巻頭言
多能性幹細胞(ES/iPS細胞)の実用化を目指した学際・国際・産官学連携によるオープンイノベーション
再生医療 Vol.13 No.1, 1, 2014
山中・Gurdon両博士に対するノーベル生理学・医学賞の授賞理由としてノーベル財団が挙げたのは, 生物学の教科書を書き換えた体細胞初期化に加えて, iPS細胞(人工多能性幹細胞)が疾患メカニズムや新薬開発に貢献する可能性だった. しかしながら, マスコミ等から流される情報により国民に高まる万能細胞(多能性幹細胞)を用いた再生医療(細胞治療)への期待に応えるためには, 持続可能で多数の患者に対して手が届くコストでの再生医療の実用化が求められている. それを実現するためには, これまで以上に学際的かつ国際的な, 産官学連携によるオープンイノベーションが不可欠である. 現在, 世界各国の製薬企業はヒト多能性幹細胞を創薬に活用し始めており, 患者等の個人体質・特性に対応する莫大な数のiPS細胞株樹立計画が企業と研究機関のコンソーシアムプロジェクトとして開始されつつある. 他方, 再生医療に関しては, 米国等ではヒトES細胞を用いた「臨床試験」が開始しており, 国内ではヒトiPS細胞を用いた「臨床研究」が始まりつつある. しかしながら, ヒト多能性幹細胞が本格的に医療と創薬に実用化されるためには, 既存の研究段階技術だけでなく, 実用化を目指した画期的な技術革新が必要である. 特に細胞治療が最初に少数の患者に対して成功したとしても, 多数患者の医療として実用化するためには, 治療効果の達成に加えて, 安全性や信頼性の高レベル確保, さらに高コスト削減が求められる. 筆者らは最近, このような真の実用化を目指した研究と技術開発に努力を集中している. 例えば, 多能性幹細胞株の高品質大量培養技術と, 目的細胞への信頼性の高い分化誘導技術の開発である. 特に品質安定性や低コストを実現するために, サイトカインや細胞接着蛋白質などを代替可能な, 小分子化合物やポリマーなど機能性マテリアルを開発して, 高信頼性と低コストを同時に達成するための技術開発を, 優れた技術力をもつ企業群と連携しながら進めている. 社会に役立つ幹細胞関連技術の実用化は, 大学や公的研究機関のみで達成することは不可能であり, 産業界の参加が不可欠である. 産業界との協働やグローバル連携を含めたオープンイノベーションを展開することによって, 真に社会に役立つイノベーションを大学から生み出すことが可能になる.
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