2020年度日本再生医療学会 奨励賞
【臨床部門】HMGB1はPDGFRα陽性骨髄間葉系細胞を障害心筋へ誘導し,心筋梗塞後adverse remodeling進行を抑制する
再生医療 Vol.20 No.1, 70-77, 2020
心筋梗塞後の遠隔期死亡原因として,心筋のadverse remodeling進行による慢性心不全が問題となっている1)2)。梗塞心筋に対する種々の幹細胞を用いた再生治療は,梗塞後adverse remodelingを抑制する効果があることが,心筋梗塞モデル動物を用いたin vivo試験で多数報告されており3)-9),すでに骨格筋芽細胞やiPS由来心筋細胞を用いた臨床応用が始まっている。幹細胞と同じ再生効果を発揮する再生創薬の分野は依然として開発途上であり,細胞治療の機序を解明し新たな心不全治療薬を開発することが望まれている。
近年,骨髄由来間葉系幹細胞(bone marrow derived mesenchymal stem cell;BM-MSC)を障害組織へ誘導し組織再生を促進させる因子であるHigh mobility group box1(HMGB1)が組織リモデリングを抑制する薬剤候補として注目されている10)-12)。一方,HMGB1は炎症メディエーターとしての生理作用も併せ持ち,Toll-like receptor-2/-4(TLR-2/-4)やReceptor for advanced glycation end product(RAGE)とHMGB1対応ドメインが結合することで全身性炎症を惹起する13)-15)。大阪大学大学院医学系研究科では,これらの既知のHMGB1の炎症関連ドメインを排除し,新たにshort length のHMGB1 peptideを開発した10)12)16)。本HMGB1 peptideは,BM-MSCを自己骨髄から障害組織へと誘導し,様々な疾患モデルで組織再生を促すことが確認された10)-12)16)。
以上の着想を踏まえ,HMGB1 peptideを心筋梗塞モデルラットに投与することにより,自己骨髄から障害心筋へのBM-MSC誘導が促進され,心機能が改善されることを仮説とし,検証を行った。
「KEY WORDS」心筋梗塞,adverse remodeling,骨髄間葉系幹細胞,HMGB1,再生創薬,endogenous regenerative therapy
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。