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ネフローゼ症候群の治療―免疫抑制薬の新たな可能性―

ポドサイトバイオロジー~免疫抑制薬を含めて~

淺沼克彦

Nephrology Frontier Vol.10, No.1, 34-38, 2011

SUMMARY
 ネフローゼ症候群の発症に血液の最終濾過障壁であるポドサイトの障害が関与していることはよく知られているが,ポドサイト障害の分子機構についてはいまだ不明な部分が多い.最近,免疫抑制薬がポドサイトに直接作用して効果を発揮することを分子生物学的に明らかにした論文が相次いで報告されたので解説する.

KEY WORDS
◆ 蛋白尿 ◆ シクロスポリンA ◆ ネフローゼ症候群 ◆ ポドサイト ◆ Synaptopodin

Ⅰ はじめに

 ネフローゼ症候群は,大量の蛋白尿のために低蛋白血症や脂質異常症(高コレステロール血症),浮腫を伴う症候群である.非遺伝的なネフローゼ症候群の大多数は,成人の場合,膜性腎症,巣状糸球体硬化症(FSGS),微小変化型ネフローゼ症候群であり,小児の場合,微小変化型ネフローゼ症候群と巣状糸球体硬化症である.それらすべてのネフローゼ症候群を引き起こす疾患において,ポドサイト障害が関与していると考えられている.ポドサイト障害により糸球体濾過機能がうまく働かなくなった時に蛋白尿が生じるわけであるが,糸球体硬化や糸球体の癒着は微小変化型ネフローゼには認められない現象である.一方,持続する蛋白尿は糸球体硬化から末期腎不全への進行の予測因子である.治療により不完全寛解や完全寛解の状態にならない長期高度蛋白尿を生じる症例では,3~6年の経過で末期腎不全に進行していく.最近,特発性膜性腎症の自己抗体が同定され,特発性膜性腎症の70%にその自己抗体が存在することが報告された1).しかし,特発性巣状糸球体硬化症や微小変化型ネフローゼ症候群についての病因については,いまだ明らかにされていない.本稿では,ポドサイト障害のメカニズムとポドサイト障害に対する免疫抑制薬の直接的な作用について述べる.

Ⅱ ポドサイトについて

 腎臓のポドサイトは高度に分化した細胞であり,糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)を外側から覆っている.ポドサイトは血中蛋白質の最終的な濾過障壁であり,ポドサイト障害は著明な蛋白尿を引き起こす.ポドサイト障害は,多くの腎疾患や様々な実験腎炎モデルにおいて認められている.ポドサイト障害の早期には,まずスリット膜の分子構造の変化が認められ,足突起の細胞骨格の分布が変化し,足突起は消失(foot process effacement)して,その噛み合わせを失う(図1) 2).

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