2018年度日本再生医療学会 Johnson & Johnson Innovation Award
細胞画像情報解析を用いた治療用細胞製造のための品質管理技術の開発
再生医療 Vol.18 No.2, 47-55, 2019
再生医療は,従来の医療・医薬品では治療が難しかった疾患の治療を実現する革新的科学として,急速な発展を遂げてきた。特にわが国では,「再生医療等製品」という新しいカテゴリが創設され,さらに細胞培養加工の外部委託が認可されるなど,新しい市場と産業を創出するための土壌が開拓されつつある1)。
再生医療が産業化に向かうなか,我々は細胞を「治療用の製品として製造する」という難しさに直面しつつある。再生医療が産業として成功するためには,製品の安全性に加え,製品製造の安定性と効率性の実現とバランスが極めて重要である。しかし,細胞製造の現場はまだ手作業と熟練の技に依存しており,新しい技術的なパラダイムシフトが求められている2)3)。
再生医療が直面する産業化課題の解決の糸口は,ものづくり大国である日本が誇る多くの産業の歴史に学ぶところが多くある。自動車をはじめとして,ものづくり産業のほとんどのスタートは,熟練の技に支えられた手作り製造で賄われていた。しかしそこに,「だれもが無理だ」と言ってしまうような大きな目標設定と,機械化・自動化などの大胆なテクノロジーを開発・導入する挑戦によって,世界に誇るブランド産業が生まれてきたのである。現在の「治療用細胞の製造」は,このようなスタート段階に酷似している。熟練の技に学びながら,安定性や経済性の実現を得意とする工学技術は,再生医療の産業化を強く支援できる可能性が高い。
筆者らは,治療用細胞の製造現場における「品質管理」の重要性に注目し,治療用細胞製造プロセスにおける非破壊的な評価技術として,『細胞画像情報解析を用いた細胞品質評価法』の開発に取り組んできている1)-6)。本稿ではこの技術の概要,および細胞製造における品質管理技術としての可能性について概説する。
「KEY WORDS」品質管理,細胞製造,画像情報解析,画像処理,機械学習
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。