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基礎(インフルエンザ)

インフルエンザ脳症の発症機序

─遺伝子多型解析が解き明かす発症基盤─

木戸博千田淳司山根一彦荒木光

インフルエンザ Vol.12 No.3, 23-30, 2011

 インフルエンザ脳症は,インフルエンザ感染による脳の血管内皮細胞膜の異常な透過性亢進によって出現した重篤な脳浮腫の病態と捉えることができる.ハイリスク患者の発症基盤が,遺伝子多型解析と血管内皮細胞の研究から解明されつつある.脳の血管内皮細胞はエネルギー代謝の活発な細胞で,そのエネルギー源の約70%は脂肪酸代謝に依存している.インフルエンザ脳症に罹患して重症化する患者のなかには,長鎖脂肪酸代謝酵素carnitine palmitoyltransferaseⅡの熱不安定性遺伝子多型が集中していることが判明した.感染によって誘発された血管内皮細胞のエネルギークライシスが,脳浮腫発症の重要な基盤になっていると考えられる.

KEY WORDS
■インフルエンザ脳症 ■サイトカイン ■遺伝子多型 ■血管透過性亢進

はじめに

 インフルエンザ脳症は,乳幼児がインフルエンザに感染して39~40℃の高熱が続いたあと,突然幻覚,意識障害などの中枢神経障害と重篤な脳浮腫をともなって発症する致死性(10~30%)の高い疾患で,後遺症も20%近く報告されている1)2).発症は日本人の小児で特に多く報告され,コーカサス人種では少ないことから,数年前までは日本人の遺伝的背景が発症に深くかかわっていると推定されてきたが,最近では中国を始めアジアの国々での報告が増加して遺伝子多型解析も進んでいることから,東アジア人種の遺伝的背景が関係していると推定される.これらの解析を通して,病態についての本質的な疑問に答える必要がある.①なぜ小児に発症して,大人でみられないのか.②サイトカインの関与が示唆されるが,脳症を導くその具体的なメカニズムは.③インフルエンザ以外のHHV6, アデノウイルスによる脳症と違いがあるのだろうか.④炎症性細胞の浸潤が脳症でみられないのはなぜなのか.これまでの研究からいくつかのなぞが解かれつつある.

1 インフルエンザ感染重症化の基盤

 インフルエンザ感染による重症化,具体的には肺水腫,脳浮腫,多臓器不全の病態には,血管膜の透過性亢進が背景にある.インフルエンザウイルスが最初に感染する気道における生体応答を図1に示す.

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