要約  甲状腺機能異常によって精神障害が起こることは稀ではなく,臨床上必ず検討しておくべき症状性精神障害の代表である。一般に甲状腺機能異常によって起こる精神障害は,意識障害や気分障害様の臨床症状を呈すが,橋本脳症は,甲状腺に対する自己免疫障害から起こる珍しい脳症であり,甲状腺機能異常は軽度であるにもかかわらず,痙攣,意識障害,精神病症状,認知機能障害などの精神症状および不随意運動や小脳失調などの神経症状をきたす。臨床的には,甲状腺に対する比較的高い自己免疫抗体価は示すものの,診断を確定するための典型的な所見を呈しないため,診断に難渋する事例が多く,注意が必要である。しかし,一方で,副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬への反応は良好であるため,適切な診断と治療により,その予後を劇的に改善できることもわかっている。本稿では,橋本脳症の特徴について,精神症状に焦点を当て,自験例を交え概説したい。