野村 少なくともベースに2型糖尿病があると,それ自体で血小板凝集促進作用があるので,その場合はやはり2剤必要です。糖尿病がなければ1剤でもいいと思うのですが,ただ二次予防という観点からいうと強力なチエノピリジン系,シロスタゾール,サルポグレラートなどを使わないといけないと思います。なお,一次予防で今のところエビデンスが出ているのはアスピリンだけです。
倉林 抗血小板作用が効いているかどうかは,どのように評価するのですか。
野村 1つは,昔から用いられる凝集能検査ですが,最大の欠点は血小板だけを取り出し,他の影響をすべて取り除いたうえで評価していることです。ですから,生体での状態を正確に反映しているかどうかは疑問です。
また,レジスタンスやノンレスポンダーを見分ける機器が欧米では2台あります。その1つのPFA-100®は凝血時間をみる方法で,アスピリンレジスタンスが評価できるといわれています。欧米ではよく使われていますが,わが国では認可されていません。また,チエノピリジン系のレスポンダーを判断する機器でVerifyNow®と呼ばれるものが広がりつつありますので,近々わが国にも入ってくると思います。
井口 レスポンダー,ノンレスポンダーは,in vitroで評価しているのですか。
野村 採血してin vitroで評価していますので,血管壁のプロスタサイクリンを抑えるかどうかなどに関しては評価できません。
わが国での抗血小板薬の使い分けと併用を検討すべき薬剤について
1.ASOに対する5-HT2A受容体拮抗薬の有効性
倉林 わが国での抗血小板薬の使い分けについてはいかがでしょうか。
宮田 サルポグレラートは,わが国で使用できる唯一のセロトニン(5-HT)2A受容体拮抗薬です。歩行障害質問票(WIQ)を用いたわが国での研究において,サルポグレラートを投与すると「痛み」,「歩行距離」,「歩行スピード」,「階段を上がる能力」の4項目のいずれも有意なスコアの上昇が認められました(図6)。
ASOで最も多い症状である間歇性跛行への有用性が期待されます。
井口 九州動脈硬化予防研究では7~8年ほどフォローアップしているので,研究開始時から継続して抗血小板薬が使われた症例のなかでサルポグレラートを投与した症例を取り出してABIの変化をみています。平均観察期間は2.8年で,サルポグレラート非投与群でABIが低下しASOが進展していたのに対して,サルポグレラート投与群ではABIが改善していました(図7)。
これは,下肢の予後という点でも非常に有意義な結果と思います。
さらに,サルポグレラートは副作用の面でも使いやすいのではないかと思います。
野村 サルポグレラートは5-HT2A受容体を選択的に阻害しますから,余剰の5-HTが内皮細胞の5-HT1B受容体に作用して一酸化窒素(NO)分泌が亢進し,内皮の抗血小板作用を促進します(図8)。
さらにサルポグレラートは,アディポネクチンを増加させる働きがあります(表2)。
東京大学の基礎研究によっても,脂肪細胞には5-HT2A受容体が発現しており,サルポグレラートが作用するとアディポネクチンのmRNAが発現増強することが確認されています。このようなことから考えると,アディポネクチンがもっている抗動脈硬化作用が期待できます。これは,従来のサルポグレラートの抗血小板作用以外の作用であり,生体に投与して初めてみられる効果です。もともとの抗5-HT作用は凝集系でみると血小板機能抑制だけしかみられませんが,生体に投与するとアディポネクチンを介した抗動脈硬化作用も期待されるということになります。
近年10年間の血行再建術の治療の変遷
1.ASOに対するインターベンションとバイパス術の有用性
倉林 近年10年間の血行再建術の治療の変遷について,宮田先生,ご紹介いただけますか。
宮田 血管内治療が急増しており,欧米では年間に1000倍ほど件数の増加がみられました。ただ,すべてがきちんとしたエビデンスに基づいているわけではなく,とにかく良いだろうということで施行されている現状があり,外科医としては危惧するところです。腸骨動脈領域では確かにステント治療は有用なのですが,鼡径靱帯以下の動脈では,病変によって検討する必要があります。
倉林 循環器内科も冠動脈のステント治療とスタチンの効果で患者が減ってきているので,カテーテル室を維持するためにやっているというのもあるのでしょうか。
宮田 そうなのです。ですから,ランダム化比較試験(RCT)がぜひとも必要だと思っています。現在唯一あるRCTはBASIL Studyです。バルーン血管形成術でもバイパス術でも治療可能な鼡径靱帯以下の動脈閉塞による重症虚血肢患者452例を対象にバルーン血管形成術先行群とバイパス術先行群の2群に分け,下肢切断回避生存率を主要評価項目としてITT解析を実施したところ,両者に差がなかったという結論でした。ただ,この試験の事後解析では,2年以上生存している患者は下肢切断回避生存率,全生存率ともにバイパス術先行群のほうが良いという結果も出ました。
倉林 心臓と同じような流れでインターベンションの領域が増えつつありますが,再手術も含めるとバイパス術が勝るということですか。
宮田 病変の部位や患者の状態によって,どちらの治療手段を選択するか異なってくるということです。ただし,注意しなければならないメッセージも発信されています。BASIL Studyでは,バルーン血管形成術の効果がなかったとき,その大部分がバイパス術に移行していました。ところが,バルーン血管形成術が失敗したあとにバイパス術を施行した群と最初からバイパス術を施行した群を比較したところ,最初からバイパス術を施行した群のほうが成績が良かったという結果でした。これは,ITT解析とは違う観点からの解析なので,結論を出すには注意が必要です。ただ,血管内治療は低侵襲であるためどんどん先行し,効果がない場合にバイパス術を行えばよいという考えは誤っていると認識しなければなりません。今後さらにRCTを重ねて,もっと科学的な観点から評価する必要があると思います。
2.TASCからTASCⅡへの変遷
井口 下肢にもステント血栓症はあるのですか。
宮田 もちろんあります。
井口 心臓と末梢の血管はほとんど同じとみたほうがいいのですか。
宮田 薬剤溶出性ステント(DES)の浅大腿動脈(SFA)に対する治療効果を調べたRCTがありました。冠動脈では明らかにDESが良いという結果が出ていましたが,SFAでは成績が良くなかったため試験は途中で中止になりました。脚は曲げることによって動脈がねじれたり屈曲したりするので,心臓とは少し違う考え方をしなければいけないのではないかと感じています。
BASIL Studyはバイパス術とバルーン血管形成術だけの比較ですが,その後いろいろなステントが出たりレーザー治療が行われるようになったりしていますので,これらの血管内治療を同一に論じていいのかということさえわかっておらず,まだ混沌としているのが現状です。
倉林 病変によってどちらに適しているかというのもあると思うのですが,BASIL Studyでもエントリーの細かい基準はありませんでしたね。
宮田 解剖学的にどこがどのように狭窄しているかを区別してランダム化していないところが,BASIL Studyの欠点の1つとして批判されています。
倉林 この10年間における1つのトピックスとして,TASCからTASCⅡへの変遷もありますが,その特徴について簡単にご紹介いただけますか。
宮田 TASCは主に血管外科医など専門家に向けたガイドラインでしたが, ASO患者が急増したことから,TASCⅡはTASCをよりコンパクトにして整形外科医や内科医など血管を本来専門にしない方々にもわかりやすいガイドラインを目指して作成されました。たいへんコンパクトで読みやすい内容になっています。
近年10年間の新しい治療法
倉林 新しい治療法としては,血管新生療法があります。J-TACT以来,細胞療法がかなり普及しました。そのなかで,たとえばBuerger病などには非常に効果がみられるけれども,糖尿病あるいは透析に合併するASOには治療効果が得られにくい患者がたくさんいることが明らかになってきました。増殖因子の治療法は,わが国では肝細胞増殖因子(HGF)の無作為化試験がかなり期待されましたが顕著な効果はないという結論になり,市場に出る可能性がなくなってしまいました。現在,塩基性線維芽細胞増殖因子(basic FGF)が進行中ですが,何か結果が出てきていますか。
宮田 現在,phaseⅡ試験に向けて準備を進めていると聞いています。
倉林 単一の増殖因子ではなかなか難しいというのがコンセンサスになりつつあるのかもしれないですね。
血管新生療法で,最近はさまざまなサイトカインを混ぜて使うカクテル療法や細胞治療プラスサイトカイン療法というハイブリッド治療もあります。また,エリスロポエチンを用いたものも検討されていましたが,あまり定着していませんね。
宮田 全体の流れから,やはり単一で攻めるだけではよい結果が出ないといえそうですね。
わが国のASO治療の今後の展望
倉林 今後もASOはますます増加することが予想され,遭遇する機会は増えると考えられます。ASO治療の今後の展望についてお聞かせください。
野村 やはりABIをまず測定し,脳や心臓のイベント発生をある程度予測したうえで,できる限り抗血小板療法を早く始めるべきだと思います。特に,2型糖尿病は凝固促進の方向に働いているため出血のリスクは普通の人よりも低いとみていいと思います。そのため,強力に抗血栓療法を実施したほうがいいと思います。アスピリンだけではやや不十分かと思いますが,スタチンが投与されているケースもあり抗血栓効果もある程度認められますから,併用薬を慎重に選ぶ必要はあるとは思います。
宮田 この分野は非常に多くの診療科との連携が必要であり,また治療法も多様化しています。そこで,多領域にわたる脈管学の知識を横断的に習得し脈管診療の質の向上を図る目的で,日本脈管学会では脈管専門医制度を立ち上げました。今後,日本脈管学会認定脈管専門医はニーズが高まってくると思われます。
倉林 脈管専門医制度は10年間の最大のトピックスといっていいかもしれませんね。日本脈管学会の学会員数は増加していますか。
宮田 血管外科学会の会員が少しずつ増えてきていますが,脈管学会の会員は減っています。これは,脈管疾患にまだ関心が低いからだと思います。また,心臓に比べ血管の場合,外科治療を行っても保険点数が低いということも,関心が低い理由の1つになるのではないかと思っています。日本血管外科学会では,最重要課題の1つとして保険診療の改訂に挑んでいるのですが,残念ながらいまだ道は開けていません。
さらに,高齢者の重症虚血肢患者は長期入院になり,病院の利益にはならないため民間病院ではあまり入院させたがらないという現状もあり,重大な問題となっています。ともかく,患者さんにとっても重症虚血肢になる前の早期診断,早期治療が重要だと思います。
野村 フットケア外来は増加しているのですか。
井口 糖尿病では保険点数が付きましたから増加しています。
野村 そこが一番大事ですね。
宮田 そうですね。普及には保険点数が付くことが大きく影響します。
倉林 高血圧の管理は非常に徹底されており開業医の先生方も実践されていますが,糖尿病を診療している先生方も下肢に注目していただき,早期診断,早期治療が望まれるところです。
本日は,どうもありがとうございました。