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統合失調症様症状をきたす脳神経疾患

抗NMDA受容体脳炎の精神症状

Psychiatric symptoms in anti-NMDA-receptor encephalitis

栗田紹子小山司

Schizophrenia Frontier Vol.12 No.1, 44-47, 2011

要約
 抗NMDA受容体脳炎は若年女性に好発する自己免疫性脳炎であり,NMDA受容体に対する細胞膜抗体を介して発症する。卵巣奇形腫に合併することが多いが,男性例や非腫瘍合併例も報告されている。発症初期に不安,抑うつ,幻覚妄想などの精神症状を呈することが特徴であり,その後は意識障害,不随意運動,けいれん発作,中枢性低換気と重篤な経過をとる。古典的な傍腫瘍性辺縁系脳炎と異なり,腫瘍切除や免疫療法などの治療に反応し,寛解までに長期間を要することはあるが予後は比較的良好である。精神症状の特徴としては離人体験,死や霊に関する妄想,常同言語などが挙げられる。精神科を受診することが多く,統合失調症や解離性障害などの精神疾患との鑑別が必要になる。

Key words
抗NMDA受容体脳炎,卵巣奇形腫,統合失調症,幻覚妄想,離人体験

はじめに

 精神科医が日常臨床で遭遇する器質性精神障害の1つに辺縁系脳炎による精神症状がある。辺縁系脳炎の原因は単純ヘルペス脳炎が最も多く,それ以外の非ヘルペス性辺縁系脳炎では,サイトメガロウイルスなどの他のウイルス性脳炎,傍腫瘍性脳炎,自己免疫疾患に伴う脳炎が挙げられるが,これらに分類できないものも少なくはない。近年,これまで原因不明とされていた辺縁系脳炎に関係する新たな自己抗体が次々と報告されている。これらは神経細胞表面抗原に対する抗体を有し免疫抑制療法が有効であることが多く,必ずしも悪性腫瘍を随伴しないことから,抗細胞内抗原抗体を有する古典的な傍腫瘍性辺縁系脳炎とは区別され,辺縁系脳炎の新たなサブグループとして確立されつつある。Voltage-gated potassium channel (VGKC),N-methyl-D-aspartic acid (NMDA)受容体,α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid (AMPA)受容体,γ-aminobutyric acid (GABA)B受容体などに対する抗体が報告されているが1)-4),このなかでは抗NMDA受容体脳炎が最も頻度が高く本邦での報告例も多い。早期診断および治療開始が必要であるが,発症初期に統合失調症様の精神症状を呈し精神科を受診することが多く,精神科医が知っておくべき疾患の1つである。本稿では,抗NMDA受容体脳炎の精神症状を主体とした臨床的特徴について述べる。

1 抗NMDA受容体脳炎の疾患概念

 1997年に本邦で卵巣奇形腫切除後に神経症状が改善した急性辺縁系脳炎の症例が報告5)6)されて以降,若年女性に好発する原因不明とされていた脳炎と卵巣奇形腫の関連が注目されるようになった。2007年にペンシルベニア大学のDalmauらが,重篤な精神症状や神経症状を呈した卵巣奇形腫を有する女性患者12例において,血液および髄液からNMDA受容体を構成するNR1/NR2 heteromers(主にNR1/NR2B)に対する抗体が検出されたことを報告し,卵巣奇形腫関連傍腫瘍性抗NMDA受容体脳炎という概念が提唱された2)。2008年にはこの自己抗体がNR1サブユニットの細胞外エピトープに特異的に結合することが解明されている7)。その後の調査で腫瘍が合併しない症例8)9)や男性例9)も存在することがわかり,anti-NMDA-receptor encephalitisすなわち「抗NMDA受容体脳炎」と呼ばれるようになった。

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