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Johnson&Johnson Innovation Award

【応用・臨床研究】細胞培養依託システムを使った,関節鏡視下自己骨髄間葉系幹細胞移植による関節軟骨欠損修復

Articular cartilage repair with transplantation of autologous mesenchymal stem cells (cultured at a different institution) under arthroscopic surgery

脇谷滋之

再生医療 Vol.10 No.3, 78-81, 2011

Summary
 To promote regenerative medicine,we developed a less invasive method of repairing articular cartilage defect using autologous bone marrow mesenchymal stem cells (BMSC) and a system that can allow cell culture to be performed under the care of another institute. We designed a protocol to create a microfracture under arthroscopy and then inject BMSC.In a hospital that does not have a human cell processing center for implantation (CPC),it is difficult to perform cell transplantation. If it would be possible to culture cells for human implantation at the CPC of another institute,cell transplantation could be performed more widely.At institutes that have CPCs but do not have enough seeds for clinical cell transplantation,this system would be helpful for such institutes to use their CPC more efficiently.We planned to culture cells from Hyogo Medical University and Osaka City University at the CPC of Medical Center for Translational Research, Osaka University Hospital.Such a system can promote the usage of CPC,and promote the development and practice of regenerative medicine in Japan.

Key words
関節内注射 骨髄刺激法 細胞培養施設 細胞輸送

関節軟骨欠損およびこれまでの修復方法

 関節軟骨損傷は自然修復が期待できず放置すると変形性関節症になると考えられる。従来,このような軟骨損傷に対する手術方法としては骨髄刺激法が行われてきた。この方法は軟骨下骨を破壊し出血させることで骨髄中の間葉系細胞を動員し修復を得る方法である。骨髄刺激法は簡便な方法であるが,線維軟骨での修復しか得られず不十分である。そこで,近年は硝子軟骨による修復を目指して自家骨軟骨柱移植法であるモザイクプラスティー,あるいは自己の関節軟骨を採取して軟骨細胞を分離培養後に損傷軟骨部に移植する自己培養軟骨細胞移植法が行われるようになってきた。両方法とも正常軟骨組織を採取して移植するため欠損が生じるという問題がある。さらに,モザイクプラスティーでは欠損部が大きいほど大量の骨軟骨柱を必要とし,対応できる欠損の大きさには限界がある。また,打ち込む骨軟骨柱の深さを一定にして関節表面の曲率を再現することの難しさ,骨軟骨柱の間隙は数年経過しても残存することが指摘されている。自己培養軟骨細胞移植法においては,移植した組織が周囲の関節軟骨や軟骨下骨との間で強固に結合するかは不明である。さらに,手術侵襲が大きいこと,あるいは修復は十分でないことなどから,現在の関節軟骨修復法は広く行われていない。
 我々は体性幹細胞の1つである骨髄間葉系幹細胞に注目してきた。この細胞は採取が容易であること,あるいは細胞増殖させた後でも分化能を維持しているという利点がある。
 以下,この細胞を利用した前臨床試験,および臨床試験を紹介する。

骨髄間葉系幹細胞移植による関節軟骨欠損修復

 骨髄液中の有核細胞はそのほとんどが血液系の細胞であり培養すると浮遊する。しかし,ごく一部の細胞は接着,増殖しコロニーを形成する。この接着細胞を継代培養すると紡錘型の細胞がほとんどを占めるようになり,骨髄間葉系幹細胞(bone marrow mesenchymal stem cells:BMSC)と呼ばれる。BMSCをコラーゲンあるいは多孔性セラミックスに入れて免疫不全動物の皮下に移植すると,骨軟骨を形成することから,骨軟骨前駆細胞が存在することが明らかになった。さらにこの細胞から脂肪,筋肉が分化誘導されることが報告された。これらの4つの組織はいずれも間葉系由来の組織であるために,この細胞が間葉系幹細胞と呼ばれる。1999年,BMSCから,内胚葉由来である肝細胞,外胚葉由来である神経細胞が分化誘導されること(分化転換)が報告され,間葉系のみならず,あらゆる組織再生の細胞源として注目されている。この細胞の利点は,自己細胞を局所麻酔で採取することが可能であり容易であること,および細胞の分化能を維持したままin vitroで細胞を増殖させることが可能であることである。そのため臨床応用が容易である。骨,軟骨の再生のみならず,皮下組織,神経,大血管の内皮,心筋梗塞部の再生,末梢循環障害の時の小血管再生促進など,さまざまな応用が考えられている。
 BMSCが骨軟骨に分化することから,我々は関節の骨軟骨欠損修復に有用ではないかと考え,家兎自己BMSC移植による関節軟骨欠損修復の実験を行い,1994年,良好な関節軟骨欠損修復が得られることを世界で初めて報告した1)。BMSCは自己細胞を増殖できること,採取時に組織損傷を伴わないことから臨床応用が可能であり,我々は,1998年,世界で初めて自己BMSC移植による関節軟骨欠損修復臨床研究を行った2)。その後,約40例に施行し,良好な臨床成績を挙げられ,しかも安全であることを報告した3)-6)。
 以上の自己BMSC移植に関する臨床研究により,関節軟骨欠損修復が促進される可能性が明らかになった。しかし,従来法では,関節切開により関節を展開して移植するためには手術侵襲が大きい。臨床においてより一般的な治療法として確立することを目指すにあたっては,手術侵襲の小さい方法により移植が行われることが望ましい。
 AgungらおよびNishimuraらは動物実験で自己BMSCの関節内注射で関節軟骨損傷修復が促進されることを報告した7)8)。そこで今回,より手術侵襲の小さい,関節を切開せずに関節鏡視下手術で移植する方法の開発を計画した。具体的には,関節鏡視下に骨髄刺激法を施行し,同時に自己BMSC関節内注入を行う。今回のプロトコル治療は,我々がこれまでに行った2つの臨床研究と比較して,患者に与える不利益が小さい(骨髄液採取,末梢血400mL採血,および関節鏡手術の侵襲のみ)。また,ラットの実験系でも,骨髄刺激法+自己BMSC関節内注入により正常軟骨とほぼ同様の修復軟骨が得られ,組織学的スコアにおいても骨髄刺激単独と比較して有意に良好な再生が得られている。以上から,臨床研究で実施が可能であると判断した。この方法の前臨床試験は有効性・安全性が証明されているが,ヒトの関節軟骨修復への有効性・安全性を評価するには臨床研究が必要である。この方法の有効性が明らかになると,低侵襲関節軟骨法の開発につながり,関節軟骨修復の普及,企業治験,さらには事業化につながると考えられる。わが国のみならず,世界各国で広く用いられる,安全で汎用性の高い関節軟骨再生治療法となる可能性がある。

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