統合失調症様症状をきたす脳神経疾患
クッシング症候群の精神症状
Mental disorders induced by Cushing’s syndrome
Schizophrenia Frontier Vol.12 No.1, 16-20, 2011
要約
クッシング症候群では過半数以上に精神障害が出現するとされる。精神症状は多彩であり,不安障害,人格障害,気分障害,統合失調症様障害,薬物依存,摂食障害といった症状として現れる。特に不安障害,焦燥感を伴う抑うつ状態,双極性障害を認めることが多い。気分障害には幻覚・妄想を伴うこともある。典型的には特徴的な身体症状顕在化とほぼ同時期に精神症状が出現するといわれ,その場合,診断はある程度容易である。しかし,特徴的な身体症状を欠く場合,内因性精神病との鑑別はかなり困難となる。向精神薬による対症的な治療は一時的な効果に止まり奏効しない。原病を適切に診断し,ステロイド合成阻害薬などにより,高コルチゾール状態を改善することで,精神症状も改善することが多い。精神科をはじめに受診する患者では身体症状を欠く場合が多く,初診時の血液検査での電解質異常(低カリウム血症)がみられた場合など,内分泌検査でコルチゾール値を測定しておくことが鑑別に有用と思われる。
Key words
クッシング症候群,コルチゾール,うつ病,ステロイド合成阻害薬,低カリウム血症
はじめに
クッシング症候群の3分の2~4分の3に精神障害が出現するとされている1)2)。典型的には特徴的な身体症状顕在化とほぼ同時期に精神症状が出現する3)といわれ,その場合,診断は比較的容易である。一方で特徴的な身体症状が顕在化する数年前から,精神症状が出現した症例報告4)もある。精神科を最初に受診する患者はいまだ身体症状が顕在化していない可能性があり,このような場合,内因性精神病との鑑別はきわめて難しく,クッシング症候群を念頭に置いていなければ診断は困難である。本稿ではクッシング症候群とその精神症状,本症候群の鑑別の要点について紹介する。
1 クッシング症候群について
クッシング症候群は,副腎皮質の慢性的コルチゾール過剰産生により,血中コルチゾールが持続的に高値となり,特徴的な身体症状とともに高率に精神症状を伴う疾患である。頻度としては,1965~1986年に行われた全国調査で,日本全国で平均して年間約100例が発症することが報告されている。性差・好発年齢は,20~40歳代の女性に多い。病型分類として,副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)過剰分泌による二次的なコルチゾール過剰分泌によるACTH依存性と副腎原発のACTH非依存性に分類される。ACTH依存性の場合は,主に下垂体ACTH産生腺腫によるクッシング病と,下垂体以外の腫瘍からのACTH過剰分泌による異所性ACTH症候群とがある。副腎原発の場合は,主として腺腫(通常一側性)や癌と両側の過形成,異形成がある。
特徴的な身体症状として,進行性の中心性肥満,顔面の脂肪沈着による満月様顔貌,顔面紅潮,易疲労感,多毛,後頸部脂肪沈着,近位筋を中心とした筋力低下,皮膚の菲薄化,伸展性皮膚線条などがあり,高血圧,稀少月経や無月経を併発する。一般検査では,低カリウム血症,耐糖能異常,好中球増加,好酸球およびリンパ球減少,そして,脂質異常症を約50%で認める。上記のような特徴的症候があれば,血中ACTHとコルチゾール値を測定し診断する。コルチゾール値はどちらの病型でも正常~高値であり,ACTHが正常~高値ならACTH依存性を,ACTHが低値ならばACTH非依存性を疑う。Dexamethasone抑制試験,CRH試験で病型を特定し,CTまたはMRI検査で腫瘍または過形成の存在を確認する。負荷試験やその後の病型分類に関しての詳細は成書を参照いただきたい。根本的な治療は腫瘍の手術的除去である。それが不可能な場合や腫瘍が残存した場合,下垂体腺腫にはまず放射線療法,次いで薬物療法を行い,異所性や副腎性の場合は薬物療法を行う。また,除去が可能であっても,除去後適切な補充療法の継続が必要である。
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。