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地域のパンデミックプランニング

第28回 アンケートから浮かび上がる流行期の地域社会の姿

─家庭はどのように考え,行動したか─

清水宣明

インフルエンザ Vol.12 No.3, 93-99, 2011

 これまで,下御糸小学校における新型インフルエンザ(A/H1N1(2009)pandemic)の流行の全体像を児童の発症ダイヤグラムによって知り,そこから学級閉鎖というひとつの感染制御手段の効果について考察しました.この小学校の流行は,インクの染みが連続的に広がっていくようにではなく,「感染のつながりの糸が現れては消える」ことのくりかえしによって進行したらしいことがわかっていただけたと思います.

 インクの染みのようであれば,制御対策は小学校という特定の空間に限定して考えることができますので,そこに厳格な感染管理手法を持ち込んで,流行を「制圧」することも可能かもしれません.しかし,なかなかそうはいかないようです.インフルエンザは,なにも児童のなかに「湧いて出る」わけではないからです.児童は「学校以外の場」でインフルエンザウイルスに感染し,それを学校に持ち込んで広げます.それも,「くりかえし,くりかえし」です.逆にいえば,児童が「学校以外の場」で感染しない限り,小学校における流行はありません.つまり,児童の流行の「発生」を支配しているのは「学校以外の場」であり,小学校はその「展開の場」のひとつだということです.
 それでは,児童が感染する「学校以外の場」とは,なんでしょうか.それは,児童の家庭を含む「地域社会」です.「地域社会」とは,物理的にも精神的にも比較的緊密な人間関係から構成される空間をいいます.子どもたちは,この「地域社会」でインフルエンザウイルスに感染し,それを学校に断続的に持ち込むことで「流行」という現象を作り出します.インフルエンザは地域社会の感染症なのです.ですから,小学校のインフルエンザ感染制御のためには,学校内だけでなく,地域社会の流行の姿を知り,そこでの制御方法を考える必要があります.
 地域全体の流行の様子をくわしく知ることができればよいのですが,最初からそれは難しいので,本稿ではまず学校外での児童の人間関係の中心である家庭に目を向けてみましょう.

1 児童の家族の感染防御を考える

 下御糸小学校に子どもを通わせる家庭は,下御糸地域の全戸数の約17%です.下御糸小学校では,新型インフルエンザの流行終息後に全学年の児童の家庭を対象としたアンケートを実施し,流行期間中に家族が何をどのように考え,行動し,そして何が起こったのかを調べました.これも,発症ダイヤグラムの作成と同じように,「自分たちの流行の姿」を知るための取り組みです.アンケートは主質問50問,副質問を入れて合計約100問からなり,多くは5つ以上の答えから選択(複数回答可の設問あり)する形式としました.PTA役員,明和町の行政と教育委員会などによる内容確認と実施承諾をいただいたあとに,学校長が児童を通じて家庭に配布しました.なお,アンケートの回収率の関係で,結果と実際の児童の罹患率とのあいだに若干の違いが生じることをご了承ください.

1.年齢別罹患状況

 下御糸小学校の学区は古くからの地域であることもあって,児童の約半数が三世代家族です.新型インフルエンザの流行では,年齢層によって罹患率に大きな差があった可能性が指摘されていますが,下御糸小学校の児童の家庭でも,その特徴が現れました(図1A).

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