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インフルエンザ講座

(39)細胞培養法による新型インフルエンザワクチンの開発

横内正人

インフルエンザ Vol.12 No.2, 68-72, 2011

SUMMARY
 従来の孵化鶏卵培養法に代わり,細胞培養法を用いた新型インフルエンザワクチンの開発が進んでいる.動物細胞(Vero細胞,MDCK細胞,PER.C6細胞)と昆虫細胞(SF9細胞,expresSF+細胞)が主に用いられており,それぞれの開発ステージにおいて安全性と忍容性が確認されている.新型インフルエンザワクチンの有効性の指標となる免疫原性評価では高い免疫原性を示すことが要求されるため,細胞培養によるワクチン原液の高生産性を生かした接種抗原量の増加やアジュバントの添加による免疫原性の強化が図られている.近い将来,さまざまな細胞培養法による十分量のワクチンが製造され,利用可能となるワクチンの選択肢も増えていくことが期待される.

KEY WORDS
■新型インフルエンザ ■細胞培養ワクチン ■臨床開発

はじめに

 1918年のスペインかぜ(H1N1)に始まり,アジアかぜ(H2N2),香港かぜ(H3N2)と,人類は20世紀に3回のインフルエンザパンデミックを経験した.スペインかぜの際は,全世界で5億人以上が罹患し,推計で死者5,000万人の大惨禍をもたらしたとされる1).また,2009年の4月以降,メキシコで新しいH1N1インフルエンザが発生し世界的な流行をみせ,世界保健機関(WHO)よりフェーズ6の警報が発せられた.本邦においても「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」第6条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症に指定され,感染の拡大を防ぐべくさまざまな対応が取られている.
 このような世界情勢のなか,東南アジアを中心に発生した高病原性鳥インフルエンザAウイルス(H5N1)の家禽への感染は,その後制圧されることなくユーラシア大陸,アフリカ大陸に蔓延し,ヒトへの感染も引き続き報告されている.WHOの集計によれば,2010年12月時点でのべ510名が感染しその約6割が死亡するなど2),高病原性鳥インフルエンザAウイルス(H5N1)によるパンデミック発生は人類にとって重大な脅威である.この脅威に対応するため,本邦では「新型インフルエンザ対策行動計画」3)において基本的な対応方針が策定されており,そのなかで「新型インフルエンザによる健康被害を最小限にとどめ社会・経済を破綻に至らせないためには,新型インフルエンザワクチンの役割が重要であること」,「パンデミックワクチンについては,新型インフルエンザの発生後,直ちにウイルス株を入手し,全国民分の製造を開始する必要性があること」などの指針が示されている.
 このように,新型インフルエンザワクチンはインフルエンザパニックに対して人類が採り得る対策の柱を担うものであるが,従来の孵化鶏卵を用いた培養法では製造工程が煩雑でワクチン供給までに時間がかかり,また,確保された鶏卵数によってワクチンの製造量が左右されるため,パンデミック発生時のワクチン製造方法としては十分に需要を満たせない.こうした背景から,現在,細胞培養法による新型インフルエンザワクチンの開発が世界的に進められている.細胞培養法は鶏卵培養法の弱点をカバーし,安定的かつ迅速なワクチン供給を可能とする有用な方法である.
 本稿では,細胞培養法による新型インフルエンザワクチンの開発状況について,WHOのIVR(Initiative for Vaccine Research)ホームページ情報(http://www.who.int/vaccine_research/en/)および米国国立医学図書館が提供する治験情報(ClinicalTrial.gov)に基づき紹介する.

1 動物細胞培養法による新型インフルエンザワクチン

 国内あるいは海外で開発されている新型インフルエンザワクチンの多くは,動物細胞を用いて製造されている.主に用いられている細胞は,Vero細胞,MDCK(Madin-Darby Canine Kidney)細胞,PER.C6細胞であり,いずれもウイルスの培養装置として孵化鶏卵の代わりに動物細胞を用いたものである(表1).

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