SUMMARY  常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)は,PKD1遺伝子ないしPKD2遺伝子の異常によって発症し,約半数は60歳代で終末期腎不全に至る疾患である.臨床的には腎容積の増加に伴い腎機能が悪化することが知られており,囊胞の増大を抑制すれば腎機能の悪化を回避できる可能性が示唆されている.  現在,ADPKDの細胞増殖には以下の機序が考えられている.PKD1,PKD2遺伝子の遺伝子産物であるポリシスチン1とポリシスチン2は複合体を作り,尿細管管腔の primary cilia細胞膜上に存在する.この複合体はCaを細胞内に流入させるチャンネルとして働き,細胞内情報の活性化を担う.ADPKD細胞ではこのチャンネルの機能障害があり,細胞内のCa濃度が低下し,細胞内cAMPの増加をもたらす.cAMPは正常の尿細管細胞では細胞増殖に関して抑制的に働くが,ADPKD囊胞上皮細胞では細胞増殖を促進する.  一方,腎集合管細胞に存在するバソプレシンV2受容体(VPV2R)を刺激すると,細胞内cAMPは増加し,抗利尿効果が見られる.VPV2R拮抗薬は,細胞内cAMPの増加を抑制し,VPV2Rが存在するADPKD細胞で細胞増殖を抑制する可能性がある.VPV2R拮抗薬のOPC-31260やOPC-41061(トルバプタン)が,囊胞腎モデル動物の囊胞形成抑制や退縮をもたらすことが報告されている.トルバプタンは低Na血症や心不全の治療薬として既に臨床で用いられているが,上記の機序よりADPKDの治療薬となる可能性があり,現在日米欧での国際共同治験が進行中である.また,ソマトスタチンアナログやmTOR阻害薬の治療薬としての可能性についても言及する.