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2018年度日本再生医療学会奨励賞

【臨床部門】臍帯由来間葉系細胞由来BDNF・HGFは神経修復を促進する

向井丈雄長村登紀子東條有伸

再生医療 Vol.18 No.1, 68-72, 2019

間葉系細胞(Mesenchymal stem/stromal cell:MSC)は,骨髄中に存在する骨形成能を持つ細胞として1966年に報告され1),1991年にCaplanらにMSCと名付けられて以降2),体性幹細胞として近年広く研究が行われており,再生医療のための細胞製剤として注目されている。MSCのソースとして,成人ソースには骨髄,脂肪,末梢血,骨格筋,軟骨などがあり,胎児組織ソースとしては臍帯,臍帯血,胎盤,羊膜などがある3)
骨髄由来MSCは最も古くからその特性,投与における安全性や効果が研究されており臨床研究も進んでいる一方,骨髄採取に侵襲性を伴い,ドナーの年齢によって特性が変化する側面もある4)。一方,胎児組織由来MSCは臨床研究における使用経験としてはいまだ多くないが,出産に伴い廃棄する組織を使用するためドナーへの侵襲性は少なく,ドナーの年齢差がないという利点がある。
MSCには多分化能の他に,hepatocyte growth factor(HGF),brain-derived neurotrophic factor(BDNF),glial-derived neurotrophic factor,basic fibroblast growth factor(bFGF)など様々な液性因子を分泌することによる組織修復能や5)6),HLA-DRの発現がなくindoleamine 2,3-dioxygenase(IDO),PGE2,HLA-G5などの因子を分泌することによる免疫調節能を有すると報告されている。これらMSCの特性である組織修復能と免疫調節能は再生医療において注目されており,「組織傷害と炎症反応を伴う病態」に対してMSCはよい治療薬となり得る。
MSCの脳神経系障害への適用に関して,脳神経障害動物モデル対するMSC治療の有効性が多数報告されており,神経疾患に対する臨床試験も既に行われている。神経傷害におけるMSCの働きとして,投与したMSC自体が神経細胞に分化・生着して機能的に働くという考え方の他に,MSCの分泌する神経栄養因子などによるparacrine effectにより神経保護効果を発揮しているのではないかと報告されている5)7)。我々の実験においても,新生児脳出血モデルマウスに対してヒト臍帯由来MSC(UC-MSCs)を経静脈投与したところ,投与24時間後のマウスの一部において,血液,髄液中でのhuman-BDNFとhuman-HGFの上昇が認められた(human-NGFの上昇は認められなかった)5)。上記の結果から,UC-MSCs由来BDNF・HGFが傷害された神経の修復に寄与しているかどうかをin vitroの神経細胞傷害モデルを用いて検討した。
「KEY WORDS」間葉系細胞,臍帯,再生医療,神経栄養因子

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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