河岡(司会) お忙しいところありがとうございます.今日は,情報の錯綜している新型コロナウイルスについて,本当のところを西村先生にじっくりうかがっていきたいと思います.
早速ですが,まずこのウイルスが空気感染するのか,エアロゾルなのか飛沫感染なのか,それについてご意見をお聞かせください.
西村 長い時間空気中に漂って長距離を移動するようなものだけが空気感染だとする向きが多いですが,実際はそうではありません.結核,麻疹,水痘が空気感染の定義のように思われていますが,それでは逆定義であり,専門家とする人たちも間違っていることが多いのです.空気感染とは,単に「空気に乗って感染する」というだけの意味です.
河岡 air borne transmissionで括れますからね.
西村 はい.water borne,blood borneと同じで,何に乗っているかというだけの定義なので,距離や時間の規定はないわけです.また,飛沫か飛沫核かという議論も,定義的には空気に乗っていればすべてエアロゾルです.ですから粒子に注目すればエアロゾル感染ですし,乗って運ぶ媒体をみれば空気感染です.シンプルな話なのです.
また,空気感染というととても多くの人が感染するような恐ろしいイメージがありますが,それは初期の量の問題です.たとえば,かつて旧ソ連の細菌兵器工場であったように多量にばら撒かれれば大勢罹患しますが,濃縮されて多量にあるような状況でない限り,出どころの近くにいなければ感染はしません.
もう1つ,手のひらに蛍光塗料を塗っておいてウイルスはこんなに広がりますというのもよくありますが,ウイルスはそんなにいません.スーパーコンピュータの『富岳』で飛沫の飛散も計算していますが,あのすべてがウイルスではありません.ウイルスはポツンポツンといるだけなのに,それを言わずにあれを見せて空気感染だと言えば,それはみんな恐がりますから,きちんとした説明が必要です.