Special Articles
テーマ① ヒスタミンH₁受容体の 立体構造
掲載誌
鼻アレルギーフロンティア
Vol.22 No.1 16-22,
2022
著者名
岩田 想
記事体裁
抄録
疾患領域
耳鼻科疾患
/
アレルギー・免疫
診療科目
アレルギー科
/
耳鼻咽喉科
媒体
鼻アレルギーフロンティア
ヒスタミン受容体はGタンパク質共役型受容体(Gprotein-coupled receptor:GPCR)であり、生体アミン受容体の一つである。生体アミン受容体は、ヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、ドーパミン受容体、セロトニン受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体などを含み、クラスAのGPCRの主要なサブファミリーを形成する。ヒスタミン受容体は、神経伝達物質であり、かつケミカルメディエーターでもあるヒスタミンをリガンドとするGPCRであり、ヒトでは4種類(H₁、H₂、H₃、H₄)の受容体が同定されている。このうちアレルギーに関連しているのはヒスタミンH₁受容体である¹⁾。ヒスタミンH₁受容体は、さまざまな組織に分布し、中枢神経では海馬、視床下部などに、末梢組織では平滑筋、消化管、血管内皮細胞、免疫細胞などに存在する。ヒスタミンH₁受容体は活性化すると、Gqタンパク質と共役することで、プロテインキナーゼCの活性化、イノシトールリン酸の生産、細胞内カルシウム濃度の上昇といった作用を発揮する¹⁾。
中枢神経で発現しているヒスタミンH₁受容体は、睡眠・覚醒サイクルなどに関与する。一方、末梢組織に発現しているヒスタミンH₁受容体は、アレルゲンの刺激により肥満細胞などから遊離したヒスタミンを受容し、血管の透過性を亢進させることなどによりアレルギー反応に関与している¹⁾。アレルギーの薬である抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンH₁受容体のインバースアゴニストとして働き、受容体の不活性型構造を安定化し、ヒスタミンシグナルを遮断する。抗ヒスタミン薬は1940年代には既に市販されており、また、最近の市販薬のなかで、最も多いものの一つである²⁾。しかしながら、抗ヒスタミン薬は多くの副作用を示す。特にプロメタジン(promethazine)などの第1世代抗ヒスタミン薬(図1)は、疎水性であるため血液脳関門を通過しやすく、中枢神経で働くヒスタミンH₁受容体にも結合して鎮静作用を引き起こす。また、第1世代抗ヒスタミン薬は受容体選択性が低く、他のアミン受容体にも結合して働きを抑制し、アセチルコリン受容体に作用し口渇を引き起こしたり、アドレナリン受容体に作用し心機能に影響を及ぼしたりすることが知られている³⁾。一方、オロパタジン(olopatadine)、フェキソフェナジン(fexofenadine)、レボセチリジン(levocetirizine)など第2世代抗ヒスタミン薬(図1)の多くは、親水基の導入などにより中枢移行性は減少し、また受容体選択性も改善されている。以上のように、各種の抗ヒスタミン薬の作用が異なるのは、受容体に対する親和性、中枢移行性、受容体の選択性などの複数の要素が関与していることが分かっている。この違いを分子レベルで理解し、個々の患者に最も適した抗ヒスタミン薬を選択するための理論的バックグラウンドを形成することを目的としてヒト由来ヒスタミンH₁受容体の構造解析を行った⁴⁾。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。