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2017年度日本再生医療学会Johnson&Johnson Innovation Award

再生医療用ヒト心筋組織開発

松浦勝久

再生医療 Vol.17 No.1, 90-97, 2018

全身に血液を送り出す上で最も重要であるヒトの左心室には,およそ100億個の細胞が存在すると考えられている。また心臓組織には,収縮・弛緩を繰り返すため心筋細胞のみならず,間質には線維芽細胞や血管内皮細胞,血管平滑筋細胞などが存在する。特に心筋細胞の増殖能は出生後急激に低下し,成体では障害後に心筋細胞の自己再生に期待することは困難である1)。したがって,多数かつ多種の細胞から成る心臓の細胞を補填する目的の再生医療においては,およそ10億個程度の移植細胞数が必要であり,また移植細胞の効果的な生着や機能の保持には組織工学的手法を用いて組織移植することが必要とされる。現在までのところ心臓構成細胞を質・量ともに十分に供給できる細胞ソースは多能性幹細胞のみと考えられるが,移植組織内における未分化細胞残存リスクは,移植細胞数,分化効率,未分化細胞除去効率および移植後の生着効率に依存するため,より多くの移植細胞数を要する心筋再生医療では,相対的に未分化iPS細胞残存に伴う腫瘍化リスクも高くなる。したがって,iPS心筋再生医療の実用化には,①iPS細胞由来心血管性細胞の大量培養技術,②iPS心筋組織構築技術,③iPS心筋内残存未分化iPS細胞除去技術,④心筋組織の機能評価,が不可欠であり,本稿では,これらの課題の解決による再生医療用ヒト心筋組織開発について概説する。
「KEY WORDS」iPS細胞/大量培養/細胞シート/未分化細胞除去/成熟化

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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