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統合失調症様症状をきたす脳神経疾患

ミトコンドリア病と精神症状

Psychiatric symptoms associated with mitochondrial diseases

市場美緒中村雅之佐野輝

Schizophrenia Frontier Vol.12 No.1, 7-10, 2011

要約
 ミトコンドリアの機能異常は多数の臓器障害を生じ,なかでもエネルギー依存性の高い骨格筋や心筋,中枢神経系は障害を受けやすい。この症状精神病としての症状として,意識障害,幻覚や妄想などの統合失調症様の症状,双極性障害,大うつ病性障害,人格変化,認知症など多彩な精神症状が認められる。
 ミトコンドリア病はミトコンドリアを通じて母系遺伝するほか,核DNAの変異により生じる場合もある。また,mtDNAに変異が生じた場合,正常mtDNAと細胞や組織内で共存する状態(heteroplasmy)を生じて症状を複雑化する。さらに,臨床表現型が異なる患者間で同一の塩基配列変化が認められることもしばしばあり,臨床表現型と遺伝子型の関係性はいまだ明らかではない。
 精神疾患と診断されているなかにもミトコンドリア病が混在している可能性は高く,注意深い観察が必要である。

Key words
ミトコンドリア病,統合失調症,双極性障害,大うつ病性障害,認知症

1 ミトコンドリア病

 ミトコンドリアは真核生物に存在する細胞内小器官であり,呼吸鎖によるエネルギー・ATP産生というきわめて重要な役割のほか,アミノ酸,リン脂質,ステロイドなどの代謝,細胞内カルシウム濃度の緩衝作用,アポトーシス機構の因子など多くの役割を担う。そのためミトコンドリアの機能異常により多数の臓器障害が生じ得るが,なかでもエネルギー依存性の高い骨格筋や心筋,中枢神経系に障害がみられやすい。ミトコンドリア病の多くは独立した臨床表現型に分類されており,慢性進行性外眼筋麻痺(chronic progressive external ophthalmoplegia;CPEO),MELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes),MERRF(myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers)の3大病型のほか,NARP(neurogenic muscle weakness, ataxia and retinitis pigmentosa),LHON(Leber hereditary optic neuropathy),Leigh症候群などがある。共通にみられやすい臨床症状としては,筋症状(眼瞼下垂,外眼筋麻痺,近位筋萎縮,心筋障害),感音性難聴,眼症状(視神経萎縮症,網膜色素変性症),糖尿病などがあり,特に難聴と糖尿病はしばしば認められる症状である。

2 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝

 ミトコンドリアは2枚の脂質膜で構成された細胞内小器官であり,固有のDNAを有する。ヒトのmtDNAは環状の二重鎖構造で,相補性のH鎖とL鎖から成る。約16.6kbの長さをもち,22のtRNAと2つのrRNA,13の蛋白をコードしており,これらの遺伝子はイントロンを含まない連続配列となっている1)。H鎖とL鎖の転写に関与するプロモーターを含むD-loopは,遺伝子をコードしない唯一の領域である(図1)。

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