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尿細管の再生医学

(座談会)尿細管・腎臓の発生―再生と医療―

柏原直樹西中村隆一寺田典生門川俊明

Nephrology Frontier Vol.10, No.3, 12-19, 2011

 2007年にヒトiPS細胞が樹立された後,様々な領域において再生医療の技術は目覚ましい躍進を遂げてきている.その一方で ,我が国における透析患者は増加の一途を辿り,移植腎の不足など腎臓を巡る問題は依然として大きい.そのような状況のなかで,腎臓の治療における再生医療はますます重要なものとなっていると言えよう.
 本日はエキスパートの先生方にお集まり頂き,現状と課題,将来の展望についてお話を伺った.

出席者(発言順,敬称略)
柏原 直樹(司会)
Naoki KASHIHARA
川崎医科大学腎臓・高血圧内科 教授

西中村隆一
Ryuichi NISHINAKAMURA
熊本大学発生医学研究所・腎臓発生分野 教授

寺田 典生
Yoshio TERADA
高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科 教授

門川 俊明
Toshiaki MONKAWA
慶應義塾大学医学部医学教育統括センター 専任講師

Ⅰ 腎臓の発生過程

柏原─慢性腎臓病(CKD)患者の増加を背景に,我が国における腎不全患者は残念ながらまだ増加の一途を辿っています.治療あるいは病態解析において一定の進歩があることは間違いありませんが,最終的な結果として透析患者数の増加には歯止めがかかっていない現状です.

 そのような状況のなか,他臓器と同様に,腎臓病の治療法としても再生医療が試みられています.本日は我が国で腎臓の発生や再生医療に関する最先端の研究をされている先生方にお集まり頂き,お話を伺っていきたいと思います.
 まず腎臓の発生に関して,分子機構,最近の基礎研究の進歩を交えて,西中村先生にお話を頂戴したいと思います.
西中村─腎臓は中間中胚葉から前腎,中腎,後腎という3段階を経て発生しますが,後腎が私たちの腎臓です.中間中胚葉から前腎,中腎の辺りは,転写因子であるOsr1が発現しています.Osr1は最初は広範囲に発現していますが,徐々に狭くなり,最後には腎臓の間葉細胞に限局していくとされています.
 後腎ができると,尿管芽と間葉との相互作用が始まり,尿管芽からWnt9bが間葉に働き,間葉はそれによって分化誘導因子Wnt4を分泌して上皮化,つまり管へ分化し,糸球体,近位尿細管,遠位尿細管が形成され,ネフロンができます.これが腎の発生の概略です.
 間葉と尿管芽の相互作用は,GDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor)などいくつかの液性因子(サイトカイン)によって制御されています.また,Pax2,Eya1,Six2,Sall1などの転写因子群も関与することがわかってきています.
 Sall1は2つの役割を持っています.1つは,標的遺伝子であるKif26bを制御し尿管芽を引き寄せるという腎臓発生における最初のステージでのもの,そしてもう1つは,その後ネフロン前駆細胞を維持する役割です.Kif26bはSall1直下にある遺伝子で,これをノックアウトしてもSall1と同様に腎臓は形成されず,尿管芽は侵入しません1).間葉でKif26bはミオシンと結合し,カドヘリンやインテグリンを制御することによって間葉の形などを決め,それが二次的にGDNFを制御し,尿管芽を侵入させると考えています.また,尿管芽と相互作用した間葉からネフロン前駆細胞が出てくると推測しています.
 尿管芽由来の集合管や尿管を除く糸球体ポドサイト,近位尿細管,遠位尿細管は,Sall1-high,Six2陽性のネフロン前駆細胞に由来することがわかっています2)3).Six2はWnt4による分化,上皮化を抑制していますので,Six2をノックアウトすると分化が進んで,小さい腎臓で終わります.
柏原─間葉はWnt4によって上皮化しますが,非上皮化細胞を一定数で残しておくことが重要なのですね.
西中村─そうです.恐らくSix2がそれを担っています.
 一方,間質はFoxd1陽性の,nephrogenic zoneの外側にある細胞集団からできると考えられています.ですから,腎臓にはSix2陽性Sall1-highの間葉の前駆細胞と,間質の前駆細胞,尿管芽由来のlineage,血管のlineageという少なくとも4つの系統があることがわかってきています.
 分化後にNotch2がなくなると,近位尿細管と糸球体のポドサイトがなくなることから,Notch2が方向を決めているのか,他のものが方向を決めNotch2がそれをサポートするのかという疑問があります.Six2陽性のネフロン前駆細胞でNotch2を過剰発現させても,近位尿細管だらけ,あるいはポドサイトだらけにはならず,腎臓が小さくなって生後直後に死亡します.ですから,Notch2は運命を決めていないと考えられます4).
 これはSix2が落ちてWnt4が上がる,いわゆるSix2ノックアウトと同じことで,短期間に分化が起きて腎臓が小さくなります.つまり,フィードバックループがあって,Notchが上がると,Wnt4が上がり,Notchが上がるという,一旦分化し始めると後戻りできないようなシステムが,前駆細胞のなかに入っているのではないかと考えています.

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