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腎生理の基礎知識

第18回 酸塩基平衡と腎による調節(1)

関根孝司

Nephrology Frontier Vol.10, No.3, 65-68, 2011

はじめに
 これから数回の連載で,「腎臓による酸・塩基平衡の調節の生理学的意義と機序」について記す.酸塩基平衡の理解には,生体の酸の産生,細胞外液の酸塩基緩衝システム,呼吸との連関,腎よりの複数の酸(不揮発性酸)排泄メカニズム,細胞内pHの調節,さらにそれらの分子機序などの総合的知識が必要である.
 第1回目である今回は,「酸塩基平衡の生理学的意義と不揮発性酸の排泄,および酸塩基平衡調節の概略」について記す.

生体における酸・塩基平衡調節の意義

 体液の恒常性維持において,細胞外液(および細胞内液)のH+濃度を著しく低く,かつ狭い範囲に留めること(調節すること)が必須である.これはH+が極めて反応性に富んでおり,蛋白の陰性に荷電した部分に容易に結合したり,解離したりすることにより,蛋白機能を変化させるからである.具体的には細胞外H+は以下のような物質代謝,分子制御に関与する1)2).
①生体反応(代謝反応,補体結合など)への関与

②様々な生体物質(ホルモン,金属,薬物など) あるいは受容体および薬物などへの結合

③チャネルやトランスポーターの輸送調節
 さらに重要なことは,細胞内pHは,細胞機能遂行の上でさらに重要な働きを担っていることである.細胞内の様々な代謝反応には,細胞外と同様にH+の濃度が厳密に調節されていることが必須であり,細胞内pHには細胞外pHが大きな影響を及ぼす(細胞内pHの制御メカニズムについては本連載の最後に説明する)1)2).
 酸塩基平衡調節がいかに巧緻になされているかは,そのイオン濃度からも明らかである.Na+,K+,Cl-といった細胞外液中の濃度がmmol/L単位であるのに対して,H+(pH 7.40の時)濃度は40nmol/Lと10万分の1から100万分の1と著しく低い.細胞外液のpHとH+濃度との関連には表1の関係が成り立つ.

 病的状態を含めたヒト細胞外液のpH(7.2~7.6)では,細胞外液のH+濃度は26~64nmol/Lという非常に狭い範囲に設定されていることがわかる.

生体への恒常的な酸負荷とその排泄

 腎臓によるNa+,K+,Cl-などの調節の理解は比較的容易である.これらのイオンに関しては生理的定常状態を維持するためには,intake(経口的な食物・飲水として摂取)と同等のoutputを腎臓が行えばよい.病的状態においてNaの負荷や喪失があった時には,いくつかの調節系を用いて腎臓は再びこれらのイオンおよび体液量を生理的定常状態に戻す.
 一方,酸塩基平衡の維持については,これらの電解質に比べてやや複雑である.
 生体は以下の2つの機序により,常にH+が負荷されている3).
①摂取した食物より産生されるH+
②生体内で代謝されることにより生じるH+およびCO2
 こうした食事中から摂取され代謝により発生する不揮発性酸,またエネルギー代謝などの過程で酸性されるCO2は,腎およびが肺相互に連関して排泄される.特に,不揮発性酸の排泄は腎からしかできず,尿細管上皮には胃粘膜のような強酸に対する防御機構が存在しないため,不揮発性酸の腎からの排泄にはいくつかの仕組みが必要である.
 勿論,アルカリも負荷されるが,腎からHCO3-として最終的に排泄されるので,そのin-outの理解は容易である.
 食事由来の不揮発性酸は大きく,①含硫アミノ酸由来,②陽イオン(カチオン)性アミノ酸,③その他(リン酸,乳酸,有機酸など)に分類される3)4).
①S含有アミノ酸から以下の反応により硫酸が生成される.

RN-S → CO2+Urea+H2SO4 → SO42-+H+
 このようにS含有アミノ酸からは2つのH+が産生されることになる.一方で,肝臓で行われる硫酸抱合で1つのH+が消費されるので,結果的に1つのS含有アミノ酸からは1つのH+が産生される.
②カチオン性アミノ酸からは以下の反応により塩酸が生成される.
Arginine++Cl-→Urea+CO2+HCl
③その他,食物中に含まれる,リン酸,乳酸,有機酸なども不揮発性酸となる.
以上を合算すると,成人において1日に50~100mmolの不揮発性酸が産生される.

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