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尿細管の再生医学

骨髄細胞を用いた腎再生の試み

横尾隆

Nephrology Frontier Vol.10, No.3, 20-23, 2011

SUMMARY
 腎臓はその構造の複雑性のため最も再生が難しい(つまり不可能である)臓器とされ,その再生は悲観的にとらえられてきた.しかし,最近の目覚ましい再生医療研究の応用により,少しずつではあるが希望の光が差し始めてきた.本特集では尿細管の再生研究を取り上げているが,本稿では現在広く腎臓再生に向けてチャレンジングで独創的な研究を展開しているチームを紹介し,その臨床応用の可能性について総説してみたい.

KEY WORDS
◆臓器再生 ◆間葉系幹細胞 ◆生体由来足場 ◆杯盤胞補完法 ◆リレー培養法

Ⅰ はじめに

 40年程前になるが,「人造人間キカイダー」という,正義の味方のロボットが悪の組織と戦うという子供向け娯楽番組があった.このキカイダーは,体の一部が壊れるとその部分だけ新しい部品に代えることで,いつでも新品同様の状態を維持できる.なぜだかこのシーンに衝撃を受け,人間もこのようにできれば病気なんかなくなるのに,と幼心に思ったことを記憶している.これこそが再生医療の根源であり,傷害を受けた組織や臓器を薬剤で何とか修復しようとするのでなく,新しいものを作って取り替えてしまおうという概念である.この作り話のような出来事が,昨今の科学技術の進歩により“次世代の夢の治療法”として一部現実化している.特に皮膚や角膜などの再生医療は,実際に臨床の現場で用いられ始めている.さらに近年では,京都大学のYamanakaらによるヒトiPS細胞樹立1)のニュースが世界を駆け巡り,強い追い風となって,これまで不可能と言われてきた臓器にまでその適応を広げようと世界中で積極的な研究が進められている.しかし,そのほとんどは安全で簡便な幹細胞樹立法開発や,それを用いた単純構造の組織再生が中心となり,実際に臨床で必要となる複雑な3次元構造を持つ腎臓や肺などの臓器再生実現には悲観的な見方が大半である.実際に日本再生医療学会総会でも「腎臓」というセッションはなく,「泌尿器その他」という一括りになっており,また国内の大型グラント申請も「実現化が難しい」という理由で臓器再生は不採択になることが多いと聞く.
 腎臓の場合,透析によってとりあえずの延命が可能であるため死亡に直結せず,研究の緊急度や要求度が低いと認知されていた.しかし,現実には腎臓の問題は非常に深刻であり,高齢化や糖尿病患者の増加により爆発的に増え続ける透析患者に対応する医療費が底をつき,透析医療は行き詰まった医療経済の最大の課題になっており,このままでは破綻が避けられない状況である.さらに,腎臓は患うと回復が非常に難しい上に,昔に加えて寿命も延びているので,その分患者も苦しむ時間が長くなっている.既に患者の忍耐も医療経済も限界を迎えている状態にあるのだ.本稿では,この危機的状況に立ち向かうべく,広く3次元構造の再生に取り組む研究成果について総説したい.

Ⅱ 生体由来足場を用いた腎臓再生

 3次元構造の再構築による臓器再生で最近最も注目を集めているのが,生体由来足場を用いた臓器再生である.つまり,死亡した個体から臓器を摘出し,脱細胞化して足場だけにした後,ES細胞または臓器前駆細胞を注入し,各箇所で成熟細胞に分化させることにより3次元臓器を再現しようとする試みである.
 この概念は,心臓再生研究において死体心を再生心臓の足場に用いる方法として最初に報告された.摘出した心臓の冠動脈からdetergentを注入して脱細胞化を行った後,新生児の心筋細胞を注入することにより心筋細胞に分化させ,拍動しポンプ機能を持った心臓にまで分化させることが可能になるという2).最近この成功に端を発して,肝臓や肺といった高次元臓器の構築と機能の再現が相次いで報告され,にわかに注目されるようになった3)4).この手法を腎臓に応用しようとする試みが見られる.つまり,死後腎臓を摘出し,脱細胞した上で腎臓幹細胞を打ち込むというストラテジーである.これまで,ラットの摘出腎にマウスのES細胞を注入し,ES細胞由来の血管や糸球体,尿細管に分化するという報告が見られた5).しかし,残念ながら腎臓の場合機能は再現できないようで,このアプローチによる腎臓再生には注入細胞の選定や注入方法などまだまだ課題が多いようである.

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