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診断(インフルエンザ)

新型インフルエンザのウイルス分離とPCR検査

川上千春百木智子七種美和子熊崎真琴宇宿秀三

インフルエンザ Vol.12 No.3, 37-45, 2011

 2009年の新型インフルエンザの発生時には,その時々の目的に応じてインフルエンザウイルス検査が行われた.発生初期には,流行状況の迅速な把握や感染拡大の早期探知のためにリアルタイムPCR検査が,また,流行期に入ってからは,重症化およびウイルスの性状変化,薬剤耐性株の監視のためにウイルス分離培養検査が実施された.これまでの季節性インフルエンザウイルスと同様,ウイルス分離検査では感染性を保持するための諸条件が必要であり,具体的に記載した.また,TaqMan® Probe法を用いたリアルタイムPCR検査について紹介し,それぞれの特徴を述べた.目的や状況に応じて検査法を組み合わせることが大切である.

KEY WORDS
■新型インフルエンザウイルス検査 ■分離培養検査 ■リアルタイムPCR検査 ■プラーク培養法 ■TaqMan® Probe法

はじめに

 2009年春,21世紀初の新型インフルエンザ(A/H1N1pdm09)ウイルスによるパンデミック流行が始まった.検疫所では水際作戦・封じ込め作戦が実施される一方1),発熱外来からの疑い症例患者に対し,地方衛生研究所は確定診断のためのPCR検査を担うことになった2).その後,国内発生初期においては,流行状況の迅速な把握・感染拡大の早期探知を目的にPCR検査によるウイルス遺伝子検索が3)4),流行期に入ってからは重症化およびウイルスの性状変化の監視,薬剤耐性株を検知するためのウイルス分離を中心とする検査が行われた5)-7).
 新しいA/H1N1pdm09ウイルスの病原性については初期の段階で不明な点が多く,PPE(personal protective equipment:個人防護具)を装着し,BSL(バイオセーフティレベル)3施設で検体前処理を行うという物々しさで,約3カ月間実施し24時間検査体制6時間以内の結果判定を求められた.これまでの成績では,臨床検体からのインフルエンザウイルスの検出感度は分離培養検査とnested-PCR検査がほぼ同等であったが8)9),新規に導入したリアルタイムPCR検査と比較検討する時間もなく,検査に追われたのが地方衛生研究所の現状であった.ブタ由来インフルエンザウイルスの増殖性や赤血球凝集(HA)活性など,これまでの季節性インフルエンザウイルスとどう異なっているのかとても興味深く,横浜市衛生研究所では早い段階からPCR検査と平行して分離培養検査を進め,通常の分離培養法でウイルスを捉えることができた10).この項では当衛生研究所における臨床検体からのインフルエンザウイルス検査法を具体的に紹介し,A/H1N1pdm09の検査成績や基礎検討について記載する.

1 インフルエンザのウイルス分離

 臨床検体を目的としたヒトインフルエンザウイルスの培養は,1970年代初めまでは孵化鶏卵を使用していたが,飛田ら11)のイヌ腎臓尿細管上皮細胞由来MDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞を用いた培養法が紹介され普及している.当所では1975年冬季よりMDCKを用いた細胞培養を開始し,現在まで継承されている.ヒト結腸癌由来Caco-2細胞やアフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来Vero細胞でも分離可能であるが,分離までの時間がMDCK細胞より遅く,かつHA価が低い傾向がある.ヒト肺胞上皮癌由来A549細胞はレセプターの特異性や宿主遺伝子の発現などインフルエンザ感染研究において広く用いられているが12)13),臨床検体からの分離は良好ではなかった.

1.ウイルス分離用の輸送培地と保存
 ウイルス培養は臨床検体中に感染性が保たれているウイルスを含むことが絶対条件であり,インフルエンザウイルスをいかに失活させずに培養できるかがポイントである.そのため,分離の成績は検体採取から輸送培地の組成,検体の保存条件,細胞接種までの時間,採取検体によって左右される.輸送培地はEagle’sのMEM培地を基礎培地として,エンベロープを保護するウシ血清アルブミン(BSA)を加えて,抗菌薬と抗真菌薬を添加したものを使用している(表1).

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